第49話 トーマの好物

 夕食の準備が粗方済んだところで、ソフィアがお風呂から出て来た。……出て来たんだが、どうしてそんなに顔が真っ赤なのだろうか。


「ソフィア。大丈夫か? お湯の温度が熱かったのか?」

「え? だ、大丈夫だよ?」

「そうか? でも、入っていた時間が短いわりに、顔が真っ赤にのぼせているんだが」

「あー……と、とにかくソフィアは大丈夫だから、心配しないでね」


 そう言って、ソフィアがアメリアの近くに行く。

 いつの間にか二人が仲良くなっていたのは嬉しい事だが、それにしてもソフィアが俯きがちで、俺から顔を逸らすのはどういう事だろうか。

 兄として、ちょっと悲しいんだが。

 まぁソフィアも年頃だからな。突然、兄離れしたくなる事もあるだろう。……いささか急すぎだとは思うけど。


「さて、今日の夕食は……こういうものを作ってみたんだ」

「わー! パパー、いーにおいー!」


 作った料理を皿に移してテーブルの上に起くと、まだ香りだけだが、ウルは気に入ってくれたようだ。

 一方のアメリアとソフィアは、不思議そうな目を向けている。


「トーマさん。変わった香りですが、これはパスタ……ですよね?」

「麺類ではあるけど、パスタではないんだ。まぁ食べてみてよ」

「この前にいただいた、ウドンはスープがありましたけど、これは無いですし……何でしょう? すっごく気になりますっ!」


 アメリアは、目をキラキラさせて置かれた皿を見つめているが、俺の料理を食べた事のないソフィアはかなり困惑しているようだ。


「パスタに似てるけど、そうじゃない……色がかなり濃いもんね。それに全然知らない香り。あと、野菜が沢山入っていて、お肉も入っている……のかな?」

「まぁとりあえず、食べてみてよ。俺が昔好きだった料理なんだ」

「昔? という事は、家で出た食事ですか? こんなの見覚えがありませんが……」

「いや、もっと昔なんだよ……うん、旨いっ!」


 俺が日本で生活していた頃、近所で祭などがあったら必ず買っていた食べ物だ。

 このソースの味と香りで、無限に食べられそうだよな。

 あと、絶対に忘れてはいけないのが、この紅ショウガだ。

 いや、色は赤く無いんだけど、街へ行った時にショウガが買えたから、これはもう作るしかないだろと。


「これは、焼きそばっていう料理なんだ」

「パパー、おいしー!」

「だろー? 俺の好きな食べ物の一つなんだー」


 美味しそうに食べるウルの頭を撫でていると、アメリアもクルクルとフォークで巻いた焼きそばを口へ運ぶ。


「あ、美味しいですっ! この前のウドンは優しい味でしたけど、こっちはついつい沢山食べたくなっちゃう味ですね」

「そうだな。けど、野菜や肉も入っているから、栄養もある程度バランスは良いんだぞ」


 美味しそうに食べる俺たちを見て、ソフィアもフォークを口へ運び、目を丸くする。


「お、お兄ちゃんっ! 何なのこれはっ!? メチャクチャ美味しいよっ!?」

「うん。このイーナカ村で取れる野菜を使っているから、凄く新鮮なんだ。だから、こんなに美味しく出来るんだよ」

「……というかソフィアとしては、一度も料理している所を見た事が無いのに、こんなに美味しい料理が作れるお兄ちゃんにビックリなんだけど」

「作りたかったけど父さんが許してくれなかったからな」

「あー、パパはちょっと古い人だからねー。もっと柔軟に生きれば良いのにー」


 父さんか……久しぶりに思い出したけど、確かに硬い人というか、貴族っていうステータスにしがみ付いているような人だったな。

 俺を家から追い出し、ソフィアも家を出て、子供が二人共居なくなった家で自らを省み……たりするような人だったら良かったのだが。

 一瞬、父親の事を思い出してテンションが下がってしまったが、ウルが綺麗に焼きそばを食べ終えたので、デザートを出してあげる事に。


「でざーと?」

「あぁ。アイスクリームっていうんだ」

「わー、すごーい! つめたーい!」


 予め作っておいたアイスクリームを、冷蔵庫から取り出すフリをしながら、異空間収納から取り出す。


「と、トーマさんっ! な、何ですか!? そのアイスクリームっていうのはっ! 私も食べたいですっ!」

「お兄ちゃん! ソフィアもっ! あ、でも、この焼きそばも美味しいし……後で、ソフィアにも出してねっ!」


 ソフィアは口が小さいから、焼きそばを中々食べきれず……出した量が少し多かったかもな。

 ちょっと反省しつつ、ちゃんと二人にもアイスクリームを出してあげた。

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