第9話 田舎の村での新生活に足りない物

 これからの活動方針について決めたところで、早速調理器具を手に入れるべく、鍛冶屋のモルガンさんの所へやって来た。

 ちなみに、最初は村の中で金物屋を探して見つからず、村長さんに尋ねてモルガンさんの所へ行くように言われたんだけどね。


「おぉ、トーマじゃないか。何か用かい?」

「はい。調理器具を買いたいんです」

「調理器具? あぁそうか。そう言った家財道具なども持たずにこの村へ来たのか。……いや、詳しく話さなくて良いぞ。村長を治療してくれた礼だ。ワシが適当に見繕ってやろう」


 モルガンさんは何かを察した様子で、そのまま店の奥へ。

 しかし、やっぱり異世界といったところか。

 店に並んでいるのは、剣や斧、弓矢に盾だからな。

 ……あ、いや。隅の方に、鍋や包丁なんかもあった。武器に比べてかなり種類は少ないが。


「待たせたな。これなんてどうだ? 鍋と包丁に、フォークとナイフ。それからスプーンだ」

「良いですね。……あの、まな板なんかはありませんか?」

「まな板? 何だ、それは? よく分からんが、板なら家具屋に行けばあるのではないか?」


 深手の鍋と、先端が尖っていない四角い菜切包丁等を受け取ったあと、鍛冶屋にまな板を求めても出てくる訳がないか……と、今更ながらに気付いた。

 だが、モルガンさんの様子だと、そもそもまな板を知らなさそうだな。

 ……そういえばアメリアの家にも、まな板が無かった気もする。

 昨日はホワイト・クイールという鳥肉を調理してくれたようだが、どうやって切ったのか、また今度教えてもらおうか。


「ありがとうございます。では、そちらを全部いただきます。お幾らですか?」

「はっはっは。礼だと言っただろ? 気にせず持っていけ。これから、家具なんかも買うんだろ? 金は残しておきな」

「……すみません。ありがとうございます。では、お言葉に甘えさせてもらいますね」

「おぅ、気にすんな! ……あ、そうだ! ついでに、これも持って行きな」


 そう言って、先程の包丁とは違う、普通の包丁――いわゆる万能包丁をくれた。

 料理人になるとも言っていないのに異なる二種類の包丁をくれるという事は、この村は料理のレベルが高いのだろうか。


「二本も包丁を……ありがとうございます」

「おいおい。最初に渡したのは包丁だが、こっちは魔物を倒す為の武器だぜ? こんな小さなナイフじゃ、上手く野菜は切れないぞ?」

「……そうですね。野菜を切るのにはこの包丁が向いていますが、肉や魚を切るなら、こっちのナイフの方が良いですよね?」

「あぁ。だから魔物を倒す為の武器だよ。肉なんて、料理では滅多に使わないだろ?」


 なるほど。日本だと、その名の通り色んな食材を切れる万能包丁が各家庭にあるが、野菜中心の食生活であるこの村では、野菜を切るのに適した菜切包丁が一般的なのか。

 ……つまり昨日のアメリアは、シチューに鳥肉を使っていたから、かなり奮発してくれたという事になるな。

 これは何かお礼をしに行かないとな。……生活が安定したらだが。


「そうですね。ありがとうございます」

「新しい生活は慣れるまで大変だと思うが、頑張ってくれ」


 改めてモルガンさんにお礼を言って店を出ると、家具屋や雑貨屋に青果店と、村の中の店を回って、毛布や野菜にパンなどを買った。

 だが、まな板はどこにも売っていない。

 おまけに、家具屋でまな板代わりの板が欲しいと言ったら、物凄く変な目で見られてしまった。


「ねぇ、トーマ。無いなら、自分で作っちゃえば? ほら、村の南側……トーマの家から更に南側は、大きな森だし、木なんていっぱいあるじゃない」

「自分でまな板を作る……か。流石にその発想はなかったが、これからは自給自足も考えないといけないのか。じゃあ、モルガンさんのところで斧を買ってきた方が良いのか」

「ふっふっふ。トーマ、私の力があるじゃない」

「ん? でも、コズエの力が及ぶのは初級魔法だけだろ? コズエの力が凄いのは認めるけど、初級魔法に木を切るような魔法はないぞ?」

「まぁまぁ、私を信じてよー。それじゃあ早速……南の森へ出発ー!」


 コズエの言葉を信じ、まずは買った物を家に置き、包丁……は持っていこうか。

 万能包丁みたいなナイフは元から革の鞘があるので、菜切包丁を布で巻いて村から出る。

 少し歩くと、あっという間に森へ。

 流石に、まな板に適した異世界の木がどれかは分からないので、まな板の幅くらいの太さがある木を探し……森の中で見つけた木にする事にした。


「じゃあ、トーマ。昨日使った水を生み出す魔法の出番だよー!」

「アメリアの家を覆って、火を防いだアレか? 木を切るのには適していなさそうだが?」

「ふっふっふ。水を生み出す魔法だよ? 私の力で効果が向上して、勢いよく水を出す事だって出来ちゃうんだから」

「あー、わかった。アレだろ? ウォーターカッターだっけ? 水を凄い勢いで出して、切断するやつ」

「その通りっ! という訳で、早速やってみよー!」

「≪アクア・クリエイト≫」


 コズエに教えて貰った、ウォーターカッターのイメージで水を生み出す魔法を使い……あっという間に木が倒れた。

 しかも切断面が凄く綺麗で……これなら、まな板っぽい板を作れそうだな。

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