第34話 見慣れない客

 翌朝。昨日みたく、沢山お客さんが来るかもしれないので、ウルと一緒にひたすらお好み焼きの生地を作る。

 俺は材料を切って、ウルに一人前の分量を渡すと、ウルが楽しそうにグルグルと掻き回す。

 今は冷蔵庫よりも更に凄い異空間収納スキルがあるので、幾ら作り過ぎても問題無いからな。

 ウルが疲れるか飽きるまで続けよう。

 暫くすると、ご機嫌だったウルの手が少しずつゆっくりになって来た。


「ウル、少し休憩にしようか」

「だいじょーぶ。ウル、へいき」

「……ウル。新しく作ったデザートがあるんだけど、これの試食をしてくれないかな?」

「デザート? って、なにー?」

「甘くて、プルンとした、美味しい食べ物だよ」


 デザートの話をしていると、みるみるうちにウルの表情が変わり、俺が持つ皿をチラチラ見てくる。

 早く来ればよいのに……って、そうか。こういう事か。


「ウル、おいで。一緒に食べよう」

「うんっ!」


 そう言ってテーブルに着くと、ウルが走り寄って来て俺の膝の上に座る。

 いや、隣が空いて居るんだが……まぁいいか。

 小さめのスプーンを渡して、先に一口食べて見せる。


「こうやって、すくって食べるんだ。上の黒いのと一緒に食べると美味しいよ」

「……きのうは、くろいソースからかったのに、ちがうあじー! おいしー!」

「これはカラメルって言って、色は似ているけど、昨日のソースとはまた違うんだよ」


 ウルが皿の上に乗ったプリンをパクパク食べていき……早くも完食した。


「パパ……とっても、おいしかった!」

「はは……もうちょっと食べる? 俺のが半分くらい残っているけど」

「いいの!? ありがとー!」


 ウルが目を輝かせながら俺のプリンも食べると、そのままぐてーっと、俺にもたれかかって来た。

 うん。朝からずっとお好み焼きの生地を混ぜていたもんな。

 疲れると思うよ。

 ウルが身体の向きを少し変え、俺の胸に顔を埋め……


「……すぅ」


 って、寝た!?

 どうせならベッドで寝かせようかと思ったんだけど、この体勢から立ち上がると起こしてしまいそうだな。

 流石にこの状態だと何も出来ず……俺の胸の中に居るウルを観察してみる事に。

 というのも、この大きなケモミミは前から気になっていたんだよな。

 それに尻尾もフサフサでモフモフで……今なら触り放題かもしれない。

 暫くウルの耳を観察したり、尻尾を触ったりしていると、突然扉が開かれる。


「トーマさん。こんにちはー!」

「――っ!? あ、アメリア。よ、よく来てくれたな」

「ん? あ、ウルちゃんが眠っていたんですね。ごめんなさい」

「え? い、いやいや、大丈夫だよ」


 今更ながらに、獣人族の耳とか尻尾とかを触って良かったのだろうかと、急に焦りつつ、何とか取り繕って居ると、ウルも起きてきた。


「ん……あれ? パパ……と、おねーちゃん」

「おはよう、ウルちゃん。見てー! 今日はねー、エプロンに合わせたヘッドドレスも作って来たんだー! きっとウルちゃんに良く似合う……ほらーっ! 可愛いーっ!」


 アメリアが白いフリルのカチューシャをウルの頭に着け……何て言うか、どんどん属性が足されている気がするんだが。

 いや、確かに可愛いんだけどな。


「そうだ、トーマさん。早くもお客さんが並んでますよー」

「えぇっ!? もう!? わかった。とりあえず、準備しようか」

「はーい!」


 ウルは寝起きだけど、アメリアの持って来たカチューシャが気に入ったのか、ニコニコしながらエプロンを着せてもらっている。

 それから少し早めに店を開き、今日もアメリアとウルの接客のおかげで、スムーズに店が回っていく。

 そう思いながら、ひたすらお好み焼きを焼いていると、突然外から怒声が聞こえて来た。


「何だ、この村はよぉっ! どうしてメシを食うだけなのに並ばないといけねーんだっ!? どうせ、大した料理も出さねぇくせに!」

「辺鄙な村はこれだからなー。他にメシ屋はねーのかよ!」

「おい! 早くしろよっ! こっちはこんなクソ田舎まで来てやってんだぞ!」


 いずれも聞いた事のない男の声だな。

 とりあえずウルを家の中へ入れ、外へ出ないように言っておく。

 それから、俺が対応しようとしたのだが、先にアメリアが武器を持った見慣れない三人組の男たちに話し掛けてしまった。


「あの、すみません。トーマさんの料理は凄く美味しいので、少しお待ちいただけますか?」

「あぁ!? 旨いって言っても、所詮はこんな小さな村のメシ屋だろ? こっちは毎日デカい街の旨いメシを食ってんだよ! 俺たちは、この村にメシ屋がここしかないって言うから、仕方なく来てやってんだよ! バカが!」


 そう言って、男の一人がアメリアに殴りかかり……盛大に転ぶ。


「アンタら、うちの店は食事を楽しむ所だ。あと、うちの店員に暴力を振るおうっていうなら、容赦しないぞ?」

「はぁっ!? お前、誰に物を言って――ガハッ!?」

「忠告はしたぞ? ……で、そっちのアンタはどうする?」


 二人目の男も盛大に転ぶと……三人目の男は逃げて行った。

 どうせ帰るなら、この二人を連れて行って欲しかったんだがな。

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