第48話 叫ぶソフィア

「た、ただいま……」

「お兄ちゃん、ありがとっ!」

「あ、あぁ。ソフィアが元気そうで何よりだよ」


 村の端の方から家まで、ウルを抱っこしながらソフィアをおんぶして戻って来た。

 ウルは俺の腕の中でウトウトしていたけど、ソフィアがメチャクチャ元気そうに見えるのは気のせいだろうか。


「ウル、どうする。ベッドで寝るか?」

「ううん……パパといっしょがいい」

「んー、夕食までは少し時間があるし、俺も少し汗を掻いたから、先にお風呂へ入ろうか」

「うん。おふろ、はいる」


 という訳で、早速一番大きな鍋に水を入れ、お湯の準備をしていると、突然ソフィアが飛び跳ねだす。


「お、お風呂! お、お兄ちゃん! ソフィアも! ソフィアもご一緒して良いですよねっ!?」

「え? いや、残念ながらそれは無理かな」

「えぇっ!? ど、どうしてですかっ!? ママに禁止されていましたけど、今なら一緒に入り放題なのにっ!」

「ソフィアは実家の風呂を想像していると思うが、この家の広さは、実家のソフィアの部屋より狭いだろ? 俺とウルが一緒に入るだけでギュウギュウだよ」

「くっ! な、ならばソフィアとお兄ちゃんが一緒に入れば……」

「ウルが一人でお風呂に入るのは無理だってば」


 何故かソフィアのテンションが急激に下がり、ベッドにポフンと顔を埋める。

 今のはそこまで落ち込む話だったのか?

 何か声を掛けようかと思い、ウルを抱っこしたまま近付くと、ソフィアがプルプルと身体を震わせる。


「ソフィア、大丈夫……か?」

「……はぁぁぁっ! 久々のお兄ちゃんの匂いっ! さっきおんぶしてもらった時は、胸を押し付ける事ばかり考えてしまったけど、もっとクンカクンカしておくんだったぁぁぁっ!」

「え?」

「え? ……お、お兄ちゃぁぁぁんっ! い、今のは何でもないんですっ! 何でもないったら、何でもないんですぅぅぅっ!」


 よく分からないが、元気そうなので良しとしよう。

 何故か、ソフィアが部屋の隅で三角座りをしているが、一人になりたい時もあるのだろうし、その間にウルと風呂へ。

 しっかり湯船に浸かって温まったので、ウルの身体を洗いながら遊んであげる事に。


「ウル、見てごらん」

「わー! すごーい! パパ、おっきいー!」

「ふっふっふ、凄いだろー! あ、待った! ウル、それは触ったら……」

「んっ! ……パパー、なにかくちに、はいったー!」


 泣きそうになっているウルの口をお湯ですすいでいると、突然風呂場の扉が開く。


「お、お兄ちゃんっ! ソフィアが居ながら、小さな子になんてモノ……を?」

「ウル、大丈夫か? 飲んじゃダメだからな?」

「あの、お兄ちゃん? 本当に何してるの?」

「え? 何って、ウルの口に石鹸の泡が入ったから洗い流しているんだが?」


 先日街へ行った時に買った石鹸を早速使い、身体を綺麗に洗った後、大きなシャボン玉を作ってあげた。

 だが初めて見るからか、ウルが思いっきり触って割れてしまったんだけど……何故ソフィアは顔を真っ赤に染めて怒っているんだ?


「……せっかく混ぜてもらおうと思ったのに」

「いや、だから三人で入れる程広くないってば」

「うぅぅ……お兄ちゃんのバカーっ!」


 えぇ……どうして今ので俺が怒られるんだ?

 とりあえずウルも大丈夫だったので、泡を綺麗に洗い流し、再び湯船に浸かったら、脱衣所へ。

 扉が少しだけ開いているのだが……先程、ソフィアが出て行った時に締め忘れたのか?

 それより先に、ウルが風邪をひかないようにタオルでしっかり身体を拭いて、パジャマに着替えさせ、俺も着替えを終えて扉を開くと……


「あ! あはは……お、お兄ちゃん。お風呂どうだった?」

「え、えーっと、トーマさん。お邪魔してます」


 何故かソフィアとアメリアがドアのすぐ傍に居て、固まっていた。


「アメリア。すまない、いろいろあって、これから夕食の準備なんだ」

「だ、大丈夫です。ごちそうさまでした」

「え? まだ何も作っていないのだが」

「な、何でもないです! それより次はソフィアさんがお風呂へ行かれるのですよね? 私、夕食のお手伝いします」

「いや、今日はアメリアをもてなしたいから、座って待っていて……何なら、ウルと遊んで居てくれると助かる」

「はいっ! ウルちゃん、お姉ちゃんと一緒に遊びましょうねー!」


 アメリアが逃げるようにしてウルの所へ行き……一方のソフィアも、大急ぎで脱衣所へ。

 何があったのかは分からないが、とりあえず夕食を作ろうか。

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