第23話 狼の神のスキル
「出来たっ! 完成だっ!」
「パパー! おつかれさまー!」
足を延ばしたりは出来ないけれど、とりあえずウルと一緒に入れるくらいの広さで、肩まで浸かれるお風呂が完成した。
まぁ木の板を並べたり、隙間から水が漏れないように草を詰めたりしていっただけなんだけどね。
底の方の側面にある木の杭を抜けば排水も出来るようにもしたので、我ながら結構頑張ったと思う。
……家がもっと広ければ、もっと広いお風呂にしたのだけれど、これでもかなりの改善だ。
「パパ、おふろはいるのー?」
「いや、その前にお昼ご飯にしよう」
「うん。ごはんー!」
今日の昼食はピザにしてみた。
高温が出せる窯はないけど、コズエの力を使えば良い感じにピザも焼けるからね。
だけどその前に……コズエの力を使わずに火魔法でキッチンに火を点けると、ウルを呼んでと手を繋ぐ。
「パパー。どうしたのー? いつもはあぶないから、きちゃダメっていうのにー」
「ん? あぁ、ちょっと確認したい事があってね。うん、もう大丈夫だよ。テーブルで待っててー」
「う、うん。わかったー」
確認したかったのは、ウルが――というかウルと融合した狼の神様が俺にくれた炎無効化スキルの効果だ。
ウルと手を繋いでいる時は、火に手を近付けても熱くないし、思い切って手を突っ込んだけど、火傷一つしていない。
もちろん、その火に肉を近付けると、こんがり焼けた。
やはり、スキルの効果通り狼――ウルと一緒に居る時は炎を無効化出来るようだ。
だがその一方で、ウルと手を離すと、火が普通に熱かった。
手を突っ込めば当然のように火傷すると思う。勿論やらないけど。
「ウル、お昼ご飯だよー」
「はーい!」
昼食を終えた後は、アメリアの所へ行き、ウルの服や下着類を仕事として依頼する。
「あの、トーマさん。ウルちゃんの服なら、お金とか対価とかいらないですよ?」
「いや、今回は沢山依頼するし、甘えてばかりはいられないからさ。ちゃんと払わせて欲しいんだ」
「でも、その……じ、自分の娘ちゃんの服なら……こほん。な、何でもないですっ! わかりました。お仕事として、頑張りますね」
「すまない、助かるよ」
アメリアには、後ほど費用を請求してもらう事にして、俺はウルの前にしゃがみ込み、目線を合わせて話しかける。
「ウル……俺は少し用事があって他の場所へ行くけど、アメリアと一緒に待っていられる?」
「えっ……かえってくる?」
「当然だ。夕方……外がオレンジ色に変わるまでには帰ってくるよ」
「んー……わかった。おねーちゃんと、まってる」
「うん。出来るだけ早く帰るからな」
そう言って立ち上がると、ウルの小さな頭を優しく撫でる。
目を閉じ、俺に頭を寄せてくるウルに微笑みかけつつ、
「アメリア、悪いけど少しだけウルを頼む」
「は、はい! わかりました。これは、将来の為にウルちゃんと親しくなっておけという事ですよね? 任せてくださいっ!」
「ん? あ、あぁ。頼むよ」
物凄く張り切るアメリアにウルを任せて外へ。
ウルを連れた状態では、まだ森の中に入るべきではないと思っていたけど、食材を集めたり、服の代金を稼がないといけないからな。
いつものように籠を背負って森の奥へ進んで行くと、茂みの奥からウサギが現れた。
「……困ったな。前のイノシシみたいに襲ってくるなら倒せるけど、こういう獲物は倒しづらいな」
ウルの事があったので、ウサギは見逃そうかと、攻撃を躊躇っていると、コズエの声が響く。
「トーマ! 避けてっ!」
「えっ!? うわっ!」
慌ててその場を飛び退くと、ウサギが凄い速さで突っ込んで来ていて、俺の後ろに生えていた木がメキメキと倒れていく。
危ない。コズエに言ってもらわなければ……そしてナギリにもらったスキルを発動させていなければ、木を倒す程の突撃を避けられなかったな。
「トーマ君、よく見て。可愛いウサギに見えるけど、頭に大きな角が生えているでしょ? これは一角ウサギっていう好戦的な魔物よ」
「なるほど。……しかも、一体じゃないのか」
「えぇ。身体が小さい分、連携を取って数で攻めてくるわ。向こうは狩る気満々だから、甘い事を考えていると、死んじゃうわよ」
ナギリにも声を掛けられ、目の前のウサギたちが魔物なんだと認識を改める。
悪いが、食材になってもらおうか。
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