第31話 強引なコズエと新たなスキル

 巨大イノシシから距離を取ると、木々に隠れながら素早く動き、視界から逃れる。

 イノシシが俺を探すため、足を止めて周囲に目をやるが、もう俺は既に木の上に登っていた。

 さっきコズエに教えて貰った風魔法の使い方……コズエの力は、ただ初級魔法の威力を爆上げするだけではなくて、俺の望むように魔法を変化させてくれる。

 だから、この魔法も、俺の使い方次第のはずだっ!


「≪ストーン・バレット≫」


 普通に使えば、小石を飛ばすだけの魔法だが、コズエの力を使えば、巨大な岩が飛んでいく。

 だけど、今の俺が想い描いたのは、あの巨大なイノシシの分厚い皮を突き破る、貫通性のある弾。

 鋭利に尖った岩をイメージすると、槍のような形状の岩が飛んでいく。


――BMOOOOOOO!


 岩が巨大イノシシの顔に突き刺さった!

 本当は目を狙ったのだが、狙いは外れたものの、深々と岩がめり込んで居る。


「≪ハイ・ウインド≫」


 先程の風魔法で、突き刺さった岩を更に深く突きさす!

 何度か繰り返すと、岩が完全に貫通し……イノシシが倒れ、動かなくなった。


「ふぅ……何とか倒せたな」

「トーマ、凄い! こんなに巨大なイノシシを倒すなんて!」

「コズエとナギリのおかげだよ。俺だけでは絶対に勝てなかっただろうしさ。……しかし、このイノシシ。どうやって持ち帰ろうか」


 コズエと話しながら地上へ降り、巨大なイノシシを改めて見つめ、途方に暮れる。

 少しずつ籠に入れて運ぶと言っても、何往復しなければならないのだろうか。

 とはいえ、眺めていても問題が解決する訳ではないので、コズエの力を借りた水魔法で後ろ足を――大きすぎるモモ肉を得た。

 先ずは急いで村へ持ち帰り、家の裏に置いておく。


「流石にこれを盗もうと思う人はいない……よな?」


 血抜きも完全に出来ておらず、俺の身長くらいある肉片だしな。

 再び、イノシシの所へ戻り、先程は持ちききれなかったモモ肉の残りを。次はロースの部位で、その次は肩ロース、最後にバラ肉を持ち帰る準備を終えたところで、残りは地面へ埋める事にした。

 内臓系や頬肉など、食べられるところはまだあるが、当初思っていた以上に時間が経ってしまったからな。

 ウルが起きる前に終わらせたい。


「……こんなところか。大きな穴を掘るのはかなり大変だったな」

「そうだねー。こんなに沢山土に埋めちゃうなんて勿体ない気もするけど、既に持ち帰った分でさえ、食べきれる気がしないもんね」

「そうだな。料理屋をしている訳だし、衛生上腐らせる訳にもいかないしな」

「……だねー。……あっ! そうだ! トーマが凄く困っているし、誰か時間停止効果付きの異空間収納スキルを授けてくれないかなー? ちらっ」


 大きな穴を前に、コズエが誰向けに話しているのかは分からないが、どうやら凄い効果のスキルを授けてくれる神様も居るようだ。

 だが誰かは知らないけど、そのスキルを一時的に貸してくれたりはしないだろうか。


「ほら、ナギリもお願いしてみて。クララちゃんは押しに弱いから、皆でお願いすればきっと力を貸してくれるよっ!」

「……クララさん。トーマ君が困って居るんです。その力を貸してあげてくれませんか? というか、貸してあげてっ!」


 えーっと、俺にスキルを授けるには、その神様に認められないとダメなんじゃなかったっけ?

 何て言うか、コズエとナギリのごり押しな気がするんだが。

 いやまぁ異空間収納スキルが使えるようになったら、物凄く助かるのは事実だけどさ。

 要は、いくらでも荷物が収納出来て、出し入れ自由な上に、そこへ居れている間は腐ったりしないんだろ?


「トーマも、クララちゃんにお願いしてみて」

「え? えーっと、クララさん。少しだけ力を貸してくれないでしょうか。その、凄く困っていまして」

「その調子よっ! 次はやや強引に! クララちゃんは待ってるから! トーマが強引にクララちゃんへ迫って来るのを!」


 いや、そんな事言われても、俺にはクララっていう神様の姿が見えていないし、声も聞こえないんだが。

 とはいえ、コズエの言う通りにやってみる。


「クララ! 俺に力を貸してくれっ! 俺にはお前が必要なんだっ!」

「あ、クララちゃんが……やったね、トーマ! 物凄くおまけで、授けてくれるって」

「クララ、ありがとう……って、俺にはクララの姿がまだ見えないんだが」

「んー、おまけだからかなー? クララちゃんは倉の神様なんだけど、さっき掘った穴を土蔵という事にして、スキルを授けてくれたらしいから、時間が出来たらちゃんとした倉を作ろうね」

「わかった。出来るだけ早く倉を作って、クララにちゃんとお礼をするよ」


 早速、クララの異空間収納スキルを使い、籠に入れていたバラ肉や、埋める予定だったイノシシ肉の残りを全て収納する。

 それから掘った穴を埋め……大急ぎで家に帰った。

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