第19話 アメリアのスキル

 集まっていた村人たちが解散した後、届いていた木の箱をキッチンまで運び、コズエの力で溶けにくい氷を入れる。

 上段に氷を。下段に食材を入れる昔の冷蔵庫だけど、とりあえずはこれで良しとしよう。

 それから、ウルの為にスープを作っていると、


「ん……っ!」


 目を覚ましたウルがキョロキョロと周囲を見渡し、俺の姿を見た途端に飛びついて来た。


「ウル。俺はどこかへ行ったりしないから、調理中に抱きつくのはやめような。危ないし。あと、服も着ようか」

「……服?」

「あぁ、さっき俺の上着を……服屋さんは後で行くとして、とりあえずこれを着ておいて」


 全裸のままなのはどうかと思うが、女の子の服なんて持っていないので、とりあえず上着を羽織らせ、作ったスープをよそう。


「ウル。スープを作ったんだ。一緒に食べよう」


 スープの入った皿とスプーンを持ってテーブルへ……って、ウルは離れてくれないか。

 どうしたものかと思い、とりあえず椅子に座ったら、ウルが俺の脚の上に座る。

 ……まぁこれでスープを飲んでくれるのであれば、良しとしよう。

 スプーンは使ってくれなかったけど、小さな両手で皿を口へ運び、ゆっくりと飲み干す。


「……おいしい」

「そうか。これから美味しい物を沢山食べさせてあげるからな」


 ウルの頭を撫でていると、


「こんにちは。トーマさん、レオンが変な事を……おぉぉっ!? と、トーマさんっ!? その裸の女の子は……」


 突然扉が開き、アメリアが入って来た。


「アメリア。丁度良い所に。実は相談があって……」

「え、えっと……わ、私が聞いて良い話ですかっ!? いえ、むしろしっかり聞いて現実を受け止めるべき!? ……そ、そうね。トーマさんを正しい道へ導かないと」

「……アメリア?」

「はいっ! か、覚悟は出来ました。ど、どうぞ」


 何の覚悟なのだろうか。

 よく分からないが、話しても良いそうなので本題へ。


「色々あって、この子を保護する事になったんだけど、女の子の服を持っていないだろうか」

「保護? ……どういう事ですか?」

「いやその……アメリアなら話しても良いか。俺の八百万のスキルで……」


 流石にウルの前で母親狼の事は言えず、独りぼっちの子供狼に神が宿って、人の姿になったという話をしたんだが……ここだけ聞くと、事実なんだけど、かなり怪しい話だな。


「あ、そういう事ですか。トーマさんは、その子の……ウルちゃんの父親代わりなんですね?」

「あぁ。そのつもりだ」

「良かった……変な関係じゃなくて……」

「ん? 何か言った?」

「いえいえ、何でもないですよ? それより、服なら私がお役に立てるかと。実は私、裁縫スキルを授かっているので。ちょっと待っていてくださいね」


 そう言うと、アメリアが慌てて家を出て……いろんな荷物を持って戻って来た。


「ウルちゃん。好きな色とかあるかな?」

「……」

「特に無いなら、お姉ちゃんがウルちゃんに似合いそうな色に決めちゃうね。んー、そうだなー……これなんて良いかなー」


 そう言って、アメリアが水色の布を取り出し、ウルの身体の大きさを測りながら、あっという間にワンピースを作ってしまった。


「ちゃんと尻尾を出せるようにしておいたから、早速着てみてくれるかな?」

「……」

「あー、着替えられないよな。手伝おう」


 と言っても、アメリアが作った服がピッタリこサイズなので、ウルの頭の上から被せるだけなのだが……尻尾が少しだけ大変かな。


「きゃーっ! 私、獣人さんは初めて見たんですけど……ウルちゃん、可愛いっ!」

「……かわいい?」

「うんっ! とっても可愛いっ!」


 水色のワンピースを着たウルをアメリアが褒めていると、ウルが俺に顔を向ける。


「……ウル、かわいい?」

「あぁ、もちろんだ」

「トーマさん。そこは、ちゃんと可愛いって言ってあげましょうよ」


 あ、同意じゃダメなのか。


「……こほん。可愛いぞ、ウル」

「……うれしい。ありがとう……パパ」


 そう言って、ウルが抱きついてきた。

 しかし、パパか。まぁ俺の事を父親と思って良いって言ったからな。


「と、トーマさんっ!? パパ……って、ウルちゃんの父親だったんですか!?」

「いや、父親代わりというか、そう思って良いって言ったからかな」

「……う、ウルちゃん。私の事は、ママって呼んでも良いからね?」


 母親代わりは大丈夫か? と、ウルの事を少し心配したのだが、


「……ありがとう、おねーちゃん」


 泣き出したりせずに、ぺこりと頭を下げる。


「お姉ちゃんかー。いやまぁ……うん。これはこれで良いかも。ウルちゃん、何かあったら遠慮なく言ってね」

「私もーっ! 私もお姉ちゃんって呼んでーっ!」


 何故かナギリがアメリアに張り合おうとしているが、とりあえずウルも大丈夫のようだ。

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