第41話 フランクリンのスキル
突如、目の前に生まれた火柱が、火の粉を撒き散らしている。
何が起きたのか暫く理解出来ず、
「ぱ、パパー!」
ウルの叫び声で我に返った。
「≪アクア・クリエイト≫」
コズエの力を借りて水を生み出すと、火柱に向かって大量の水を注ぎ……消し止めた。
「≪スロウ・ヒール≫」
「うぐ……」
レオンが炎に包まれてから、迅速に対応したからか、ひとまず命は助かったようだ。
……まぁその、村長の時よりもヒールの効果を落としたのだが。
そんな事を考えて言えると、
「へぇ。最強の僕の火魔法を、水魔法で掻き消すなんてね。君、面白いね。僕が直々に相手をしてあげるよ」
馬車の中から声が聞こえ……やたらと派手な服を着た、太った男が出て来た。
おそらく、こいつが冒険者たちの雇い主なのだろう。
「おい! お前がレオンを燃やしたのか!?」
「だったら、何だ? ゴミを燃やして何が悪いんだ?」
「いや、それは好きにすれば良いさ。だが、ウルの前で火魔法を使い、怯えさせたのは許さんっ!」
目の前で火魔法によりレオンが燃やされ、人が燃える臭いなのか、光景なのか……何れにせよウルが怯えている。
正直な所、レオンがどうなろうと知った話ではないが、ウルに目の前で人が亡くなる所なんて見せたくないからな。
身体を小さく震わせながら、俺の胸に顔を押し付けてくるウルを、ギュッと抱きしめていると、太った男が口を開く。
「なるほど、やはり獣か。火が苦手というのは良い事を知った。そこのお前、選ばせてやろう! 父娘まとめて殺されるのと、娘だけは僕の……ラングトン公爵家のフランクリン様専属メイドとして生きていくのと、どちらを望む?」
「ウルは、自分で自分の生きる道を選ばせるっ! 赤の他人であるお前に決める権利はないっ!」
「愚かだな。僕の所へ来させれば、娘は死なずに済むというのに。まぁどっちにしろ、お前は殺すけどな」
そう言って、フランクリンと名乗った男が杖を構えたが、黙ってやられてたまるかっ!
ウルを抱きしめたまま、ナギリの力を使って加速し、フランクリンの杖を蹴り飛ばす。
とりあえず、杖が無いから魔法は使えない。
あとは、公爵家だというこいつをどうするか考えていると、
「≪クリムゾン・フレア≫」
杖を持たないフランクリンが俺に向かって掌を突き出し……突然視界が真っ赤に染まった。
「ふはははっ! 杖を奪えば魔法を使えない……普通はそう思うよなぁ! だが僕は、杖を持たなくても上級魔法が使える『ダイレクト・マジック』のスキルを授かっているんだよっ!」
ニヤニヤと笑みを浮かべるフランクリンを無視して、燃え盛る火柱から慌てて飛び出ると、ウルが火傷をしていないか確認……って、どこも焦げてすらいないな。
俺も、どこも熱くないし、服や杖なんかも燃えたりしていなさそうだ。
しかし、さっきフランクリンが俺に向かって使ったのは、レオンが死にかけていた魔法だけど……あ! ウルの力か。
俺とウルが触れ合っている時は、炎による攻撃が無効になるんだった。
……危ないところだった。ウルが俺から離れずにいてくれたおかげで、燃えずに済んだ。
改めて、ウルの頭を撫で、火柱の向こう側の様子を伺う。
「しかし、せっかく何でも出来る幼女ペットが手に入ると思って、こんな田舎まで来たのに無駄足だったな。まぁでも、そこそこ僕好みの少女が手に入ったから良しとするか。……そうだ! このレオンとか言う男を、人さらいとして騎士団に突き出しておいてくれ」
「畏まりました」
「ふふ……これからは、こうすれば良いんだ。僕好みの少女や幼女が居たら、無能な平民を人さらいって事にして、屋敷へ連れ帰る……人さらいに拐われた女の子なんだから、何をしても許されるしな」
赤やオレンジの色が不規則に揺れる視界の中で、フランクリンとアメリアを連れ去った女冒険者が話している様子が見える。
その内容は、到底許せるような話ではない!
「≪ストーン・バレット≫」
油断しまくっているフランクリンに向けて、威力を少し落とした石の壁を飛ばす。
「ふごぉっ! な、何だっ!? ……お前、どうして僕の魔法が効いていないんだっ!?」
「お前のふざけた企みは、潰させてもらう! ≪ストーン・バレット≫」
それから何度か石の壁を飛ばし、フランクリンを石の壁で閉じ込める。
とりあえずフランクリンを無効化したから、残るは女冒険者だ。
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