挿話7 ハイランド家のメイド、セシル

「この度は誠に申し訳ありませんでした」

「……貴方に非がある訳ではないだろう。悪いのは貴族殺しと呼ばれる、例のアサシンだ。我がラングトン家の総力を挙げて、世界の何処に居ても探し出してやる」


 ソフィア様の婚約者、ラングトン家のフランクりン様が殺され、ご主人様と共にすぐさま謝罪しに行ってきた。

 とりあえず、ラングトン公爵様がまともな方で良かった。

 物凄く怒っていたけど、それを八つ当たりでこちらへぶつけるような人でも無かったし。

 その一方で、私が仕えるご主人様――ハイランド公爵様は、


「クソッ! どうして、こうも事が上手く進まんのだ! ……おい、ソフィアは未だ見つからんのかっ!?」


 馬車へ戻るや否や、イライラを私にぶつけてくる。

 ソフィア様の捜索は別の方が担当していて、私は直接関与していないから、知るハズもないのに。


「まだ見つかって居ないと聞いております」

「くっ! どいつもこいつも……そうだ。あいつとの子を跡継ぎに……いや、魔力は低そうだしな。ならば、魔力の高い平民を見つけ、今から私の跡継ぎを産ませれば……」


 いや、ご主人様はもう五十歳に近いですよね?

 で、どうせ十代後半の若い女性が良いとか言い出すんでしょ? ぶっちゃけ気持ち悪いんですけど。

 貴族が正妻以外に子供を作っているのはよくある話なので、今更驚かないけど……私の前でそんな話をブツブツ言わないで欲しいなぁ。


「……お前は顔が良いから、魔力があれば私の子を産めるチャンスだったんだがな」

「それは、とても残念でございます」


 うわぁぁぁっ! もう無理っ!

 辞めるっ! この人の下で働くのは無理っ!


 エルフなのに魔法が使えないという落ちこぼれの私を、先代の公爵様が雇ってくださって、しかも人間族に偽装するマジックアイテムまで買ってくれた。

 その恩義があるから、ここで三十年働いていたけど、もう良いでしょ。

 最近の若いエルフは、たった三十年で仕事を辞める……なんて言われるけど、無理なものは無理っ!

 あと少し頑張ったら、トーマ様が新しいご主人様になるから、そうしたら色々改善されるって思っていたけど、この変態バカ公爵が追い出しちゃうしっ!


 もう辞める決意をしたので、可愛く笑みを浮かべず、終始無言で馬車に座っていると、長い時間の末に、馬車が停まる。


「お帰りなさいませ、ご主人様」

「うむ。何か変わりはないか?」

「ご主人様。こちらを」

「これは……ソフィアからの手紙っ!? ……モリーノ村に向かっているだと!? どうしてそんな所へ?」


 モリーノ村!? それって、私の――エルフの森がある近くじゃない。

 もちろん、人間族は知らないでしょうけど。


「まぁ良い。とりあえず、誰かモリーノ村へ行って、ソフィアを連れ戻すのだ! そうだな……セシル! お前が行ってこい」

「へ? わ、私ですか?」

「あぁ。何だ、さっきの馬車での対応は! 私が声を掛けても無視しおって! かなりの長旅になるから、反省しながら行くのだな」


 あ、やっぱり露骨にし過ぎたか。

 けど、モリーノ村へお仕事で行けるという事は、旅費や生活費に、そのモリーノ村へ滞在している期間中もお給料が出るっていう事よね?

 ソフィア様の事は一応探すけど、とりあえず、お給料をもらいながら、里帰り出来るなんて……最高よっ!

 ご主人様が気持ち悪くて辞めようと思っていたけど、もう少し居ても良いかな。


「申し訳ありません。ソフィア様の事を案じておりました」

「む? そ、そうか。それはすまない。早とちりだったか。ならば、誰か別の者をモリーノ村へ……」

「お、お待ちください。いくらソフィア様の事を案じて居たと言っても、ご主人様のお言葉を聞き逃していたのは事実です。私が責任を取って、モリーノ村へ向かわせていただきます」

「そ、そうか。わかった。では、ソフィアの事はセシルに任せよう。頼んだぞ」

「畏まりました」


 わーい! 久々に実家へ帰省だー!

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