第39話 待ち伏せ

「トーマさん、見てください。ほらこれなんて、可愛いですよね」

「なるほど……確かに可愛いな。良く似合いそうだ……よし、買おう」

「流石、トーマさんです! ありがとうございますっ!」


 馬車で街へ着くと、早速アメリアと店を回り、ピンク色のリボンを買った。

 ちなみに、ウルに着けるリボンなのだが、本人がまだ眠って居るので、起こすのも可哀想という事で、完全に俺とアメリアの意見だけで購入しているが。


「……こっちはアメリアに似合いそうだと思うんだが」

「わ、私ですかっ!? と、トーマさんがそう仰るのなら、買っちゃおうかな」

「それなら、俺に買わせてくれ。これも、俺からのプレゼントの一つという事で」

「えっ!? わ、わゎゎ……あ、ありがとうございますっ!」


 アメリアが綺麗なブローチをチラチラ見ていたのに気付いたので、そっちも買っておいた。

 うん。毎日店を手伝ってもらっていて、プレゼントが手彫りの熊っていうのは微妙だもんな。

 それなりにプレゼントっぽい物が選べて良かった。

 それから、今度は市場的な場所へ行き、調味料や食材なんかを買っていく。

 調味料はかなり種類が少ないが、それでも村には無い調味料が沢山買えたし、海草類が買えたのが嬉しい。これでダシが取れるからな。


「しかし、やっぱり米は無かったな」

「この前に仰っていた作物ですよね? 王都とかまで行けばあるかもしれないんですけど、流石に遠すぎますからね」


 王都か。

 どれくらいの距離かは分からないが、いつか行かなければな。

 最悪、苗とかが帰るのであれば、自分で作っても良いしね。

 まぁ料理が専門だから、流石に米作りはした事がないけど。


「トーマさん。流石にちょっと買い過ぎちゃいましたね。配達を頼まないと……」

「あ、いや。実はスキルで解決出来るんだ」

「え? そうなんですか? ……って、あんなに沢山買った品物が消えたっ!?」

「うん。結構便利なスキルを授けてもらってさ」

「ひゃー。トーマさん、やっぱり凄いですね」


 アメリアには八百万スキルの事を話して居るのでまぁ良いかと思い、人気の無い路地裏で異空間収納スキルを使い、大量の荷物を格納する。

 アメリアなので大丈夫だとは思うが、念の為に他言無用だと言って、帰路へ。

 乗合馬車でトオーク村へ着いた時には、ぐっすり眠ったからか、ウルが物凄く元気になっていた。


「パパー、ウルあるく」

「わかった。けど、疲れたらすぐに言うんだぞ」


 元気になってのは良いけど、迷子になっても困るので、しっかり手を繋いでイーナカ村への道を歩いていると、前方に豪華な馬車が停まっていた。

 おそらく、何処かの貴族とかなのだろう。

 俺の実家――ハイランド家にあった馬車もあんな感じだったしな。

 ひとまず面倒な事にならないよう、無視して通り過ぎようとしたのだが、何処かで聞いた事のある声が響き渡る。


「フランクリン様、ご覧ください! 奴です! あの男です!」

「ふむ……なるほど。確かに獣人の幼女と手を繋いでいるな。かなり懐いているようではあるが……あの男が父親で、向こうの女が母親なのか?」

「いえ。あの女は私の婚約者なのです。それを、あの男がかどわかしたのです!」


 馬車の陰から姿を現したのは、先程の声の主レオンで……って、何を言っているんだ?

 俺がウルの父親なのはその通りだが、アメリアをかどわかした……って、そんな事はしていないんだが。


「わかった。冒険者たちは、あの男を殺せ。獣人の父親で、更に他人の婚約者に手を出すとは。あぁ、そうだ。くれぐれも、獣人の子供は殺さぬように。僕のペットにするからな」

「……承知」

「ペットねぇ……いや、何でもありませんぜ。さて、高い金を貰っているからな。そこのアンタには悪いが、娘を置いて死んでくれ」


 は? 冒険者? 俺を殺す? 他人の婚約者に手を出しただなんて、濡れ衣もいいところだが、それよりも何よりも……だ。

 ウルをペットにする?

 俺の聞き間違いでなければ、よりによってウルに手を出すつもりなのか?

 だが、冒険者と呼ばれていた五人の男たちが、それぞれ剣や槍を構える。

 どうやら聞き間違いではなさそうだ。

 ……絶対に許さないからな!

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