第54話 妖精を捕まえた少年

「や、やめろっ! 放せよっ!」


 妖精を捕まえた小学校高学年といった感じの少年を連れ、先ずはソフィアたちの元へと戻る。


「アメリア。改めて確認するが、妖精の捕獲は禁止されているんだよな?」

「はい、その通りです。違反すると、捕まってしまいます」

「という訳だ。その網の中に居る妖精を今すぐ逃すんだ」


 あくまで冷静に話しかけると、少年が口を尖らせる。


「そんな事言って、アンタたちだって僕が捕まえた妖精を狙っているんだろ!」

「今の話を聞いていたか? 妖精を捕まえる事は禁止されているんだぞ?」

「そんなの建前だろ。皆やってる事だし!」

「皆がやっているかどうかは知らないが、だからといって君がして良いという話にはならないな」


 暫く話をしてみたが、全く話を聞こうとせず、隙を見ては逃げだそうとする。

 もちろん逃したりはしないが。

 だがそんな状況で、ソフィアが強引に少年の網から妖精を逃す。


「あっ! やめろって! 妖精に傷が付いたら、値段が下がるだろっ!」

「今よっ! 逃げてっ!」

「あぁっ! そんなっ! ……捕まえるのに五日も掛かったのに!」


 ソフィアが網を広げ、そこから妖精が逃げだしたので、


「≪スロウ・ヒール≫」


 コズエの力を使い、捕らえられた時に付いたと思われる、妖精の傷を治しておいた。


「……ありがとう」


 妖精が小さく呟き、何処かへ姿を消すと、少年が泣き崩れる。


「あぁぁぁ……僕の妖精が」

「君のではないだろ」

「うるさいっ! これで、やっとお母さんの薬が買えると思ったのにっ!」

「え? どういう事だ?」


 少年が気になる事を言ったので話を聞くと、少年の母親が病気で寝込んでいるらしい。

 父親はおらず、幼い妹もいるそうで……


「わかった。先程見たと思うが、俺は治癒魔法を使う事が出来る。母親の症状を見せてくれ」

「見てどうするんだよ。知ってるぞ! その杖、初級魔法しか使えないんだろ」

「初級の治癒魔法なら、もう使って貰ったけど、殆ど意味なんて無かったんだっ!」

「……俺のスキルで、初級の治癒魔法以外も使えるんだよ」

「……本当? 騙してない?」

「大丈夫だ」


 少年に疑いの眼差しを向けられながらも、話を聞いてしまったので、ソフィアたちに謝り、母親を治しに行く事に。

 元々は、ソフィアの為に綺麗な泉へハイキングへ来たつもりだったんだけどな。

 泉から、イーナカ村へと反対方向へ暫く歩くと、小さな村が見えてきた。


「あそこに僕の家があるんだけど……本当に悪い人じゃないよね?」

「パパは、そんなひとじゃないもん!」

「お兄ちゃんが、悪人な訳ないでしょっ!」


 少年の言葉で怒ったウルたちを宥めつつ、少年の家へ。


「おにーちゃん! おかえりなさーい!」

「ただいま」

「おにーちゃん。そのひとたちはー?」

「えーっと、治癒師さん……かな?」


 ウルよりも少しだけ大きい女の子が、俺たちを見て困惑していたので、少年の言う通り、治癒師だと伝えると、


「おかーさん、びょーきなおるのっ!?」

「先ずは症状を見てからだけどね」

「おねがしますっ! おかーさんをなおしてくださいっ!」


 深々とお辞儀する女の子の頭を撫で、大丈夫だよと伝えながら、寝室へ。

 これでダメだったらかなり辛いので、村長さんも治せたし大丈夫のはず……と自分に言い聞かせながらついていくと、痩せ細った女性が静かに眠っていた。


「コズエ……大丈夫だよな?」

「たぶんねー。見た感じ、病気というより栄養不足じゃないかなー?」

「なるほど。とりあえず、治癒魔法を使ってみようか」


 小声でコズエと話した後、小杖を手にして、早速魔法を使用する。


「≪スロウ・ヒール≫」


 コズエの力を使った状態での治癒魔法は、女性を目覚めさせ、


「あら? ……あの、貴方たちは?」

「お母さんっ! 良かった! 良かったよー!」

「おかーさーんっ! あのね、このひとが、なおしてくれたのー!」


 少年と女の子がすぐに抱きつく。


「おそらくですが、栄養失調というか、栄養のある食事が取れていないのかと」

「お恥ずかしながら、主人が蒸発してしまいまして、あまり食べる物が……」

「お母さんっ! 僕が働くよっ! だから安心して!」


 なるほど。とりあえず、乗りかかった船だしな。


「ソフィア。持って来たお弁当、ここで出しても良いか?」

「はい。お兄ちゃんの、そういうところ……ソフィアは大好きですっ!」

「ウルも、パパだいすきー!」


 ソフィアとウルに抱きつかれ、アメリアに微笑みかけられながら、本当は泉で食べるつもりだったサンドイッチの入ったバスケットを空間収納から取り出す。


「テーブルをお借りしても良いですか? よければ、ご一緒に……」

「え? よ、よろしいのでしょうか?」

「えぇ。元々ハイキングで食べるつもりだったのですが、多く作り過ぎていたので」


 バスケットはアメリアが後ろ手で持っていた事にして、皆で食べる事にした。

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