第35話 お持ち帰り

 ナギリの力を借りているので、足を出すだけで男たちが簡単に転ぶ。

 二人目の男も逃げ出し、最初にアメリアへ殴りかかろうとした男だけが残った。


「どうする? うちの店員に謝るなら、普通に食事を提供しても良いが」

「クソがっ! ふざけんじゃねぇっ!」

「……抜いたな? なら、こっちも武器を使わせてもらう」


 今まで、ただただ転んでもらうだけだったが、男が剣を抜いたので、俺も後ろ手に持っていた物を構える。


「はっ! 料理人如きが……言ってろ! 俺は剣術のスキルを……ぐはっ! い、一体どうなって……痛ぇっ! 何だ!? お前の武器は一体何なんだ!?」

「何……って、フライ返しだが」

「はぁっ!? どうして、フライ返しでこんなに威力が……ま、待てっ! 参った! 降参だっ! 勘弁してくれ」

「なら、うちの店員と、お客様に謝ってもらおうか」

「……す、すみませんでした。……ちくしょうっ! 覚えてやがれっ!」


 男がアメリアとお客さんたちに頭を下げ……一目散に逃げて行った。

 まったく……とりあえず、フライ返しはよく洗わないとな。


「トーマさん……ありがとうございます!」

「おいおい、イチャイチャするのは店が終わってからにしろよー!」

「そうだ、そうだー! とりあえず、メシを頼む! 旨そうな匂いがプンプン漂って来て、ますます腹が減って来るぜ」


 しまった。お客さんの言う通りで、早く作らないと。

 トラブルとなってしまった事をお客さんたちに謝り、よーくフライ返しを洗ってから調理を再開する。


「パパー、だいじょうぶー?」

「あぁ、もちろんだ。ウルは、怖くなかったか?」

「うん! だって、パパがいるもん!」


 そう言いながら、ウルが調理している俺の脚に抱きついてきた。

 うん、震えたりしていないし、本当に怖くなかったのだろう。


「ウル。じゃあ、これを運んできてくれ」

「はーい!」


 焼けたお好み焼きを出していき、ウルとアメリアが接客をしてくれて……ちょっとトラブルはあったものの、再び店が回りだした。

 どんどん客がはけていき……今居る大柄な中年男性が最後の客のようだな。

 見た事ない男だが、温和そうだし、暴れ出したりはしないだろう。


「よし、焼けたっ! ウル、頼むよ」

「うんっ! まかせてー」


 そう言って、ウルがトレイに乗せたお好み焼きを運んで行く。


「おまたせしましたー!」

「おぉ、ありが……ありがとう。変わった料理だが……ほぉ。旨いな。初めて食べる味だ」

「パパがつくったのー!」

「ほぅ。お嬢ちゃんのお父さんが……店の中に居るのかな? そうだな……こんなに旨いなら、持って帰って夕食にしたいのだが、三枚弁当にしてもらう事は出来るだろうか?」

「んー、きいてくるー!」


 ウルがパタパタと走って来たので、うんうんと聞いてあげる。

 いや、お客さんもウルも声が大きいから、家の中でも聞こえていたのだが、こういうのはウルの言葉を聞いてあげるのが大事かなーと思った訳で。


「あのねー、パパのごはんがおいしーから、おべんとーにしたいんだってー! えっとねー……さんまい!」

「わかった。アメリア、雑貨屋さんで何かバスケットのような物を買ってきてくれないだろうか」

「お弁当にするんだよね? オッケー! ちょっと待っててね」


 アメリアに雑貨屋へ走ってもらい、俺は依頼された分を新たに焼き、ウルは椅子に座って焼きあがるのを待っている。

 だが暫くすると、ウルが俺のところへやって来た。


「パパー……あの、おきゃくさん。ウルのことを、チラチラみてくるー」

「ウルが可愛いからじゃないか?」

「え? そっかー。じゃあ、仕方ないねー」

「うん。けど、ウルの事が可愛い過ぎて、連れて帰る! なんて言い出さないように、お弁当を渡すときは一緒に行こうか」

「うんっ!」


 ウルをチラチラ見て来る中年男性か……まさか幼女趣味の変態だろうか。

 それとも、俺が自分で言ったように、単にウルが可愛いから……まぁ実際、凄く可愛いしな。ケモミミにカチューシャに、フリルのエプロン……好きな人はとことん好きだろうし。

 それか、旅人か何かで、故郷にウルくらいの娘が居るとか……と、勝手にいろんな事を考えていると、アメリアが戻って来た。

 可愛らしいバスケットにお好み焼きを三枚重ね、ソースとマヨネーズを多めに塗っておく。


「おじさーん、おまたせー」

「お客様、こちらで宜しかったでしょうか」

「あぁ、ありがとう……ごちそうさま。いや、本当に旨かったよ」


 男は既に食べ終わっていたので、ウルからバスケットを受け取ると足早に去って行った。

 ……なんだろう。美味しそうに食べてくれたのは良いのだが、何か引っかかる。

 そう思って、家の窓から男を遠目に眺めていると……あの三人組にバスケットを渡した!?

 あの三枚は昼食を食べ損なった、あの男たちの分か。

 何を話しているのかは分からないが、四人がこっちを見ながら何か話し……去って行った。

 本当に何なのだろうか。

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