第12話 菜切包丁の女神ナギリのスキル
しまった。アメリアにナギリの姿は見えていないようだが、俺が話し掛けているのと、撫でている所を見られてしまった。
コズエやナギリの声はアメリアに届いていないはずだし、独り言を喋りまくるただの変な人……という事でいけないだろうか。
「……こほん。えーっと、光とは何の事だろうか?」
「え? さっき、思いっきり光りましたよね? この包丁が」
「た、太陽の光が反射したんじゃないかな? 普通の菜切包丁だよ?」
「それはそうですけど……って、あれ? お、重い! トーマさん、こんなに重い包丁を使ってらっしゃるんですか?」
重い? いやいや、モルガンさんがくれた、普通の菜切包丁なんだが。
手に取ってみても……うん。重く無く、手にしっくりとくる包丁だ。
「……トーマ。言い忘れていたけど、こういう『物』に宿る神様が力を授けてくれた場合、その物はトーマ以外には使えなくなるから」
コズエ、そういう事は先に言っておいてくれよ。
つまり、俺が使っている小杖も、この菜切包丁も、俺以外が使おうとしても、アメリアみたいに持てなくなるという事か。
「そんなに重い包丁を片手で軽々と……トーマさんって、実は力持ちだったんですね。細マッチョっていうのですか?」
「そ、そうなんだ。じ、実は力持ちでさ……あはは、あははは」
「そうなんですね。それで話を戻しますが、どなたと話されていたのでしょうか? 何かを撫でているような感じでしたけど」
やけくそで話を逸らそうとしたのに、アメリアがグイグイ来る。
おそらく、この菜切包丁をアメリアが僅かにも動かせなかった事で、何か変だと疑ってかかっているのかもしれない。
どうする? もう一度とぼけてみるか?
「えーっとだな。さっきのはその……こ、子供を撫でる練習をしていたんだ」
「こ、子供を……トーマさん。お父さんもですけど、少し気が早いですよぉ。そ、そういう事は、もう少しお互いを知ってから……」
「ま、待ってくれ! ち、違うんだ! 話すっ! 本当の事を話すから落ち着いてくれっ!」
アメリアが俺の言葉を嘘だと見破ったのか、何故か胸元を強調するかのように、身体を前に倒してきて……幾ら先程の光の事が気になるからって、若い女の子がそんな事をしちゃダメだ。
「本当の事を話す……って何がですか?」
「だから、俺が子供を撫でる練習をしていた訳ではないって見破られ……あれ?」
「え?」
「え?」
ん? 俺の下手な嘘がバレた訳ではなかったのか?
だったら、どうしてアメリアは胸元から谷間を見せつけるような格好をしたんだ?
「と、とりあえず、何か隠している事があるなら教えてください。私、トーマさんの事がもっと知りたいんです」
「……コズエ。八百万の事って話しても大丈夫なのか?」
「うん。全く問題無いよー。とはいえ、私やなぎリンの事を信じて貰えるかどうかは知らないけどねー」
アメリアの言葉を聞き、コズエに確認してみたのだが、
「また誰かとお話ししていますよね? トーマさん……そこに誰か居るのですか?」
やっぱり声は聞こえていないみたいだな。
「まぁ話すと言ってしまったし、これは他言無用でお願いしたいんだけど、俺が授かったスキルは八百万っていう、ある条件を満たす度にスキルが貰える……っていうスキルなんだ」
「えっ!? そ、それは凄くないですか!? ちなみに、何個スキルが貰えるんですか?」
「八百万個だ」
「八百……万個っ!? え、えーっと……えぇぇぇっ!? ……ち、ちなみに、先程お話しされていたのは?」
「俺にスキルをくれた神様」
「あの、何だか話が凄過ぎて……こ、ここに神様が居らっしゃるのですか?」
その通りだ……と答えると、アメリアがその場に跪き、見えていないはずのコズエとナギリに頭を下げる。
「トーマ。この子……いい子だね」
「そうね。トーマ君……この子となら結婚しても、お姉ちゃん許しちゃうわよ?」
コズエもナギリも何を言っているんだ?
とりあえず俺は、ナギリの弟になった記憶はないのだが。
「そうだ、トーマさん。さっきの光で、新たにスキルを貰った……という事なんですよね? 一体、どんなスキルをもらったんですか?」
「あ。大事な事を確認していなかった。俺も、まだそれを知らないんだよね。ちょっと確認してみるよ。≪八百万≫」
八百万スキルを使用すると、数日前に授かった時と同じく、目の前に銀色の文字が表示される。
『使用するスキルを選択してください。
・小杖装備時の魔法効果向上
・包丁装備時の敏捷性向上』
「ナギリ。包丁装備……って、腰に差して居るだけでも良いのか?」
「もちろん。というか、コズエだって小杖を持っていない時に会話出来るでしょ? ベルトに差しているとか、すぐ傍にお姉ちゃんが宿った菜切包丁があれば、スキルの効果は発動されるわよ」
「つまり、この菜切包丁を腰に差しておけば、敏捷性が上がった状態でコズエの力も使えるという事なのか?」
「そういう事よ。逆に言うと、お風呂に入ったりしていて、近くに小杖や菜切包丁が無ければ、私たちとは会話出来ないから気を付けてね」
なるほど。
風呂へ入っている間も極力近くに置いておいて、小杖と菜切包丁は出来る限り身に着けておく方が良さそうだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます