第197話 宇宙外へ
操船席へと四人とも集まると、ジョニーが操舵輪の前に立ち
さっそく
「よし、巻きで行くぞ。このクソアニメはあと四話くらいで終わる。
俺には分かるんだ。たぶん、今から二時間くらいでスズナカを捕獲できると思う」
ナナシが苦笑しながら
「まあ、そうしようか。ジェーン、自動操縦のセットを」
「はい、王様」
ジェーンがササッと前方に並んだパネルの前に駆けていき
素早い動きでパネルに何か打ち込むと
すぐにパネル越しに見える宇宙の景色が反転し始めた。
「リーンナース星の中心部の海溝に向かいます。
スズナカが使用していた時空の歪みがあるそうなので」
ジェーンがナナシにキビキビと報告すると、彼は頷いて
不満顔のジョニーに
「その操舵輪は飾りだよ。機嫌を損ねたらすまないが
宇宙航行の専門家はここには居ないものでね」
ジョニーは仕方なさそうに
「いいだろう。で、時空の歪みに入ったら何をするんだ?」
「スズナカが混沌の蓋を開けた時間直前まで戻るので
まだ存在していた我々の星へとワープして
そしてスズナカが空けた蓋から、宇宙外へ飛び出してほしいそうだ。
あとは、修正者が導くと」
ジョニーは自信満々に
「ふっ……やはり巻いてきたな。今までのクソアニメなら
そこに行きつくまで、ダラダラとどうでもいい展開が
延々と続いていたはずだ。アイ、終わりは近いぞ!」
「……どっちでもいいけど、気は抜かないでよ?」
ジョニーは気持ち悪いくらいの爽やかスマイルで
「……やっとクソアニメが終わるからな。気を抜かずに全力で終了させる。
もう嫁が死ぬとか、子供がほぼ同い年とか、俺弄りで笑いを取ろうとするとか
そういうクソ脚本家の玩具になるのは沢山だ。
アイも全力でスズナカを捕獲してくれ!」
「……うん。もういいよね。宇宙外がどうとかそういうのは。
ミイさんは虫とか入るケースにでも入れてセイ様に返すよ!」
「その意気だ!」
珍しく気が合っている私たちにジェーンが
「すんなり行けばいいけどねぇ」
さっきまでの私と同じことを呟いたのを聞いた。
黒船は宇宙空間を異常な速度で進み続けて、あっという間に
リーンナース星の大気圏に突入して
そして、着水した後にそのまま沈んでいった。
真っ青な空と海上の景色が真っ黒な海へとあっという間に変わる。
ジョニーはわくわくした顔で
「このクソアニメが終わったら、本物の俺の人生が始まるからな!
今度はちゃんと彼女を創って、異世界ライフを満喫するんだ!
あっ、死亡フラグじゃないからな、本気だが冗談だと思ってくれ」
などと訳の分からないことを次々に話しかけてくる。
それを聞き流し続けていると、いきなり辺りがライトで照らされて
巨大な深海魚たちが泳ぐ向こうの海底の絶壁に
何か漆黒の渦が見えているのが分かる。
そして、私たちの乗っている船は、まったく躊躇なく、そちらへと突入していく。
少し、お腹に力を入れて、緊張に耐えていると
あっという間に、真っ黒な渦の中へと侵入していった。
次の瞬間には、辺りが真っ白になって、青空へとモニターの景色が変化する。
操船席のパネルから複数の警告音が鳴り響いて
ジェーンとナナシが駆け寄って、素早く操作をし始めた。
私とジョニーはよくわからないまま、並んで突っ立っているだけである。
「失敗したのか……?」
恐る恐るそう言ったジョニーにナナシは振り向かずに
「いや、時空移動をしたので、計器類が狂っただけだ。
もう、落ち着く。落ち着いたら、ワープを敢行する」
「王様、行けます!」
ジェーンがそう叫ぶと、ナナシは目の前のパネルの中央部を勢いよく押した。
次の瞬間、体がねじり曲がりそうな、猛烈な重力が四方から私を包み込んだ。
あ、あれ、これ、やばいんじゃ……。耐えられるのかな……。
次の瞬間、あっさりと意識が飛ぶ。
……
肩を叩かれて目を覚ますと、モニターで見える黒船の外の景色は
摩擦熱で真っ赤だった。
「ワープ成功したわ。過去の私たちの星の大気圏突入中よ」
鼻血がツツーと垂れてきたジェーンがそう言って
ハンカチで自分の鼻をぬぐった。涼しげな顔をしているナナシが
「混沌の穴への突入まで、三十秒だ。覚悟をした方がいい」
あれ、ジョニーは?
私が周囲を見回すと、床に失禁して気絶したまま転がっていた。
一瞬、起こそうと思ったが、ジョニーなので放っておいてもいいと思うよ!
大気圏の摩擦熱を抜けると、黒船は一気に下へと降下して行く。
青空の無数の雲が瞬く間に上へと通り過ぎていき、ナナシが
「二十秒、十秒……五秒、入った」
一瞬だけ、黒い地表が見えたと思ったら、モニターの外は真っ黒になった。
ジェーンが、大きく息を吐いて
「私たちじゃ、知覚できないようね。でも黒船は分解されてない。
少なくとも、この中に居れば安全のようよ」
失禁したまま気絶していたジョニーがパッと上半身を起こすと
「……お、もう宇宙外だな!」
と言って、嬉しそうに自分の失禁跡と床に垂れた液に手を翳して消した。
汚いけど、今は一々文句を言っている暇はないよ!
私はグルッと操舵室を取り囲むモニターの外の漆黒を見回して
「修正者を待つんですか?」
「もう来てる」
「ひゃあ!」
私は前へと三歩くらい飛び跳ねて、慌てて振り向いた。
そこには、何と、タジマ・タカユキが立っていた。
いや……この美しい衣装は見覚えがある。
これは、あれだ、スズナカが人型ホムンクルスとして造った失敗作だ。
ジョニーたちと戦って勝ったときの……ってジョニーは?
ジョニーはニヤニヤしながら、タジマもどきへと近づいて
「……やっぱりな、お前、タジマ本人だよな?
お前がスズナカを止めてたんだな?」
タジマもどきは、首を横に振って
「いや、違う。私はタジマの防衛本能を具現化したものに過ぎない。
スズナカの分裂体との闘争の末に、自己存在を突き抜け
エネルギー増殖体となった本人は、無限に自己増殖する世界を発露させ続け
この宇宙外の片隅に新たな宇宙を創造している」
「よ、よよよよよくわかんないよ……」
私は何を言っているのかわからない、ジョニーは隣で不敵な笑みを浮かべているが
いつものアニメ例えをしないということは
たぶん心の名が首をかしげているはずだ。
ナナシが興味深そうに、タジマもどきに近づいて
「つまり、タジマさんから別れた、君はガーディアンに過ぎないわけだ。
では、ひとつ質問していいかな?」
タジマもどきが頷いたので、ナナシは真剣に
「我々、四人は宇宙外で活動できるので選ばれたのではないか?」
ジェーンが大きくため息を吐いて、タジマもどきそれを見ずに頷き
「宇宙とは、つまり節理だ。全ては因果で結ばれている。
しかし、破綻、矛盾、などの混沌こそが宇宙外という無限の場所のルールだ。
君たち四人は、矛盾と破綻を多様に内包している。
この宇宙船の外に出ても、崩壊することはない」
ジョニーが真顔で詰め寄って
「おい、俺は全て理屈でできてるからな?
全ての事象はアニメ的な説明ができるし、俺の人生には矛盾も破綻もないぞ?」
一番頭おかしいあんたがそれ言ったらダメでしょ……という言葉を
恥ずかしげもなく言ってくる。
タジマもどきは、なんと真顔で頷いて
「ああ、そうだな。ジョニーの人生には破綻はなかった。
ただ、落ち込むべく落ち込み、そして昇るべく昇っただけだ。
なので、君の身体をミルンさんと交換した。
彼女は自己矛盾の塊で、さらに君たちが破綻寸前まで改造していた。
宇宙外での活動もできるようになるだろう」
「ああ、確かに、破綻を取り込んで……みたいなこと言ってましたよね?」
私がそう言うと、タジマもどきは頷いて
「さあ、行こうか。宇宙外は概念や感覚が全て破綻して矛盾した世界だ。
そこで必要なのは、その個体の強いエゴイズムだ。
破綻して矛盾した我欲により自己拡張して、スズナカの場所まで移動する。
当然、物体であるこの宇宙船にはエゴはないので
乗っていてはどこにもいけない」
ナナシがフッと笑って
「面白い……」
というとジェーンも頷く。私はさっぱり話が分からないけど
とりあえず、タジマもどきに従うことにする。
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