第44話 一件落着?

 走り去ったレオンを振り返る事なく、そのまま村へ。

 まずはアメリアを家に送り届けると、村長さんに事情を説明する事に。


「村長さん、すまない。アメリアの事なんだが……」

「おうおう、トーマさんよ。いや、これからはトーマと呼ばせてもらおう! アメリアと数日間のお泊り旅行……とりあえず、結婚式はどこで挙げる? この村には教会なんてものは無いから、街へ行くか?」

「……いや、あの、村長さん? 何を言っているんだ?」

「ん? アメリアとトーマの結婚式の事だ。村人全員総出で祝いたいところだが、畑で作物の面倒を見ないといけなかったり、牛や馬を飼っている者も居るからな。何処か二人の思い出の場所とかないか?」


 あー、これはつまり、数日間もアメリアを引っ張り回したのだから、責任を取れという事か。

 しかし、俺とアメリアはそういった関係ではないからな。

 そもそも、俺たちも巻き込まれた側だし。

 このままではアメリアに迷惑が掛かってしまうので、何とか話を逸らさなければ。


「そうだ。さっきレオンとすれ違ったぞ。何でも旅に出るらしいな」

「あぁ。村から追放したからな。朝に騎士が来た時は何事かと思ったぞ。俺はせっかくアメリアとトーマがイチャイチャでラブラブな旅行をしていると思っていたのに、まさか騎士団に拘束されていたなんてな」

「なんだ、ちゃんと知っていたのか。俺たちが不当に拘束されていた……って、ちょっと待った。レオンは村を追放されたのか!?」


 格好良く、成長して帰って来る……的な事を言っていたのに、実際は村から追い出されただけかよっ!

 何て言うか、僅かにでも心の中で頑張れよって思ってしまった俺の心を返して欲しい。


「隣のラングトン公爵領は、少し前から獣人族を排除しようとしているんだが、レオンがその公爵家の中でも、特に獣人族嫌いだと言われているフランクリンを呼びつけたらしいんだ。ここはハイランド公爵領――要はトーマの領地だから、フランクリンとかいうクソ野郎の言う事なんて聞かなくても良いのに」

「あー……それで、待ち伏せするかのような場所に、フランクリンたちが居たのか」


 変なところに馬車が居るなと思ったのだが、俺たちを……というか、ウルを狙っていたのか。


「……って、ウルを!? レオンめ、許せんっ!」

「あぁ、その通りだ。だから村から追放したんだ」


 ちなみに、村長のところへ話をしに来た騎士によると、レオンはフランクリンに通報しただけであり、騎士団として捕らえることは出来ないらしい。

 今回はウルもアメリアも無事だったから良いものの、二人に何かあったら……いや、そんな事が万が一にも起こらないように、二人を守らないとな。


「で、話を戻すが、二人の思い出の場所とかは無いのか? もしくは希望とか。例えば海の見える白い教会が良いとかさ」

「私はトーマさんと一緒なら、どこでも……というか、お父さん!? そもそも話が飛躍し過ぎよっ!」

「はっはっは。だが、そうは言うが、日は早い方が良いだろう? いずれ孫も生まれてくる事だし」

「い、いつかはね」

「いつかって、あと十か月しかないだろ。早く式を挙げておかないと……え? アメリア? そのリアクションはどういう意味だ? いや、だって結構な日数があった訳で。その間、同じ宿だったんだろ?」

「同じ宿どころか、同じベッドだったけど……」

「だったら……え? あー、同じベッドにウルちゃんも……むぅ。うぅーん。これは困ったな。早急に何とかしなければ! とりあえず、式は延期だな。あ、中止じゃないからな? あくまで延期だからな?」


 村長とアメリアがこそこそと何か話し……よく分からないが、結婚式の話題は終わったようだ。

 とりあえず、事情も伝わっているようなので、ウルと一緒に家へ。

 久々に家へ帰って来たので、まずは……やっぱり風呂だな!

 トオーク村の宿には風呂が無くて、宿の裏手の井戸で身体水で流す事しか出来なかったからね。


「……はぁ。やっぱり風呂は良いなー」

「きもちいーねー!」

「お、ウルもわかるか? この風呂の良さが」

「うんっ! パパといっぱいくっつけるから、すきー!」


 いや、それは浴槽が狭いだけなんだが……流石にこれ以上の拡張は家の広さ的に難しいんだよな。

 そんな事を考えながら、翌日から再びランチ営業を再開し、無事に元の日常へ戻る事が出来た。

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