第38話 ピクニック
「ピクニックー! ピクニックー!」
店を休みにして朝から出発したのだが、俺と手を繋いだウルが、街道を嬉しそうに歩いている。
隣のトオーク村への道が未だに土砂で半分埋まったままなので、馬車ではなく徒歩になるのだが、思いの外大丈夫そうだ。
「ピクニック! つまりこれは、デー……こ、こほん。トーマさん。き、今日は天気が良くて良かったですねー!」
「え? ちょっと曇っているんだが」
「あ、あれ? えっと、えっと……あ! ここ、トーマさんと初めて会った場所ですよね」
「あー、そうだったな。あの時はアメリアが無事で本当に良かったよ」
この辺りで、大きな熊に襲われているアメリアを助けたんだよな。
初めてコズエの力を使い、それからナギリも力を授けてくれて、ウルにクララ……と四つもスキルを授けて貰ったんだ。
あの話を聞かない父親のせいで家を追放されたけど、そのおかげでアメリアやウララに会えた訳だし、良かったと言えば良かったのかもしれない。
そのまま雑談をしながら暫く歩き……土砂崩れの所へやって来た。
「コズエ。この土砂は流石に何とか出来ないか」
「うーん。周囲の地形を変えても良いなら……」
「……ちなみにどんな手段なんだ?」
「大きな岩を飛ばして、土砂を吹き飛ばすか、強風で土砂をどこかへ運べば何とか。ただ、どちらも土砂が何処へ飛んで行くか分からないけど……」
「……何処へ行くか分からないのは流石にダメかな」
ちなみに、クララの異空間収納に格納するという手段はどうかと聞いてもらったのだが、土砂という塊で格納出来る訳ではないので、土とか石とか砂とか……物凄く大変な作業になると言われたそうだ。
それからもう少し歩いたところで、良い感じの石があったので昼食を食べる事に。
「アメリア、ウル。お弁当を作って来たんだ」
「わぁ、ありがとうございます」
「美味しそー! いただきまーす!」
バスケットを開けた瞬間に、ウルがサンドイッチを手づかみしようとしたので、水魔法で手を洗い、改めて皆で食べる。
「お、美味しいっ! パンで野菜やお肉を挟んでいるだけですよね? どうしてこんなに美味しいんですかっ!?」
「んー、マヨネーズを使っているから……か?」
「あ! この前の白いソースですね? なるほどー!」
それから、アメリアが持って来てくれていたフルーツを食べ、再び歩きだす。
しかし、
「パパー、だっこー!」
「あらあら。お腹がいっぱいになっちゃったから、おねむなんですね」
ウルは小さな身体なのに、サンドイッチをアメリアと同じくらい食べていたからな。
空になったバスケットをアメリアが持ってくれたので、ウルを抱っこして歩いていると……少しして寝息が聞こえてきた。
案の定と言った感じでアメリアがクスっと笑い、そこからは小声で会話しながら、トオーク村へ向かって歩き……到着した。
「トーマさん。どうせなら、街まで行ってみませんか? 売っている物の数が村とは全然違いますし、乗合馬車で行けばすぐですし」
「ここからは馬車で行けるのか。じゃあ、行ってみようか」
「はいっ! こちらです」
アメリアの案内で乗合馬車の停留所へ向かうと、見た事ある男が居た。
「ん……レオンか」
「お前……アメリアまで。一緒に何をしているんだ!?」
「食材の買い出しだが?」
「ん? という事は街へ行くのか……へぇ。なるほど。これは丁度良いな。あの御方が、馬車で行けない場所なんて……と怒っていたからな」
「あの御方?」
「うるさい! お前には関係無い。……それよりアメリア。悪い事は言わないから、俺と一緒に来ないか?」
レオンは、まだアメリアに付きまとうのか。
ガツンと言っておこうかと思ったのだが、先にアメリアが口を開く。
「レオン。私は、今トーマさんとデートなの。邪魔をしないでくれるかしら」
「なっ!? デー……くっ! アメリア、俺は忠告したからな? くそがっ!」
レオンが悪態をついて、そのまま何処かへ行ってしまった。
とりあえず、ウルが起きなくて良かったが……デートか。
今日は食材の買い出しと、アメリアへのプレゼントの参考になりそうな物を見ようと思っていただけなのだが……あ、デートっていうのは単にレオンを諦めさせる為の口実か。
危ない危ない。大恥を書くところだったよ。
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