第51話 ソフィアとウルの居る朝

 翌朝。いつも……という程ではないが、今朝も寝ぼけたウルに口を舐められて目を覚ます。


「あぁぁぁっ! ちょっ!? お兄ちゃぁぁぁんっ!」

「ん? おはよう、ソフィア。どうしたんだ、朝から」

「どうしたんだ? じゃないわよっ! い、今……ウルが、ウルがお兄ちゃんの口を舐めたっ!」

「あー、食べ物の夢でも見ていたんじゃないか? 時々あるんだよ」

「時々っ!? お兄ちゃんに抱きついている時点でズルいのに、じゃあソフィアもっ!」


 いや、どうしてそうなるんだよ。

 とりあえず、ソフィアが顔を近付けて来たので、ウルを抱きかかえたままベッドから降り、一緒に顔を洗う。


「ぱ、パパー! つめたーい!」

「ごめんごめん。はい、もう大丈夫かな?」

「うん……パパ、おはよー!」


 ウルの顔をタオルで拭いてあげると、眠たそうだったウルの顔が、いつもの笑顔に……いやまだ少し眠そうか。

 ソフィアの声で起こされちゃったからな。


「お兄ちゃん。ソフィアにおはようのキスはしてくれないのですか?」

「いや、今までもそんなのした事ないだろ」

「でも、さっきウルと……」

「あれをおはようのキスとは言わないだろ」


 よく分からない事で怒るソフィアを宥め、早速朝食を作ると……うん。ソフィアが何も言わなくなった。

 無言で顔を綻ばせ、作ったサンドイッチを食べてくれている。

 うん。ウルのには塗って居ないが、街で購入したマスタードが効いていて良いな。


「あ、お兄ちゃん。ミルクはある?」

「あー、すまない。さっきウルのコップに注いだので最後だ」

「むー……仕方ありませんね。出来れば毎日飲みたいのですが」

「朝食を済ませたら、後で買いに行こうか。この村の中に乳牛が居るから、凄く新鮮で、物凄く美味しいぞ」

「へぇー! じゃあ、アレにも効果があるかな? ……毎日ミルクを飲んでいるのに、中々大きく育ってくれないんだけど」


 ソフィアが小声で何か呟いていたのは聞こえなかったが、昔から牛乳は良く飲んでいたもんな。

 確かソフィアが十歳になった頃だったかな?

 お友達に凄い秘密を教えて貰った! って言って、これからは牛乳を毎食出すようにとメイドさんたちに言って困らせていたのは。

 まぁカルシウムが取れるし、健康には良さそうだよな。

 ……そうだ。アレが作れるかもしれないな。

 思う所があるので、ウルを着替えさせると、早速三人で酪農場へ向かう。


「お兄ちゃん。まだ朝早いと思うけど、ミルクが買えるんですか?」

「大丈夫だと思うよ。というか、村の人たちは皆朝が早いからね。これくらいの時間なら、全然早く無いよ」


 ウルの歩く速度に合わせ、ゆっくり進み……到着した。


「あら、トーマさん。それと、ウルちゃんにソフィアちゃんだったかしら」

「えぇ、そうです。あの、牛乳を買いたいのですが」

「はいはい。どれくらい必要かしら?」

「そうですねー。では、このビンを五本程」

「あらあら。うちは構わないけど、こんなに飲める? 牛乳は割と早く傷んじゃうわよ?」


 酪農家のオバさんが心配そうに見つめて来るけど、日本と違って殺菌とかもしていないだろうし、本当に日持ちしないのだろう。

 俺もクララの異空間収納があるから五本――五リットルも買うけど、そうでなければ流石に無理だな。


「大丈夫です。牛乳を使ったデザートを作ろうと思っているので」

「なるほどねー。わかったわ。また完成したら教えてね。トーマさんのお店に行けば食べられるのかしら?」

「そうですね。すぐにという訳にはいきませんが、何日した後にお出しするかと思います」

「それは楽しみね。じゃあ、またお店に行くわねー!」


 オバさんに挨拶し、五本の牛乳を抱え……周囲に人が居ない事を確認して、異空間収納へ。


「お兄ちゃん。今の、便利過ぎよね」

「あぁ、そうなんだ。でも、便利過ぎて悪用されかねないから、秘密にな」

「ん? どういう事?」

「例えばだけど、俺が危ない爆弾とかを異空間収納に入れてお城とか行くだろ? 兵士たちは俺の身体検査をするだろうけど、そこでは絶対に見つからず、お城の中でいきなり爆弾を爆発させたり出来てしまうからな」

「お兄ちゃん!? そんな事、しちゃダメだからっ!」

「いや、しないってば。例えばの話だよ」


 要は俺自身がそんな事をしようとは一切思わないが、悪い奴に俺が脅され……例えば、ウルやソフィアを人質に取られてやらざるを得ない状況にされてしまうかもしれないからな。

 ただでさえ、スキルを複数使えるという特異なスキルを持っている訳だし。

 ……という話を簡単にソフィアへ説明し、納得してもらった。


「念の為に言っておくけど、俺のスキルの事は父さんにも言っちゃダメだからな?」

「うん、大丈夫だよー! それより、搾りたてミルクってどんな味なのかなー?」


 ソフィアの興味が牛乳に向いていて、若干不安だが……妹を信じる事にしよう。

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