挿話4 迷子のソフィア
「あの、すみません。この辺りにイーナカって村はありませんか?」
「イーナカ? いや、悪いが聞いた事ないねぇ」
「そうですか。ありがとうございます」
ギャクーの街へ着いたので、こっそり馬車を降り、お兄ちゃんが居る村への行き方を聞いて回っているんだけど……おかしいなぁ。誰も知らないみたい。
まぁでも名前からして、辺境とかにありそうな村だし、地道に聞いて回るしかないよね。
それに、お兄ちゃんと一緒なら、どんな場所だって問題無いもん!
暫く根気よく聞き続けていると、
「うーん。イーナカ村って言う場所は知らないけど、ギルドで聞いてみたら良いんじゃないかな?」
「ギルド?」
「あぁ。冒険者ギルドとか商人ギルドとかっていうのがあってね。そこは世界中に……国を跨いで存在している組織だし、地理の事も分かると思うよ」
「なるほど。ありがとうございまーす!」
ギルドか。良い情報を得られたわね。
じゃあ、早速そのギルドへ……あれかな? 看板があるし。早速行ってみよーっと。
「すみませーん」
「いらっしゃいませー! 冒険者ギルドへようこそ」
「あの、イーナカ村へ行きたいんですけど……」
「あら、耳が早いんですね。本当に最近出て来た話なんですけど、イーナカ村へ向かう調査隊の話ですね?」
え、調査隊? 何の話? カウンターの中に居る女性が小首を傾げるけど、私はお兄ちゃんが居るところへ行きたいだけだよ?
「あの、何の話ですか?」
「あ……ごめんなさい。イーナカ村へ行きたいと言われたので、てっきり獣人が居たっていう申告のあった件かと思っちゃいました」
「獣人? 何か居るとマズいんですか?」
「ハイランド領では問題無いから、この辺りの方はご存じないかもしれないですが、お隣のラングトン領では結構問題で、公爵家の三男フランクリン様という方が獣人嫌いで有名なんですよ」
ラングトン公爵家のフランクリン……どこかで聞いた事があるような無いような。
……あっ! パパが言っていた私の婚約者だっけ。
個人で好き嫌いならわかるけど、種族で好きとか嫌いとかって言う人なんて、最悪なんだけど。
「で、そのイーナカ村に獣人が居るっていうタレコミがあったそうで、まずは真偽を確かめる為に、ラングトン公爵家の依頼で村を調べに行くっていうお仕事があるんですよ」
「へぇー。そうなんですねー」
「はい。で、公爵からの依頼なので報酬も良いんですよね」
知らなかった。
お兄ちゃんのお嫁さんになる事しか考えてなかったけど、世の中には色んなお仕事があるんだ。
「ちなみに、これはあくまで噂なんですが、フランクリン様は成人や男の子の獣人は即刻処刑され、女の子の獣人はペットみたいに扱われるらしいです」
「何それ……許せないですね」
「えぇ、本当に。女性の敵です。許しておけません……が、相手は公爵家の方です。ギルドの建物内ではこういう話も出来ますが、外では絶対にしちゃダメですからね」
そう言って女性がニッコリと微笑む。
なるほど。私も気を付けないとね。
「こほん。話を戻しますが、今ですと先程申し上げたフランクリン様の婚約者探しの為に、探索系のスキルを持つ方の募集がありますね」
「婚約者探し!?」
「はい。何でも、婚約者の方が人攫いにさらわれたんだとか。けど、このハイランド領で人攫いだなんて聞いた事がないですし、おそらく婚約者の方が自分で逃げたのではないかと」
「へぇー。そんな事が……というか、そんな最低な人に婚約なんて居るんですねー」
「まぁ貴族様ですからね。政略結婚とか、色々あるんじゃないですかね。お相手の女性は可哀想ですが」
本当ですよねー……って頷いてから気付いたけど、その婚約者って私だった!
えぇー、捜索されるの!? やだなー。
私はお兄ちゃんのところへ行きたいだけなのに。
「……って、すみません。私、冒険者ではなくて、イーナカ村への行き方を教えて欲しかったんですが」
「えっ!? し、失礼致しました。ですが、ここから、イーナカ村は結構遠いですが、大丈夫ですか?」
「はいっ! 愛の力で乗り越えますっ!」
それから、イーナカ村への行き方を丁寧に教えてもらったんだけど……遠い。本当に遠いよ。
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