第21話 二人暮らし

 牛乳か……普通に飲んでも美味しいけど、せっかくなのでウルが喜びそうな物の材料にさせてもらおうか。

 という訳で、散歩の帰り際に必要な食材を購入し、帰宅する。


「ウル。一緒にお菓子を作ってみようか」

「……おかし?」

「そう。クッキーっていう、少し甘い食べ物だよ」


 村に砂糖は無かったけど、ハチミツと小麦が売っていたので、クッキーを作る事にした。

 小麦粉はともかく、ハチミツが結構なお値段だったものの、ウルが喜んでくれるのであれば安いものだ。


「という訳で、まずは貰った牛乳からバターを作るよー」

「……バター?」

「うん。といっても、この牛乳をただひたすら振るだけ……結構キツいな」


 もらった牛乳の一部を器に注ぎ、零れないようにして振りまくるだけなんだけど……あまりに腕が辛いので、コズエの力を借りた風魔法で振り続ける事に。

 バターが出来たら、生地をこねたり伸ばしたり……というのをウルと一緒にやって、型を抜くのはウルに任せる。


「お、ウル。上手だなー」

「パパ……これ、たのしい」


 その後は、再びコズエの力を借りて火魔法を使い、良い感じにクッキーが焼けた。

 家の中に、焼き立てのクッキーの香りが充満していて、ウルの鼻がずっとひくひく動いている。


「ウル。クッキーが焼き上がったんだけど、焼き立てでまだ熱いから、少し待って……ウルーっ!」


 良い香りがするから、食べたい気持ちは分かる。分かるけど、少し待とうな。


「……おいしー!」

「良かった。ウルの口に合って、俺も嬉しいよ」

「……もっと、いい?」

「晩ご飯もあるし、あと二枚にしておこうな。残りはまた明日食べて良いからさ」


 そう言うと、ウルが二枚のクッキーを手にして、何処かへ行こうとする。

 どうしたのかと聞いてみると、お姉ちゃん――アメリアにあげたいのだとか。


「そういう事か。じゃあアメリアにあげる分は別で用意しておくから、それはウルが食べて良いよ」

「パパ……これ、あげたい」

「あ、綺麗に焼けたからか。分かった。ちょっと待ってくれ」


 家の中を探して綺麗な布を見つけたので、ウルが上手に作れたという星型のクッキー二枚と、適当に何枚か選んで包んであげた。


「今から渡しに行く?」

「うん!」


 一緒にアメリアの家に行くと、早速ウルの焼いたクッキーをプレゼントしたのだが、


「ありがとうございます! ……けど、クッキーって何でしょうか?」

「焼き菓子だよ。まぁ食べてみて。ウルが頑張って作ったから」

「そうなんだ。ウルちゃん、ありがとう。じゃあ、いただきまーす! ……えっ!? 何これ、美味しいっ! サクサクしていて、ほんのり甘くて……これは、何ですかっ!?」


 いや、だからクッキーだってば。

 うーん。この世界にパンはあるのに、クッキーはないのか?

 けど、パンもフランスパンみたいなパンが主流みたいだし、砂糖も売っていない。今回はハチミツを使ったけど、甘いパンとかも無いのかもしれないな。


 アメリアに今度作り方を教えるという約束をして家に帰ると、次は夕食作り。

 今日はパスタにして、ウルにフォークの使い方を教えたのだが……食べるよりも、クルクル回す事を楽しまれてしまった。


「ウル。寝る前に身体を洗うよー」

「……みず? ……ウル、みずあびきらい」

「でも、外を歩いて身体も汚れているからね。おいでー」


 うーん。まぁ元は狼だもんな。

 クッキーを作ったりフォークを使ったりと、道具を使う事に抵抗が無かったのは、融合したという狼の神様のおかげだと思っていたんだけど……もしかして、狼の神様もお風呂は嫌いだったのか?

 狼だったら、毛が濡れるから? それとも水が冷たいから嫌うのか?


「コズエ。お湯を出せたりしないか?」

「んー。二つの魔法を同時に使えば出来るけど……それより、鍋でお湯を沸かした方が簡単かもー」

「あー、確か同時に魔法を使うスキルもあるんだよな。まぁ今はお湯を沸かそうか」


 沸かしたお湯と水を混ぜ、良い感じの温度になったところで、悲しそうな表情のウルを……うぅ、これはお風呂に入れづらいな。


「そうだ! 俺と一緒に入るならどうだ?」

「パパといっしょなら……」

「じゃあ、服を脱ごうな」


 とりあえず二人で裸になったものの、日本の浴槽みたいなのではなく、大きな桶しかないからな。

 狭い……というか、かなり無理がある。

 何とかウルの身体を洗って、腰までだけど一緒にお湯へ浸かり、ウルの身体を拭いて俺のシャツを着せたら、アメリアに作ってもらったワンピースを洗って干す。

 ……森で木を切って、ちゃんとした風呂を作りたいな。元日本人としては、肩までお湯に浸かりたいし。


「パパ、おやすみ」

「うん。ウル、おやすみ」


 ベッドが一人用だからか、それともウルが幼いからか。ウルが、仰向けに寝る俺の上に乗って抱きつくようにして眠る。

 俺は平気だけど、ウルは寝にくくないのだろうか。

 あと、コズエとナギリも、ウルの真似をする必要はないと思うんだけど。

 とりあえず、明日はお風呂の改善に取り組む事に決め、就寝した。

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