第14話 森の中での出会い
倒したイノシシを前にして、万能包丁――短剣を持って考える。
……どうやったら解体出来るだろうか。
ナギリ曰く、魔物は素材として売れるし、肉も得られるそうだ。
だけど、ナギリがくれたスキルで敏捷性が上がったものの、力が上がった訳ではない。
その為、俺より大きなイノシシを運んだりは出来ないので、解体して少しずつ運ぶしかないのだが……流石に動物の解体なんてした事がないんだよな。
「トーマ。とりあえず、スパスパーって切っちゃえば?」
「そうだな。とりあえず、部位ごとに斬るしかないか」
綺麗にはがせば毛皮も売れたりするのかもしれないが、今回は諦めて、肉と牙だけを取得する事にした。
うん。見た目を気にしなければ、意外にいけるな。
解体した部位を籠に入れていき……大きな籠なのに、あっという間に肉で埋まる。
お弁当を持って来たし、一日頑張るつもりだったけど、一旦戻ろうか。
そう思ったところで、再びガサガサと茂みが揺れる。
嫌な予感がしたところで、再び黒い影が……今度は狼だとっ!?
「くっ! 三体も居る……って、あれ? 襲って来ないのか?」
姿を現した狼は、解体した後の残ったイノシシの肉や内臓に向かって、俺の顔を見ながら恐る恐る近付いて行く。
しかも、その後ろに居る二体の狼は……子供か。
「……これは、倒せないな」
俺に攻撃する意志がないと分かったからか、何となく親狼がペコっと頭を下げたような気がして……残っているイノシシの肉を食べ始める。
「え? トーマ、何をするの?」
「ん? あぁ……ちょっとな」
籠に入れていたイノシシの脚の肉を取り出すと、コズエの力を借りない普通の火魔法で焚き火を起こし、じっくり炙っていく。
こんがりと良い匂いがしてきたところで、狼たちのところへ投げてあげる。
「焼いた方が美味しいぞ。ただ、これ以上は村へ近付かないようにな」
そう言うと、親狼が再び頭を下げたように思え……やっぱり人の言葉が分かって居るのだろうか。
その場から離れ、身を隠して様子を伺って居ると、食べ終えたイノシシの残り――皮や骨を地面に穴を掘って埋めだした。
あれなら、他の魔物が寄ってきたりする事もないだろう。
後片付けをしっかり行った後、狼たちが俺に向かって再び頭を下げ、村から離れる方向へ消えて行った。
「……隠れて見ていたのもバレていたか。でも襲って来る気配は無かったし、後片付けもしたし……この世界の狼は賢いんだな」
「日本でも狼は賢いんだよー? それに、狼の神様だって居るしー」
「実はさっきの狼が神様って事はないよな?」
「あはは、流石にそれは無いよー」
まぁそれはそうか。コズエもナギリも、俺に触れる事は出来るが、こっちの物を食べたりは出来ないもんな。
なので、俺が作った料理の感想をもらおうと思ったりもしたんだけど、食べる事も出来なくて、盛り付けの感想しか貰えなかったし。
とりあえず、籠一杯にイノシシの肉を入れ、村へ戻……流石に重いな。
異世界で定番の空間収納スキルとかが欲しいと思うのは流石に贅沢を言い過ぎか。
一つしかスキルを得られない世界で、既に二つも凄いスキルを貰っているわけだし。
何とか家まで戻ると、何故かアメリアが家に居た。
「トーマさん、おかえりなさい。良かったら、お昼ご飯を食べに来ませんか? ちょっと作り過ぎてしまって」
「そうなのか? じゃあ、せっかくなのでいただこうかな」
「えへへ、ありがとうございます……って、あれ? その籠は何ですか?」
「あぁ、森の中で大きなイノシシを見つけたから、倒して肉と牙を持ち帰ったんだ」
「……えぇぇっ!? 森の中の大きなイノシシ……って、まさかワイルド・ボアですかっ!? C級の魔物なのに……どうやって倒したんですかっ!?」
あのイノシシって、C級の魔物なんだ。
まぁA級って言われていた、あの大きな熊に比べれば、突っ込んで来るだけだったしな。
「えーっと、その……ま、魔法で?」
「魔法って……でも、トーマさんはスタッフを持っていませんよね?」
「ははは……魔法じゃなくて、えーっと、ほら昨日包丁を持っていたら動きが速くなっただろ? アレだよアレ」
「……なるほど。確かに凄いんですけど、無理はなさらないでくださいね」
ひとまず獲ってきた肉とお弁当のパンを家に置き、アメリアの家で昼食をいただく事にした。
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