第6話 アメリアに言い寄ろうとする男
「ごちそうさまでしたっ! アメリアの作ってくれたご飯は、本当に美味しかったよ」
アメリアに呼ばれ、美味しいシチューとパンをいただいた。
味や食感が日本の野菜と似ているものもあったが、流石は異世界と言うべきか、何の肉かは全くわからかったな。
「喜んでもらえて良かったです。こ、こんなのパパッと簡単に作っただけなんですけどね」
「アメリアは何を言っているんだ? トーマさんの為にって、めちゃくちゃ気合を入れて……んぐっ!」
アメリアが突然、村長さんの口へパンを突っ込んだが……大丈夫か?
何かモゴモゴ言っているんだが……あ、大丈夫そうだな。
「えーっと、このシチューに入っていたのは……鳥肉だろうか?」
「うん! この村で育てている、ホワイト・クイールっていう鳥だよー」
なるほど。聞いた事すら無い鳥だな。
料理屋を開く前に、この世界の食べ物をもっと知らないとな。
暫く、アメリアに食材の話や、料理の話を聞いていると、おもむろに村長が立ち上がる。
「さて、俺はそろそろ寝るよ。後は若い二人でよろしくやってくれ」
そう言って、村長がリビングから奥の部屋へ移動するのだが、笑顔のサムズアップと共に扉を閉めた。
いや、何の合図なんだ?
「もうそんな時間なのか。すまない。後片付けだけしたら帰るよ」
「えっ!? あの家はまだホコリだらけですよね? 寝られる状態に無いと思いますし、泊まっていってください」
「いや、掃除は頑張ったから、家はもう綺麗なんだ」
「またまたー。幾らなんでも……あ、ごめんなさい。お客さんみたい」
アメリアと話して居ると、玄関のドアをノックする音が聞こえてきたので、その間に食器をキッチンへ運び……ふむ。水道は無くて、井戸水……か?
桶にあった水で食器を洗ってリビングへ戻ると、アメリアの声が聞こえて来た。
「帰ってください! 父はもう元気になりました!」
「はっ! バカな事を言うな。あの死にかけの村長が、突然治るかよ! それよりアメリア。お前が俺の女になると言えば、この薬で父親が助かるんだぜ?」
「だから、もう父は元気なんです! その薬も要りませんっ!」
察するに、村長が体調を崩したのを良い事に、薬をエサにしてアメリアと恋人になろうとしている奴が居るって事か。
流石にこいつは男としてクソ過ぎるな。とりあえず、追い返すか。
「アメリア、どうかしたのか?」
「トーマさん。その、村の人がちょっと……」
「お、おい! お前は誰だっ! どうしてアメリアの家に居るんだっ!? ……そ、そうか! 父親が病気で倒れ、アメリアが精神的にまいっている所を狙って近付いて来たんだなっ!?」
アメリアが怯えながら俺の背中に隠れる。
しかし、この男が言ったのは自己紹介か?
この村に住むので村人と揉めたくは無いが……気になる事がある。
「俺はトーマというんだが……アメリアの父親は病気なのか?」
「あぁ、そうだ。だから、この薬を飲ませないと治らないんだ」
「ふぅん。ところで、あんたは医者なのか? アメリアの父親は何という病気なんだ? どうしてその薬で治るってわかるんだ?」
「いや、医者ではないが……そんな事、お前に関係ないだろっ! 俺には分かるんだよっ!」
そう言って、男が俺を睨んで来る。
アメリアは村長の体調が悪いとしか言っておらず、病気だなんて一度も言っていないんだけどな。
しかも病名を聞いたら怒りだしたし、ハッキリ言って怪し過ぎる。
さて、そろそろ村長を呼んで、治っている事実を突きつけてやろうと思ったところで、男がうるさいからか、呼ばずとも村長が現れた。
「ほぉ、俺を治す薬ねぇ。誰がそんな事を言っているのかと思ったら、レオンか。そんな事をしている暇があったら、魔法の腕でも磨いたらどうなんだ?」
「はぁっ!? そ、村長っ!? どうして……あの毒は、この薬が無ければ絶対に治らないはずなのにっ!」
「毒? ほほぉ。レオンよ。詳しく聞かせてもらおうじゃないか。毒って言うのは何の事だ? そして、どうしてお前が都合よく薬なんて持っているんだ?」
「い、いや、これは……そ、そう。村長が病気になったと聞いて、わざわざ街まで行って買って来たんだよ。だ、だけど治っていたとは知らなかったな」
「あぁ。こちらのトーマさんが、体力回復効果のあるポーションを飲ませてくれたらしくてな。で、レオン。お前はいつまでそこに居る気なんだ?」
語るに落ちるという奴だろうか。
要は、アメリアに近付く為に、このレオンって奴が村長に毒を盛ったって事なんだが……村長に追い返されるレオンが、一瞬ニヤリと嫌な笑みを浮かべた。
あぁこの表情は見た事がある。
俺が日本で料理人として働いていた時に、こういう表情をした奴が居たんだ。
食い逃げしようとして捕まり、開き直った奴が。
「まったく……トーマさん、すまないな。レオンはちょっとばかし困ったやつでな」
「俺は平気だけど、それよりアメリアは大丈夫か?」
「は、はい。ありがとうございます。あの人は昔からあんな感じなので……」
なるほどな。
結局、今日はアメリアの家に泊まる事となり、風呂……というか大きな桶で身体を洗って、空きベッドを使わせてもらう事になったんだけど……
「……あ! トーマの言う通りだったよー」
「やっぱりな。ありがとう、コズエ」
夜が更けて来たところで、周囲の見回りをお願いしていたコズエが、再び家に向かって来たレオンを発見した。
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