第17話 森の中での遭遇

 翌朝。コズエとナギリが両脚にしがみついていたのは構わないのだけど……ヨダレが。

 とりあえず二人を起こし、朝の支度を整えると、早速森へ行く事に。


「トーマ。今日は随分と張り切っているんだねー」

「あぁ。昨日は午後からアメリアの家で膝枕をしているだけだったからね。あれはあれでスキルを得る事に繋がるのだろうけど、新しい食材探しもしないとね」

「あ、うん。スキルは大事よね。……どうしよう。なぎリンが、ただ膝枕したがっていただけなんだけど……」


 コズエが小声で何か呟いていたけど、森の中を吹く風でよく聞こえず……ん? 何かあるな。


「あっ! また小豆だっ! これは持ち帰りたいけど、籠に入れても零れるから……布で包んでおこうか」


 お弁当として持って来たパンの包みに小豆を入れ、再び結びなおす。

 更に暫く歩いて居ると、今度はテレビで見た事のある蔓を見つけた。


「こ、これはまさか……自然薯じゃないのか!?」

「トーマ。自然薯ってー?」

「山芋とか長芋とかって呼ばれているんだけど、すりおろして、とろろご飯とかにするやつだよ」

「あー、なるほどー!」


 とろろかぁー。

 お米があったら、絶対に掘り出すけど、今の所パンしかないからなー。

 いや、ご飯に合うから、パンに乗せてもいけるんじゃないのか?

 少し考え……掘り出す事に。


「……って、トーマ!? まさか手で掘るの!?」

「うん。スコップやシャベルなんて無いしね。幸い、この辺りは土が硬くないみたいだしさ」


 穴を掘る魔法も知って居るんだけど、あれは中級魔法だし、自然薯を傷付けたくもないので、手で丁寧に……って、長いな。

 暫く頑張り、思っていた以上に時間が掛かってしまったけど、その甲斐あって、一メートルを超える長さの自然薯を手に入れる事が出来た。

 コズエの力を借りない、普通の水魔法で自然薯と手を洗い、籠の中へ。


「トーマ君。お疲れ様ー! 大変だったでしょ? 大丈夫? お姉ちゃんが癒してあげるよ?」

「あはは、ありがとう。けど、これくらい平気だよ」

「……もっと甘えて良いのにー」


 何故かナギリに頬を膨らませられ、再び森の中を散策していると、突然轟音が響き渡る。


「何だ!?」

「……魔力を感じるね。森の中で誰かが魔法を使っているんだけど……火の魔法だよ!」

「森の中で!? そいつは何を考えているんだっ!?」


 森の中で火魔法を使ってはいけないって、考えればすぐ分かるだろっ!

 放っておいたら、森が燃えてしまうっ!

 魔法を使っている者のところへ、コズエに案内してもらって向かっているのだが、何度も轟音が響き渡る。

 そして、


「はっはっはー! 逃がすかよ! 俺様の魔法から逃げられると思うなっ!」


 どこかで聞いた事のある声が。

 いや、それよりも先に、


「≪アクア・クリエイト≫」


 コズエの力を借り、周囲にスプリンクラーのように水を撒く。


「冷てぇっ! 何をしやが……お前っ! 何のつもりだっ!」

「何のつもりだ……って、お前が森の中でファイアーボールなんて使うから、火を消しているんだろうがっ!」

「あ? そんなのいずれ勝手に消えるだろ。それより、魔物退治を邪魔しやがって! お前は村に魔物が来ても良いってのか!?」

「そうは言ってない! 使う魔法を考えろと言っているんだっ!」


 森の中に居たのは、先日アメリアの家を燃やそうとしたレオンで、俺が水魔法を使う前は、そこら中の草が燃えていた。

 あれが木に燃え移っていたら、最悪の事態になっていたというのに。

 だが、レオンはそんな事お構いなしと言った感じで俺を睨み……何かに気付いたようで、突然態度を変える。


「ふっ……ふはははっ! お前……スタッフを持っていないと言って、俺を牢に入れやがったが、やっぱりスタッフを持っているじゃねーかっ!」

「……ん? 何の話だ?」

「この眼で確かに見たぜっ! あの夜の事を、もう一度村の皆に判断してもらおう! 俺が冤罪で捕らえられた分、お前には長く入ってもらうからなっ!」


 そう言って、笑いながらレオンが何処かへ去って行ったのだが……スタッフとは何の事だ?

 魔法使い用の長い杖なんて、俺は持っていないぞ?

 とりあえず、意味不明なレオンの事は無視して、消えていない火が残っていないか、周囲を見回る事に。

 火事になったら、洒落にならないからな。

 辺りを見ていると、木の裏側に焦げた何かが……これは、昨日の狼っ!?


「昨日の狼の親子か……すまないな」


 どうやらレオンが魔法を放っていたのは、この魔物を倒す為だったようだ。

 ……ただ、逃げようとする魔物を執拗に攻撃していたようにも思えるが。

 俺も魔物を倒し、その肉を食べるが、流石にこの黒こげの状態では食べる事も出来ないので、せめて土に埋めて弔ってやる事に。

 先程と同じ様に穴を掘って、親狼を入れ、子狼を入れたところで、その身体が光り輝く。


「えっ!? いいの!? ……そっか」

「コズエ? どうしたんだ? 誰と話していたんだ?」

「えっとね……すぐに分かるよ」


 光の中でコズエと話していると、すぐに光が収まり、


「トーマ……この子を頼みますね」


 大人の女性といった感じの声が聞こえてくる。

 その直後、


「うぅ、おかーさーんっ!」


 狼と同じ茶色の髪の毛で、頭から大きな耳が生えた女の子が蹲っていた。

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