第53話 ソフィアへのご褒美
穏やかな日差しの中、草原の中をウルに合わせてゆっくり歩いて行く。
のんびりと草の香りを楽しみながら、時々現れるバッタに驚くウルの様子を見て和む。
「パパー!」
「はいはい、おいでー」
バッタに驚き過ぎたのか、それとも歩くのが疲れたのか、ウルが抱っこを要求してきたので、優しく抱きかかえる。
少しだけ歩くペースが速くなり、ソフィアとアメリアと一緒になだらかな丘を上ると……着いた!
「ソフィア。ついたよ! ここが目的地の泉だよ」
「わぁ……素敵。お兄ちゃん、ありがとう! ソフィア好みの凄く綺麗な場所だよー!」
「だよな。ソフィアの事はよく分かっているつもりでいたけど、間違って居なくて良かったよ」
ソフィアが初めてお店で頑張ってくれたお礼という事で、村から少し離れた場所にある、とても綺麗で雰囲気の良い泉へ連れて来た。
ここは、家具屋さんが沢山買ってくれたお礼に……と、教えてくれた癒しスポットだったりする。
クララの異空間収納にシートとサンドイッチ、紅茶を収納しているので、ここでティータイムにしても良いかなと思う。
「わー! パパ、きれー!」
「こんな場所があったんですね。知らなかったです」
「そうだよな。俺も教えてもらって知ったんだけど、凄く良いよな」
ウルと出会った森とは別の森に遮られ、村からは見えない事もあって人も居ない。
とても綺麗で幻想的な場所となっていた。
「パパ、みてー!」
「ん? 凄いね。大きな蝶だな」
ウルが指し示した先に目をやると、少し離れた馬車で、俺の掌よりも遥かに大きそうな蝶が花から花へとヒラヒラ飛んでいた。
日本の感覚で言うと、有り得ないくらいの大きさだけど、田舎だし、異世界だし、ああいう蝶も居るのだろう。
ただ、念のため確認はしておくか。
「……アメリア。あそこに見える大きな蝶って、魔物ではないよな?」
「え? 違いますよー。あれは妖精さんです。私も見だ事があるのは数える程ですけど」
「妖精!? な、なるほど」
うん。思っていた以上に異世界だった。
いや、魔物が現れるんだから、妖精が居てもおかしくはないか。
街から出ると魔物が出るとは実家にいた頃から聞いていたが、それだけではないんだな。
「お兄ちゃん。ソフィア、妖精は初めて見た」
「そうだな。俺もだよ」
「凄く綺麗だねー」
少しずつ妖精に近付いて来たのだが、改めて見てみると、コズエくらいの大きさの女の子に、大きな蝶の羽が生えている。
なるほど、これが妖精か。
「……そういえば、コズエやナギリは羽が無いのに、どうやって飛んでいるんだ?」
「あの妖精と同じだよー。風魔法で飛んでいるんだー」
「トーマ君。一応、言っておくと、あの妖精の羽は空を飛ぶのには関係ないわよ。むしろ、邪魔なくらいね」
ふとした疑問を小声で呟いたら、即座にコズエとナギリが教えてくれたのだが……まぁ魔法が使えるのなら、魔法を使うよな。便利だし。
それにしても今見てみると、妖精が背筋を伸ばし、凛とした様子で飛んでいるようにも見える。
もしかして、ソフィアの言った、綺麗だという言葉を理解しているのだろうか。
最初はちょっとダルそうに、飛んでいたのに。
そんな事を考えながら、視線を泉に向け、何か棲んでいるのだろうかと、澄んだ水を眺めていると、
「あぁっ! お、お兄ちゃんっ! 妖精さんがっ!」
突然ソフィアの声が響き渡る。
何事かと思って見てみると、小学生くらいの男の子が、虫取り網で妖精を捕獲していた。
「な、何するのっ!?」
「やったぁ! 妖精捕まえたっ! そっちのアンタたちも狙っていたみたいだけど、これは僕が捕まえた妖精だからなっ! 絶対に渡さないぞっ!」
「……やっぱり人間族って最低ね」
妖精と思われる悲しそうな声と、少年の声が聞こえてきたかと思うと、俺たちとは反対方向へ逃げていく。
見た事ない少年なので、おそらく別の村の子供だろう。
「アメリア。妖精って捕まえて良いのか?」
「ダメですよっ! 少なくとも、イーナカ村というか、ハイランド領では禁止されてますっ!」
「わかった。少し待っていてくれ」
そう言って、ナギリの力……包丁装備時の敏捷性向上を使用すると、少年が逃げて行った方向へ走り、あっさり捕まえた。
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