第24話 ウルを泣かす奴
「≪アクア・クリエイト≫……ふう。これで最後か?」
「トーマ、お疲れ様ー。大変だったねー」
「そうだな。コズエとナギリの力が無ければ勝てなかったよ」
一角ウサギという魔物の大軍に遭遇してしまったけど、角を使った素早い体当たりを避けつつ、水魔法で倒していき……何とか勝利した。
土魔法で石をぶつけた方が早く勝てたのだろうけど、肉がダメになってしまうからな。
あくまで、森での魔物退治は生きる為に食料の確保と、素材を売ってお金にする為だからね。
スパスパと血抜きだけして、背中の籠にウサギを入れ、籠もいっぱいになったので早速帰る事に。
「かなり早く戻る事になるし、これならウルも悲しまないかな」
「そうだねー。とにかくトーマは、ウルちゃんを泣かせたりしないでよねー」
「もちろん。あんなに幼い子を泣かせるような奴はダメだろ。何ていうか、もう人としてダメだよな」
大量のウサギを背負いながらコズエと話しながら村へ戻り、まずはウサギの肉を簡易冷蔵庫へ入れる。
「トーマ君。一角ウサギの角は、削って薬の材料に使えるらしいの。一つか二つ持って行けば、ウルちゃんの服の代金には十分だと思うわよ」
「なるほど。じゃあ沢山あるし、おすそ分けの意味も含めて、五つ持って行こう。余りウルを待たせたくないしね」
ナギリに良い事を教えて貰ったので、一角ウサギの角を水魔法で付け根から切断して、布に包む。
それから急いでアメリアの家に行くと、遠くから何かが聞こえて来た。
「うぅ……うわぁぁぁんっ!」
「これは……ウルが泣いているっ!」
聞こえてきた泣き声を瞬時にウルだと判断し、その声がした方へ走ると……アメリアの家のすぐ傍で、両手で顔を覆うウルが居る。
だが、その隣にレオンが居て、ウルに向かって怒鳴っていた。
「けっ! ガキが! 泣けば良いってもんじゃねーぞっ!」
「ウルっ! おい! 何をしているっ!」
「あ? こいつ、お前の知り合いか? 獣人くせぇガキが……チッ! うるせえんだよっ! いい加減黙りやがれっ!」
そう言って、レオンが足を振り上げたので、ナギリの力を使って走り、ウルを抱きかかえる。
「なっ!? お前……今、何をしたんだ!?」
「何って、ウルを抱きかかえただけだが?」
「……今の動き、どう考えても異常だろ。その獣人のガキなんて守ろうとするあたり、もしかして隠して居るだけでお前も獣人なのか?」
「いや、違うが?」
「いーや、そうに違いない! 冷静を取り繕って否定するのも怪しいしな。お前には、そのガキと同じ獣人の血が流れているんだ!」
こいつは、一体何が言いたいんだ?
というか、本当に何がしたいんだ?
こんなに幼いウルを泣かし、意味不明な言いがかりをつけてきて。
「ふはははっ! これは楽しみだ。せいぜい首を洗って待ってろよな。……あぁ逃げるなら今の内だぜ?」
笑いながらレオンが去って行き、まだ泣き止まないウルを抱っこしたまま抱きしめていると、大きな布を持ったアメリアがやって来た。
「ただいまー。あれ? トーマさん、どうかしたの? それにウルちゃんも」
「え? いや、俺も今戻って来た所で、レオンがウルを泣かしていたのを目撃したからさ。ウル、何があったんだ?」
ウルがまだ泣き止みそうにないので、一旦アメリアの家に入れて貰い、抱っこしたまま落ち着くのを待つ事に。
ちなみに、アメリアは一着目の服を作ったところで布が無くなってしまったので、ウルを村長に預けて買い物へ行って居たそうだ。
その村長は……奥の部屋で爆睡していて、アメリアに叩き起こされた。
「お父さんっ! ウルちゃんを見といてってお願いしたでしょっ! そして、任せろって言ったじゃない!」
「いやー、暫くウルちゃんと一緒にゴロゴロしていたんだよ。そしたら、いつの間にか俺だけ眠ってしまってな。あっはっは」
「あっはっは……じゃないわよっ! トーマさんが戻って来てくれたから良かったものの、危ないでしょっ!」
再び村長がアメリアに怒られ……俺もウルをちゃんと見ていなかった村長に怒りたかったが、この場に居なかった俺が言える立場でもないので、言葉を呑み込む。
それから暫くして、ウルが小声で俺の耳元で呟く。
「あのひとが、おかーさんを……」
やっぱり、ウルはレオンの事をわかっていたか。
時間が解決してくれるかもしれない……というか、それ以外に解決のしようが無いのが辛いが、まだ暫くはウルと離れない方が良さそうだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます