第18話 獣人の少女ウル
見た目は小学生くらいだろうか。
全裸で、お尻の辺りから尻尾が生えた女の子が、焦げた狼に覆い被さって泣いている。
「……コズエ。これって……」
「うん。ちょっと……ううん。かなり特殊な状態だけど、トーマの事を認めた狼の神様が、一番損傷の少なかった子供狼と融合したみたい」
えーっと、とりあえず保護しないとダメだよな。
おそらく、さっき聞こえた女性の声が、狼の神様だろうし。
「あのさ……一緒にお母さんのお墓を作ろうか」
「……」
泣き続ける女の子に上着を着せ、二つの遺体に優しく土を被せていく。
コズエの力を借りて細長い木の板を作り、墓標代わりに。
「……おいで。悲しいと思うけど、俺で良ければ一緒に居るからさ」
「……ウル」
「ん?」
「なまえ」
「そっか。じゃあウル。これからは、俺の事をお父さんと思って……」
「……うわぁぁぁんっ!」
暫く泣きじゃくるウルを抱きしめ……落ち着いた所で、村へ向かう事に。
狼の神様と融合? しているからか、元からウルが寂しがり屋なのか、俺の側から離れようとしない。
いやまぁ、俺が父親みたいに思って良いって言ったからな。
そう思った直後、突然ウルが倒れた。
「ウル? ウルっ!? 大丈夫か!? ≪スロウ・ヒール≫」
コズエの力を借りた治癒魔法をウルに使い……だが、目を覚さない。
「コズエ……」
「大丈夫だよ。いろいろあって、精神的に疲れて眠っているだけみたい。身体的には何とも無さそうだよ」
「そうか、良かった」
眠ってしまったウルを抱き上げると、そのまま村へ向かう事に。
日本人として生きてきた年月も加味したら、俺にもこれくらいの娘が居てもおかしくないし、全力で守って生きていこう。
そう考えて家に戻って来ると、先ずはウルをベッドへ。
毛布を掛け、ウルの服をどうしようかと考えていると、
「おい! やっと戻って来たな!」
入り口にレオンが立っていた。
コイツが何をしに来たかは知らないが、ウルが眠って居たのは、本当に助かったな。
母親を殺した本人に会わせるべきでは無いだろうしな。
「何の用だ?」
「おっと。そのままだ。何も触らず、そのまま家を出ろ」
レオンが意味不明な事を言ってくるが、ウルが眠って居る家の中で騒いで欲しくないし、素直に外へ。
そこには、十数人の村人が集まっていた。
「……何の騒ぎなんだ?」
「皆、見てくれ! 俺の言った通りだろ!? あの日、こいつは小杖しか持っていないと言ったが、見ての通りスタッフを持っているだろう!」
「……スタッフ? どこにそんな物があるんだ?」
「お前……よくそれで、とぼけようと思ったな! その背中の籠に、スタッフが入っているだろうがっ!」
「……ん? あぁ、これの事を言っているのか。これは芋だぞ?」
「…………は? ば、バカ事をいうなっ! どこからどう見てもら長い杖だろうがっ!」
この世界……というか、この村では食べないのだろうか?
「仕方ないな。ちょっと分けてやるよ」
「は? いや、お前……ナイフで何を……はぁぁぁっ!?」
掘り起こした後に、水魔法で綺麗に洗っているので、菜切包丁で先端を皮ごとサクサク輪切りにすると、一枚を口へ。
「うん、旨い! 掘りたてだからか? 甘味があって……あー、醤油が欲しいな」
「お、お前……杖を食ったのか!?」
「だから芋だと言っているだろ? ほら、食べてみろって」
「……あ、旨いな」
「せっかくなので、皆さんもどうぞ。美味しいですよ」
自然薯の刺身を堪能しながら、後で火を通して食べようと考えていると、村人たちも旨いと声をあげる。
「これは、旨いな。森の中にこんな芋があったのか」
「しかし、随分と長い芋なんだな」
「えぇ。俺の生まれ故郷では、その名の通り長芋と呼ぶ事もありましたね」
まぁ生まれ故郷というのは、日本の方だけどな。
「……で、レオン。トーマさんがくれた、あの芋で魔法が使えるのか?」
「み、皆! 騙されるなっ! 今のは苦し紛れに、杖を輪切りにしたんだ!」
レオンは相変わらず凄い事を言うな。
集まった村人たちが全員呆れているんだが。
「……じゃあ、この芋で魔法を使ってみろよ」
「ふっ! このお前が差し出したスタッフで魔法が発動したら、俺の言う事が正しかったという証明だからな! 見てろ……ファイアーボール!」
レオンが自然薯を掲げて魔法を使おうとして……もちろん発動する訳が無い。
「ふぁ、ファイアーボールっ!」
「……お前、芋を持ちながらファイアーボールって連呼して、恥ずかしく無いのか?」
「くっ……ち、チクショウっ! 覚えてやがれっ!」
レオンが自然薯を投げ……無事にキャッチした時には、遠くへ走り去っていた。
まったく……ウルの事もあるし、アイツは何とかしないといけないな。
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