第7話 思い通りの効果を発揮する初級魔法
体感的には午後十時と言ったところだろうか。
異世界の小さな村で、テレビも無ければパソコンもなく、照明もランプしかない。
なので、どの家も暗くなったら就寝する。
そんな時間に、レオンという男が戻って来た。
「コズエ。風魔法で家を掃除したように、コズエの力を借りれば、魔法で俺の思うような効果を発揮出来るんだよな?」
「ある程度はね。極端な例を挙げると、治癒魔法で亡くなった方を生き返らせる……なんて事は出来ないよ?」
「いや、流石にそこまでの事は考えていないさ。そうだな……例えば、この家を水の膜で覆って、燃えないようにするとか」
「この家の大きさくらいなら問題ないよー」
よし、それなら十分だ。
コズエに礼を言って静かに家を出ると、小杖を手に、先程話したイメージで魔法を使う。
「≪アクア・クリエイト≫」
本来は水を生み出すだけの初級魔法なんだけど、生み出された水が半球状の透明なドームになって、家を覆う。
その後、身を隠したところで、月明かりの下にレオンの姿が映る。
思った通り、大きな魔法使い用の杖――スタッフを手にしていて、ブツブツと何かを呟くと……
「はっ! 燃えて無くなりやがれっ! ≪ファイアー・ボール≫」
「≪ハイ・ウインド≫」
レオンが放った火の玉を、強風で大きく軌道を変えさせ、空中で爆発を起こす。
「何だっ!? 何の音だっ!?」
「今のは火の魔法じゃないか!?」
「魔物でも現れたのか!?」
大きな爆発音と、闇夜を照らす火の弾の爆発で、虫の鳴き声くらいしか聞こえていなかった村がざわつき始めた。
「なっ!? 一体何が……」
「お前がアメリアの家に火を放つ事は予想がついた。方法までは分からなかったが、お前にとっては最悪の手段だったみたいだな」
レオンが見せた、あの不敵な笑み……俺が日本で死んでしまった時の犯人が、直前で同じ顔をしていたんだよ。
トーマとして生きて来たから、もう十六年も前の事になるが絶対に忘れる事はないだろう。
あの、俺が働いていた店に火を点けたアイツの事は。
「チクショウ! お前の……お前のせいで、俺の計画がメチャクチャだっ! 殺してやるっ! 死ねっ! ≪アイシクル・ランス≫」
「≪ボンファイア≫」
レオンが俺に向かって氷の槍を放ったので、焚き火を熾すだけの初級魔法を、コズエの力で炎の壁にしてもらい、飛んで来た氷を全て溶かす。
「ど、どうやって俺の魔法を……」
「これまでお前が使ったのは、全て中級魔法だろ。悪いがそれなら俺は負けない。反省してくれれば命までは取られないだろうし、諦めてくれ」
「ふ、ふざけやがって……」
小杖しか持っていないから初級魔法しか使えない俺だが、異世界で生きていく為に魔法の勉強はもの凄くしてきた。
なので、中級どころか上級魔法だって大抵の魔法の効果を知っている。
手の内が殆どわかっているので、一対一で向き合ったこの状況では、負ける事は無い。
そう考えていたのだが、レオンが予想外の行動にでる。
「み、みんなっ! 聞いてくれっ! あの男が、突然火の魔法を――ファイアーボールを放ったんだ! 皆で一斉に攻めて奴を倒さないと、村が潰されるぞっ!」
「なんだと!? ……言われてみれば、見た事がない顔だな!? どこから来やがったんだ!?」
レオンが、先程の爆発で集まって来た村人たちに、俺が火の魔法を放ったと吹聴しはじめた。
マズいな。余所者の俺が何を言っても、村人はレオンの話を信じるだろうな。
魔法系のスキルを持っているであろうレオン一人なら何とかなるが、集まって来た十人近くの村人も一緒だと、まず勝てないぞ。
「……って、待った! お前は今、俺がファイアーボールを放ったと言ったな?」
「あぁ、この眼で確かに見たからな。間違いない! あの男が村の中で攻撃魔法を使ったんだ!」
「見ての通り、俺はこの初級魔法専用の小杖しか持っていないんだが、どうやって中級のファイアーボールを使うんだ?」
「えっ!? はぁっ!? 小杖――ワンドだとっ!? う、嘘だっ! 何処かにスタッフを隠し持っているんだろっ! そうでなければ、俺の魔法を防げるハズがないだろっ! ……あ!」
語るに落ちるというやつだろうか。
レオンが自分で勝手に魔法を使ったと言い……村人たちに引っ張られて、何処かへ連れて行かれた。
まぁこれで今夜はもう大丈夫だろう。
ようやく安心して就寝する事にした。
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