第46話 ソフィアとアメリア

「あー、妻みたいに面倒見が良いって事かな? ソフィアは家に居た頃、朝はベッドまで来て起こしてくれたり、風呂で身体を洗おうとしてくれたり、寝る前に俺のベッドに入って布団を温めてくれたりしていたんだ」

「へ、へぇー、ソウナンデスネ」

「あ、俺が頼んだ訳じゃないからな? 朝に起こしてくれたのは有難かったけど、流石に風呂やベッドへ一緒に入る年齢では無いと思うしな」


 アメリアが何をしているんだ!? って感じの表情になっていたので、慌てて誤解を解こうと試みる。

 第一、俺は日本でオッサンだった頃の記憶を持っているから、ソフィアと一緒に風呂へ入っても、娘のようにしか思えなかったしな。

 もちろんウルも同じだが。


「トーマが朝起きられないのは、昔からだったんだねー。いつも、私とナギリで起こしているもんねー」

「そうね。でも、トーマ君はなかなか起きないから、お姉ちゃんとしては色々出来て嬉し……こほん。トーマ君の朝の弱さには困ったものよねー」

「そうそう。あー、でも流石に寝ぼけたウルちゃんに顔を舐められた時は、トーマも起きたよねー」


 俺の傍でコズトとナギリが話しているが、コズエの発言はともかく、ナギリの言葉が気になるんだが。

 俺が寝ている間に、変な事をしていないだろうな?

 物凄く突っ込みたいが、二人の姿はソフィアに見えて居ないから、一人で変な言動をしているみたいになるし、止めておくけどさ。


「あ、あの、トーマさん。ちなみに、妹のソフィアさんと一緒にお風呂へ入っていたというのは、何年前くらいのお話しでしょうか?」

「え? 二年前……くらいか?」

「二年前という事は、十歳くらいでしょうか? まぁそれくらいなら許容範囲ですね。……良かった。それくらいなら、ソフィアさんも変な事を考えていませんよね……」


 アメリアがいつものように小声で何か呟いているが……もしかして、この世界では妹と一緒に風呂へ入るなんて変態だ! と思われてしまうのだろうか?

 当然ながら、変な事は一切考えていないのだが……俺が異世界転生しているなんて言えないし、どうしたものだろうか。


「お兄ちゃん。ママにダメって言われるまでだから、二年前じゃなくて去年――ソフィアが十三歳の誕生日を迎えるまでだよー」

「えっ!? ソフィアさんって、十四歳!? しかも、十三歳までトーマさんと一緒にお風呂へっ!?」

「ふふん。お風呂はママにダメって言われたけど、お兄ちゃんのベッドに忍び込んで居たのはバレてない……もとい、ダメって言われて居ないから、ずっと一緒に寝てたもん」

「くっ! で、でもそれなら、私だって同じベッドで寝た事がありますから、別に……」

「なっ!? ぐぬぬ……あ、そうだ! ねー、お兄ちゃん! ソフィアを、お兄ちゃんの家に住まわせてー。いいでしょー?」


 ソフィアとアメリアが意味不明な話をしているな……と思ったら、唐突にソフィアが甘えて来た。

 ソフィアの感情の変化が激し過ぎて、大丈夫か? と、少し心配になるけれど、昔からソフィアはこんな感じだったか。


「それは構わないんだが、そもそもソフィアはどうしてイーナカ村へ来たんだ?」

「もちろん、お兄ちゃんと一緒に暮らす為だよー! だって、授かったスキルが凄くなかったからって、それだけで家を追い出されるなんておかしいもん!」

「いや、まぁスキルに関しては置いとくとして……ソフィアはどうやってここまで来たんだ? 父さんや母さんは知っているのか?」

「えーっと、馬車に乗って来たんだけど……その、し、知らないかなー」

「ダメだろ。それじゃあ、今頃家……というか、街が大騒ぎになっているんじゃないのか!?」

「あ、違うの。この村に居る事は知らないって意味なの。途中の街で、お兄ちゃんの所へ行くって手紙を出したから、きっと大丈夫だよー!」


 そう言って、ソフィアが大丈夫! と笑顔を浮かべるけど、母さんは俺の居場所を知っているはずだから……いずれ、この村にハイランド家の手の者が来るかもな。

 まぁ先日のフランクリンみたいな事にはならないだろうし、大丈夫か。

 おそらく、執事とかメイドさんとかが迎えに来るはずだから、それまではソフィアを家で預かるか。


「わかった。とりあえず、仕事も終わったところだし、ソフィアのベッドや毛布を買いに行くか」

「わーい、ありがとー! ……って、お兄ちゃん。お仕事って、何をしているの?」

「あぁ、ご飯屋さんだ。家で食べさせてあげる事が出来なかったけど、実は料理が得意なんだよ」

「そうなんだー! お兄ちゃんの作る手料理、ソフィアも食べたいよー!」

「じゃあ、今日の夕食にな」


 そんな話をしながら、ひとまずソフィアの荷物――大きな旅行鞄を家に入れたところで、


「と、トーマさん! 私も……私も、夕食をご一緒させていただいても宜しいですか?」

「あぁ、もちろん。アメリアにはいつもお世話になっているからな。是非来てくれ」

「えぇっ!? 久々のお兄ちゃんとの再会なのにーっ!」


 アメリアも夕食を食べに来るという話になったんだが……どうしてソフィアは、再び不機嫌になったのだろうか。

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