第13話 異世界でする定番のアレ
アメリアに料理を教わりに行き、一緒に夕食を食べて帰って来たのだが、二つ分かった事がある。
一つは鮮度の問題だ。
食材の保管が全て地下の収納庫で、冷蔵庫が存在しない。
なので、この村には魚や海産物なんて流通していないし、野菜だって日持ちするものがよく使われているようだ。
「コズエ。氷魔法で溶けない氷とかって出せないかな?」
「溶けない……は無理かな。でも、溶けにくいなら出来るよ」
「なるほど。じゃあ、明日にでも家具屋さんに行ってみようかな」
昔の日本で使われていた、木の箱に氷を入れて食材を冷やす冷蔵庫……あんな感じの物を作ってもらおう。
そして、もう一つはナギリの事だ。
「ナギリ……ナギリが俺にくれたスキルって、敏捷性の向上だよな?」
「そうよー。今のトーマ君に必要かなーって思ったの。素早く動けるわよー」
「……速過ぎて、アメリアが目を白黒させていたんだが」
ナギリのスキルを発動させると、普段の倍くらい速く動ける気がする。
普通に歩いて帰って来たのに、あっという間に家だったしさ。
「でも、こっちの世界って魔物が襲ってくるでしょ? 身を守るには良いと思うの」
「それはそうかもしれないが……」
ただ、使用時と未使用時の差が激し過ぎるんだよな。
いや、コズエの力もそうだけど、ナギリのは普通の行動に影響が出ちゃうんだよ。
コズエとナギリと話しながら明日の食事の準備を終えると、敏捷性には慣れるしかないかと思い、今日は就寝しようと毛布に包まり……一旦起きる。
「あの、ナギリ? どうして毛布の中に潜り込んで来たんだ?」
「え? トーマ君と一緒に寝ようと思ったんだけど? コズエとくっついて眠っているんでしょ?」
「な、なぎリン! それは言っちゃダメー! トーマが寝た後に、そーっと潜り込むんだよ」
いや、コズエは俺が知らない所で何をしているんだよっ!
あとナギリも、なるほど……じゃないからっ!
……翌朝、目が覚めたら二人とも毛布の中に入ってたけどな。
さて、朝食だが……昨日仕込んで置いた小豆をアンコにして、トーストの上に。
「おぉぉっ! 思った通りだ! 物凄く旨い! あー、バターが欲しかったなー」
「トーマ君はお豆が好きなの?」
「豆が好き……というか、今の俺が容易に入手出来る素材が豆っていうだけかな。収入が得られるようになったら、いろんな食材を試して、いきたいんだけどな」
「なるほどねー。じゃあ、この世界の定番を、お姉ちゃんと一緒に……する?」
ナギリが上目遣いで見つめてくるが、一体何だろうか。
「定番って?」
「もちろん……魔物退治よ。素材は売れるし、お肉も手に入るわよ」
「あー、昨日までのトーマにはさせられなかったけど、なぎリンの力もあるし、今なら大丈夫かも。出来れば、もう一つくらい戦闘系のスキルが欲しかったけどねー」
ナギリとコズエが魔物退治を勧めてくるが……いやまぁ、コズエの力があれば大丈夫か。
ナギリの力が、どれくらい有効なのかは未だ何とも言えないが、どのみち包丁や短剣で魔物を倒そうとは思わないけど。
「じゃあ、残っているアンコをパンで挟んで……とりあえず、昼食はこれだな。あと、倒した魔物の素材や肉を持ち帰る為のカバンか籠が居るな……籠なら家具屋にあるかな?」
冷蔵庫の話もあるので先ずは家具屋さんへ行き、氷と食材を入れる木の箱を注文して、お店に置いてあった手頃なサイズの籠を購入した。
蓋とかはないけど、ちゃんと背負えるので、右手に小杖、腰には二本の包丁と、背中には籠とお弁当が入った包み。
「よし、行くか!」
小豆に続く美味しい素材と、今まで食べた事の無い肉などに期待を込めて南の森へ。
昨日よりも奥へ進むと、早速何かの気配がする。
ナギリのスキルを発動させて様子を伺っていると、ガサガサと茂みが揺れた直後に、黒い影が突進してきた!?
「なっ!?、イノシシっ!? しかも、デカいっ! 危な……って、あれ? 遅い?」
「遅いんじゃないよー。トーマ君の反射神経が良くなっているんだよー。お姉ちゃんの力で敏捷性が上がっているからね」
「敏捷性って、そんなところも強化されるんだ」
ナギリの言った通り、俺目掛けて突っ込んで来たイノシシを簡単に避けると、
「≪ストーン・バレット≫」
コズエの力で強化された初級魔法を放つ。
ナギリとコズエの力を借り、俺よりも大きなイノシシを倒す事が出来た。
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