挿話1 ハイランド家の長女ソフィア
「お嬢様ーっ! ソフィアお嬢様ーっ! どこですかぁぁぁっ!」
「居たか!? いえ、どこにも見当たりません」
私が隠れているすぐ近くで、メイドさんと庭師さんが私を探している。
ふふん。絶対に出て行ってあげないんだからっ!
「やっぱり、トーマ様が家を追放されたのがショックだったのでしょうか」
「そうかもしれないな。ソフィア様はブラコンだったからな」
「そうですね。それも超が付く程に、お兄さん大好き……って感じでしたからね」
「幼い頃に毎日、大きくなったらお兄ちゃんと結婚する……って言っていたのが懐かしいな」
ちょ、ちょっと、何を言っているのよっ! 私はそんな事を……い、言っていた気もするけど、あの鈍感お兄ちゃんには気付かれていないはずっ!
だって、お兄ちゃんったら、毎日抱きついていたのに、ソフィアは可愛いとしか言ってくれなくて……けど、その言葉すら掛けてもらえなくなった今、この家に残る理由なんて無いわっ!
このまま街へ行く馬車に潜んで、領地から出るのよっ!
「やっぱ、あれかなー。トーマ様が変なスキルを授かってしまって、旦那様がソフィア様に婿をとるとか言い出したのがイヤだったのかねぇ」
「そりゃイヤでしょ。実の兄妹とはいえ大好きな人が居るのに、親の一存で勝手に婿だなんて。ソフィア様はまだ十四歳なのよ? しかも、よりにもよってその婿が、かの有名なラングトン公爵家の三男、フランクリンよ!?」
「あー、あの鈍そうな奴な。あんなのと一緒になったらソフィア様は苦労するだろうな……」
……あっ! そういえば、そんな話もあったわね。
パパがそんな事を言っていたような気もしたけど、まったく聞いてなかった。
私がお兄ちゃん以外の人と結婚するなんて有り得ないし!
「鈍いとか以前に、あの人って二十六歳でしょ!? ソフィア様は十四歳よ!? バカじゃないの!? 変態以外の何者でもないわっ!」
「いや、そこは貴族だし、政略的な……げふんげふん。やっぱ、仕方ないんじゃないのか?」
「仕方ない!? 女性の人生はそんなに安くなんて無いのよっ! ……そうだ。私、ソフィア様の応援をしようかしら」
「おいおい、滅多な事は言うもんじゃねーぞ。そんな言葉が万が一にでも旦那様に聞かれたら、クビで済まないからな? 最悪、不敬罪で投獄されちまう事だってあるんだから」
そんな話をした後、再び二人が私を探してどこかへ走って行った。
しかしパパったら、私に婿を取らせるって、本当に意味がわからないんだけど。
お兄ちゃんが家を出た日だって、お兄ちゃんのスキルが外れスキルな訳が無いって直談判しに行ったら、そのまま部屋に閉じ込められて……外に出してもらえるようになった頃には、お兄ちゃんが家を出ていたし。
フランクリンっていう人がどんな人か知らないし、知る気もないけど、絶対にそんな人と結婚なんてしないんだからっ!
確固たる決意を胸に秘め、馬車の荷物の奥底――大きな箱の中で時間が経つのを待っていると、いつの間にか眠ってしまっていたらしく、馬車が動き出していた。
「確かママの話では、お兄ちゃんはイーナカ村っていう所に居るはず! 先ずは、一番近くの街で馬車をこっそり降りて、目的地の村へ行く馬車に乗るんだ。こういう時の為に、今までおこずかいを貯めておいたからねー」
先ずは無事に屋敷を出られた事を喜んでいると、少しして馬車が停まる。
聞き耳を立てて外の様子を伺って居ると、馬車の御者さんが誰かと話していて、ギャクーの街っていう所へ向かうのだとか。
とりあえず、その街に着いたら馬車を降りようかな。
ふふっ、お兄ちゃん。きっと今は寂しい想いをしているだろうから、突然私が行ったらきっと喜んでくれるよね!
そうだ、もしかしたら落ち込んでいるかもしれないから、お兄ちゃんを励ましてあげなきゃ。
……そ、そうしたら、あの鈍いお兄ちゃんでも、ようやく私の気持ちに気付いてくれるかもっ!
「ふふーん。早く着かないかなー」
ご飯代わりにこっそり持って来たフルーツを食べながら、カタカタと暫く馬車に揺られる事にした。
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