第32話 便利過ぎる異空間収納スキル

 村に着くと、クララに貰った異空間収納スキルを使い、家の裏手に置いていた巨大イノシシの肉を収納する。

 帰り道にコズエ経由で教えて貰った話では、この異空間収納スキルでは、生きている物を格納する事は出来ないらしいが、容量は無限大らしい。

 その上、格納中は傷んだり腐ったりする事も無いので、とにかく食材を見つけたら、異空間収納スキルへ格納するのが良さそうだ。

 とはいえ、規格外の凄すぎるスキルなので、人前で使う訳にはいかないが。

 ダミーとして、冷蔵庫に幾つか食材を入れておいた方が良いだろう。


「……ただいま」

「……あ、トーマさん。おかえりなさい」


 念の為、こっそり家に帰ると、まだウルが眠っていて、アメリアも小声で話し掛けてきた。

 結構な時間が経ったと思うのだが、どうやらウルは余程疲れていたようだ。


「……アメリア、ありがとう。良かったら、夕食でも食べていかないか?」

「……良いのですか!? トーマさんの料理は凄く美味しいですし、嬉しいです。今日はお客さんが凄かったですよね」

「……そうだな。アメリアが来てくれなかったら、どうなっていた事か」


 いや、冗談抜きで想像するのも恐ろしい。

 一人で調理をしながら料理を提供し、接客と会計をして、食器を下げたり洗ったり……ナギリのスキルがあっても大変過ぎるだろ。

 明日はアメリアが手伝ってくれると言ってくれているが、もしもアメリアが来ないとなれば、水や食器の返却をセルフサービスにしなければならない所だった。

 日本では普通にそういう店もあるが、ここでその方式が定着するかどうかも怪しいし、出来れば今のままで行きたい。


「……って、しまった。今日の昼でパンが無くなったんだった」

「……えっと、明日の分は大丈夫ですか?」

「……あぁ、それは大丈夫だよ。野菜と同じく、毎日パンを届けてもらうようにパン屋さんに依頼しているから。ただ、予備のパンまで使い切ってしまったから、多めに持ってきて貰わないといけないけど」

「……じゃあ、私パン屋さんに話して来ますよ。ついでに、今晩のパンも買ってきましょうか?」

「……いや、今晩はちょっと変わった料理を作るからパンは大丈夫だよ。ただ、明日の分はお願いしたいかな」


 アメリアと話し、明日は普段の三倍のパンを持ってきてもらう……と伝えてもらう事にした。

 幸い、今日はお客さんが大勢来てくれたし、パンは異空間収納に格納しておけば焼きたてのままだしね。

 ……って、今更だけどクララのスキルは凄いな。

 先に料理を作っておいて、空間収納から出せば出来立ての料理が出せるって事だし。

 お客さんが少なくて、調理中に余裕があったら少し多めに作っても良いかもしれないな。


「っと、それより夕食を作らないと」


 クララがくれたスキルについて考え込んでしまっていたけど、先にやるべき事をやろうと、キャベツっぽい野菜を切っていると、ウルが起きてきた。


「……ん。パパ……おはよ」

「すまない。起こしてしまったな」

「ううん。大丈夫。……ごはんつくってる?」

「あぁ。今日はいつもと違うご飯だぞ」

「……ウル、てつだう!」


 そう言って、ウルがベッドから降りてくると、キッチンに手を掛け、つま先立ちで覗こうとしてくる。

 これは幼稚園児とか小学生とかの子供が、親がやっている事に興味を持って手伝いたいと言ってくるのと同じ事か?

 とりあえず、今晩の夕食はウルも手伝い易い料理だし、やってもらおうか。


「じゃあ、ウルはこの菜箸を使って、ボールの中身をよーく混ぜて欲しいんだ」

「……わかった、まぜる」

「うん。まず、この粉を入れるだろ。そこへ水を……≪アクア・クリエイト≫。……うん、これくらいだな。ゆっくりで良いから、しっかり混ぜて欲しい」

「わかったー!」


 テーブルの上にボールを置くと、ウルが「まぜまぜー」と言いながら、楽しそうに菜箸を回している。

 そこへ卵を入れ、更に切った野菜を入れて、ひたすら混ぜて貰っている間に、俺は異空間収納からイノシシのバラ肉を取り出す。

 いや、マジでクララの異空間収納スキルは便利だな。

 ひとまず、必要な分だけ切り落として残りを格納すると、薄切りにして準備完了。


「うん、もう大丈夫だな。ウル、ありがとう」

「……おてつだいできたー?」

「あぁ、凄く助かったよ」

「……えへへー」


 嬉しそうに抱きついてくるウルの頭を撫でながら、フライパンに油と、ウルが混ぜてくれた生地を入れる。

 その上に、先程のバラ肉を乗せたら、しっかり両面を焼いて……出来たっ!


「ただいま戻りましたー!」

「おかえり、アメリア。丁度、こっちも出来たところだ」


 出来た料理を大きめの皿に移してテーブルへ。


「ウル、おてつだいしたー!」

「ウルちゃん、凄ーい! けど、見た事が無い料理ですね」

「ふふ、まぁ食べてくれ。美味しいから」


 早速アメリアとウルの分を切り分け、食べる事にした。

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