第43話 後始末

 アメリアを無事助けだしたのだが、残されたのは高そうな馬車に、フランクリンの亡骸と、倒れた冒険者たちとレオン。

 流石に人が亡くなっているので、このまま逃げるという訳にはいかないだろう。

 今からイーナカ村へ戻るには時間がかかり過ぎるので、ナギリの力を使い、アメリアとウルを抱きかかえたまま大急ぎでトオーク村へ。

 村に自警団があったので、事情を話して来てもらった。


「これは……ラングトン公爵家のフランクリン様!? た、大変だっ!」


 駆けつけた自警団の男性が言った通り、ここからが本当に大変だった。

 大きな街から騎士団が来て、事情聴取だとか、情報の裏取りだとか……数日間、村に拘束される事になり、日中帯は騎士団へ。夜は宿の一室に三人で泊まらされたので、物凄く気まずいしさ。

 いや、ウルはいつも通りだから良いんだけど、流石にアメリアはマズいって言ったんだけど、騎士たちはこっちの言い分なんて聞いてくれないし。

 まぁ公爵の息子が亡くなっているから、それどころでは無かったんだろうけどさ。


「あ……トーマさん。そんな所を触ったら……」

「え? 俺は何も触っていないんだけど……」

「で、でも……あ、この手の小ささはウルちゃんでした」


 とりあえず、ベッドが一つしかない部屋はダメだって。

 ウルが俺と一緒じゃないと寝ないって言うから、俺だけ床で寝るっていう手が使えず、アメリアを床で眠らせる訳にもいかないし、こんなやり取りを毎晩する事になってしまっていた。

 そして、数日経った後、


「えー、皆さんの証言と冒険者ギルドへの依頼履歴や、被害者が殺害された手段などから、今回の件はあの悪名高いアサシン、ジェーンの仕業と断定されました」


 ようやく解放され、イーナカ村へ帰れる事に。

 ちなみにジェーンとは、あの女冒険者が使っている名前の一つらしい。

 マジックアイテムで顔を変えるし、移動系スキルで逃げるし……で、数年前から騎士団が追っているそうだ。

 唯一の手掛かりは、ジェーンが本気の時だけ使うという強大な剣で、普段は短剣を使ったり、弓矢を使ったり……とにかく大変そうだという事だけはよく分かった。


「パパー! やっとおうちに、かえれるねー!」

「そうだなー。幸い、食事は自分たちで作れたから良かったな」

「うん。パパのごはん、おいしーもん!」


 もう数日前となってしまったが、イーナカ村からトオーク村へ来た時と同じ様に、ウルと手を繋ぎ、お喋りしながら帰路に就く。


「……んー。とりあえず当面の課題は、夜にウルちゃんをどうするかですね。あそこまで密着して離れないなんて……」

「おねーちゃん。ウルがどうかしたのー?」

「ふぇっ!? な、何でもないわよー! ……あ! 見て! いつの間にか土砂崩れが撤去されているわね」


 アメリアの言葉で、視線の先を見てみると……確かに土砂が片付けられていた。

 そういえば、今回の騎士団による入念な調査で、フランクリンがかなりの悪事に手を染めていた事がわかり、手を貸して居た冒険者たちが、事情聴取の合間にやらされたとか何とかって言っていたな。

 あと、そのフランクリンの悪事によって、ラングトン公爵も責任を取らされるとか何とか。

 何をしでかしたのかは知らないが、まぁロクでもない事をしていたのだろう。

 それから暫くして、村が見え始めたのだが……村の手前に、男が一人――レオンが立っていた。

 何のつもりかは分からないが、ひとまずアメリアとウルを庇う様にして、俺の陰に隠すと、


「あの炎に囲まれた時、お前の声が聞こえた。どうやったかは知らないが、お前が助けてくれたんだろ?」

「……知らないな。だけど、歩けるようになるまで回復して良かったな。言っておくが、この件に関してこれ以上話そうとは思わないし、次にアメリアやウルへ何かしようとしたら、その時はもう許さないからな」

「あぁ。とりあえず、自分の甘さを見直す旅に出ようと思っているんだ。最後に、お前とアメリアに謝ろうと思ってさ。すまなかった」


 そう言って、レオンが深々と頭を下げて来る。

 はぁ……謝るくらいなら、最初からするな! と言いたいところだが、その言葉を飲み込み、そのまま村へ戻る事に。


「いつか、もっと成長して帰って来てみせる! その時に、改めて命を助けてもらった恩を返すからなっ!」

「好きにしてくれ」

「あぁ、じゃあなっ!」


 そう言って、レオンが真っすぐ走り出した。

 ふぅ。どうやらこれで、ようやく平穏な生活が送れそうだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る