第20話 ウルとお散歩

 元々の用事が何だったのかは分からないが、アメリアがウルを抱きしめた後、ご機嫌で帰って行った。

 ちなみに、ウルの事はアメリアから村長に話しておいてくれるそうなので、まずは村人への挨拶とかよりも、ウルの事を気遣ってあげて欲しいと言ってくれている。


「パパ……おねーちゃんは?」

「ん? あぁ、アメリアは別の家に住んで居るからな。自分の家に帰ったんだよ」

「……パパは、ウルといっしょに、いてくれる?」

「あぁ。一緒に居るぞ」

「こっちの、おんなのこたちも?」


 そう言って、ウルが俺から離れずに顔だけコズエとナギリに向ける。


「えーっと、ウルはコズエとナギリが見えているのか?」

「……うん。フワフワういてる」


 コズエとナギリが位置を変えても、その位置を目で追っているので……うん。これは間違いなく見えているな。


「コズエとナギリの姿は俺にしか見えないんじゃなかったっけ?」

「んー、たぶんだけど、狼の神様がウルちゃんと融合しているから、見えるんじゃないかなー? 流石に私も想定外過ぎてわかんないよー」

「でも、見えている方が便利で良いんじゃない? この感じだと、お姉ちゃんたちの声も聞こえているみたいだし。トーマ君に危険が迫っている時、ウルちゃんにもお姉ちゃんの声が聞こえた方が良いと思うの」


 まぁ俺が危ない時だけでなく、ウルが危ない時にコズエやナギリの声が聞こえるのは良いかもな。

 そんな事を話した後、ウルと一緒にのんびり散歩をする事にした。

 今日は、ウルにとって大変な事があった訳だし、森には行かない方が良いだろうと考えたのと、さっきの自然薯を杖と間違えた件でレオンも近寄って来ないだろうと思ったからだ。

 俺自身も村の全てが分かっている訳ではないし、ウルと手を繋いで村の中を歩く。


「パパ……あれは?」

「あれは、牛……かな?」


 村の東の方へ行くと、広い草むらの中で大きな牛みたいな動物が草を食べたり、座って居たり。

 のどかな光景が広がっていた。

 俺とウルが牛を眺めていると、少し離れたところからオバちゃんが寄って来る。


「トーマさん。さっきはごめんなさいね。レオンにどうしても来て欲しいって言われちゃってね」

「あ、いえいえ。というか、巻き込まれて大変でしたね」

「そうねー。まぁそれを言うなら、一番巻き込まれているのはトーマさんだけど……って、あら? この子は?」

「ウルっていうんです。俺の娘みたいな……いろいろあって、保護者になりまして」

「あらあら、そうなの? ……ちょっと待ってて」


 そう言うと、オバちゃんがどこかへ走って行き、何かを持って戻って来た。


「ウルちゃん。これ、良かったら使って。昔、ここでお仕事を手伝ってくれていた、獣人さんが置いて行った物なのよ」


 そう言って、獣人用と思われる、けもみみを出す穴の開いた麦わら帽子をくれた。

 ただ、ちょっとウルには大きいようだが。


「あらー、ちょーっとサイズが合わなかったわね」

「あの、獣人の方が村に居たんですか?」

「えぇ、居たわよ。何でも、世界中を旅しているんだーって言って、半年くらい村に居たかしら。ただ……五年くらい前の事だけど」

「五年? あれ? アメリアはウルを見て、初めて獣人を見たって言っていたんですけど」

「あはは。当時のアメリアちゃんは、この牛が大きくて怖いって言っていたからねー。流石に今は平気みたいで、うちに牛乳を買いに来るけど、当時は近寄ろうともしてくれなかったから」


 あー、確かにこの大きな牛は、子供には怖いかもしれないな。

 ウルも俺の後ろに隠れて……って、これはオバちゃんから隠れているのか。


「あの、この世界……こほん。この国は、獣人の方って普通に居るんでしょうか?」

「トーマさんは、あまり見た事が無いのかしら? 多くはないけど、もちろん居るわよー。エルフみたいに、一生の内に会えたらラッキー……みたいな存在ではないわね」

「なるほど、そうなんですね」


 へぇ……流石は異世界だな。

 獣人だけでなく、エルフまで居る世界だったのか。

 という事は、やっぱりドラゴンとかも居たりするのだろうな。


「あ! そうそう。トーマさん、これを持って行っておくれ。家まで押しかけて迷惑を掛けちゃったからね。あ、うちでは大量に採れるから、遠慮は不要だからね」

「あ……す、すみません。では、ありがたくいただきます」

「ふふっ。ウルちゃん、またねー」


 しかし、オバちゃんが強引で押しが強いのは、日本も異世界も変わらないのだろうか。

 散歩の途中に牛を見ていただけなのに、断る隙もなく牛乳を一瓶貰ってしまった。

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