第42話 女冒険者
左腕でウルを抱きかかえながら、右手で杖を持ち、女冒険者の襲撃に備える。
さっきはレオンと対峙している時に背後へ突然現れ、アメリアを馬車の中に連れ去られてしまった。
だけど、相手のスキル? は分かって居るし、周囲を警戒し続けている。
瞬間移動系のスキルだと思われるので、常に場所を変えながら、馬車に近付いて行くと、ゆっくりと女冒険者が姿を見せる。
「フランクリンを殺したの?」
「いや。そこにある石の壁の中に閉じ込めているだけだ」
「おい、高い金を払っているんだ! ここから出せっ! 僕を助けろっ!」
フランクリンが叫ぶと、女冒険者が大きな溜息を吐く。
「フランクリン……最初に説明したでしょ? 私のスキルは間に障害物があったら使えないって」
「そんな事は知るかっ! 何でも良い! 方法は問わないから、ここから出せっ! お前ら冒険者なんかの為に、こっちは金を払っているんだぞ!? 平民なのだから、貴族様を助けるの当然だろうがっ!」
助けてもらう側のフランクリンが、傲慢な物言いで助けを求めてくると、
「ところで、君。私と似たスキルを持っているわよね? 高速移動系のスキルを」
「……」
「ふふ。隠したい気持ちは分かるけど、馬車の中から戦いを見ていたからね。ただ、わからないのは……魔法防御を高めるスキルかな? 特別な防具を身につけている訳でもないのに、フランクリンの上級魔法を受けて、二人揃って無傷だなんて、何らかのスキル以外に考えられないのよね」
女性冒険者がフランクリンを無視して、まじまじと俺を見つめてくる。
マズい。スキルを授かれるのは、一人につき一つまでというのが、この世界の常識だ。
八百万スキルで、複数のスキルを授かれる事がバレたら面倒な事になりかねない。
「な、何の事か分からないな。フランクリンの火魔法を避けられたのは、運が良かったんだ」
「運が良かった……ね。初級魔法しか使えない、子供の練習用の小杖で石の壁を出したり、火柱を消すほどの水を出したり、瀕死の男の命を取り止めたりしておきながら?」
くっ……クララの異空間収納以外、全部バレているのか。
どうしたものかと考えていると、気付いた時には女冒険者が巨大な剣を手にしていた。
自分の身長くらいありそうな、長くて大きな剣を中段に構えると、そのまま真横になぎ払い……石の壁を斬った!?
「がはっ! い、一体何が……お、おい。僕を、助け……」
「うるさい! 無駄に上から目線の貴族なら、良く居るから平気だけど、その気持ち悪い変態っぷりには吐き気がするのよっ! 人の胸ばかり見て!」
「……」
フランクリンが大量の血を流し、もう何も言わなくなった。
今ならまだ、コズエの力を使って治せるかもしれないが……ウルがずっと俺の胸に顔を埋めて居るから、この惨状を見ていないし、治す義理もない。
それに、フランクリンのすぐ側に女冒険者が居て、到底近付けない。
「ねぇ、とりあえずこれで、私の事は見逃してくれないかしら。この変態公爵から、貴女の恋人? も守ったし。あの少女は馬車で眠っているだけだし、指一本触れさせて居ないわ」
「……見逃す、とは?」
「そのまんまの意味よ。私を逃してくれれば良いわ。今は貴方と戦いたくないのよ。勿論、フランクリンを殺したのは私。貴方が濡れ衣を着なくても良いわ。……そうね。あっちで寝転がっている冒険者たちに聞けば、私の事は知っているでしょうし、証言もしてくれるでしょ」
視線に釣られ、俺が風魔法で吹き飛ばした冒険者たちに一瞬目を向けると、女冒険者の姿が消える。
「しまった! ……って、逃げたのか?」
暫く警戒していたけど女冒険者は現れず、一応フランクリンにコズエの力を使った治癒魔法を掛け……何の効果も無かった。
「流石に亡くなった人を生き返らせる事は出来ないかな」
「あ、いや。一応、やってみただけだから。それより、アメリアだ」
馬車の中を覗くと、アメリアが座席で横たわっている。
「アメリア、大丈夫か!? アメリア!」
「ん……トーマさんっ! 助けてくれたんですねっ! ありがとうございますっ!」
ウルだけでなくアメリアからも抱きつかれる事になってしまったけど、フランクリンが公爵家の者だとしたら、面倒な事になるな。
少しゲンナリしながらも、アメリアが無事だったので、とりあえず良しとする事にした。
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