第22話 家に足りていない物作り

 翌朝。頬に触れる柔らかい何かの感触で目が覚める。

 温かくて柔らかくて、ちょっと湿っていて……って、これは何だ?

 ぼやける視界を動かすと、飛び込んで来たのはウルの顔なのだが……寝ぼけているのか。


「ウル。俺は食べ物ではない……んぷっ!」


 俺の首にウルが抱きつき、顔と顔がくっついている状態で呼び掛けたのがまずかったようだ。

 寝ぼけたウルに、思いっきり頬や口を舐められてしまった。


「と、トーマっ!? い、今のはキスなのっ!?」

「いや、違うだろ」

「そ、そうよ。今のがキスだなんて、お姉ちゃんは認めないんだからっ!」


 コズエとナギリがよく分からない事を言っている内にウルが起きたので、朝食を済ませ、早速今日のやるべき事をやる事に。


「パパ。どこへいくのー?」

「あぁ、ちょっとだけ木材が欲しくてね」

「わかったー」


 ウルが一緒なので、母親狼たちのお墓がある森の奥にはいかず、森の外を回って木を見定め……比較的真っすぐな木を見つけた。

 早速コズエの力を借り、水魔法で切断すると、スパスパと真っすぐに切断していく。


「パパ、すごーい!」

「いや、これは俺が凄いんじゃなくて、このコズエが凄いんだよ。コズエが力を貸してくれているから、こんな事が出来る訳だしね」

「へぇー! コズエもすごいんだー。ちいさいのに」


 ウルは狼だからか、身体の大きさで凄さが決まるのだろうか。

 まぁ動物は、より身体が大きい動物が捕食側となるはずだから、そういう考えになるのも仕方がないのかもしれない。


「ウルちゃん。私だけじゃなくて、ウルちゃんもトーマに力を授けられるはずだよー?」

「え? そーなの、パパー?」

「俺に聞かれても困るんだが」


 コズエの話では、狼の神様がウルを生かす為に融合したんだろ?

 という事は、ウルが狼の神様とも言える訳で……まぁよく考えたら、実際に使ってみれば早いんだけどな。


「じゃあ、確認してみよう。≪八百万≫」


『使用するスキルを選択してください。

 ・小杖装備時の魔法効果向上

 ・包丁装備時の敏捷性向上

 ・狼と接している時、その狼と共に炎無効化』


 普段は、コズエの力を使用したり解除したりしているけど、使用するスキルを指定せずに八百万スキルを発動させると、三つ目の効果が追加されていた。

 そのスキルの効果は……狼の神様が、ウルの事を守ろうとしているのがよく分かる。

 レオンの火魔法によって、あんな事になってしまったからな。


「パパー。ウルは、どんなちからを、パパにあげたのー?」

「そうだな。ウルが俺と一緒に居ると、二人共幸せになれる力だって」

「すごーい! ウル、パパといっしょにいるー!」


 八百万のスキル効果が描かれた青い板が俺の顔の位置に現れた為、ウルには効果が見えていないので、少し内容を変えてしまった。

 ウルに炎の事は余り言わない方が良さそうな気がするしね。

 だけど、無効化という効果の範囲は確かめておきたいな。

 接しているというのは、ウルに触れていれば良いと思うのだが……って、ウルで良いんだよな? 狼と接して……って書いてあるけど。内容的に、ウルを守る為のスキルのように思えるしさ。

 とりあえず、家に帰って昼食を作る時にでも、調理に使う火で確認しようと思いながら、切り出した木材を集め、背中の籠へ。

 何本か木を切って木材を集めたところで、家へ帰る事にした。


「パパー! だっこー!」


 ウルが両手を俺に向けて抱っこを要求してきたけど、小学校低学年って感じだし、まだこの姿で歩くのに慣れていないはずだからな。

 疲れるのは仕方ないだろう。

 それに、ウルは小さくて軽いから、抱っこしながら歩いても全く苦にならないからな。

 そのまま家に帰ると、早速持って帰って来た木材を使い、奥の部屋に大きな木の箱を作る事に。


「パパー、なにしてるのー?」

「お風呂を作っているんだよ。あの桶だと、腰までしかお湯に浸かれないからさ」

「おふろ……パパといっしょなら、はいる」

「あぁ、そうだな……って、今は入らないから! 服も脱ごうとしなくて良いからっ!」


 ウルがワンピースを捲り上げて思い出したけど、ウルの下着や替えの服も何とかしないとな。

 これはアメリアに相談しようか。

 報酬を支払って、ちゃんと仕事としてね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る