第196話 悲しいお知らせ
固まったまま、私はベッドの上で絡まりあう二人の女を眺める。
途中から頭が真っ白になっていき、そしてハッと気づいた時には
びしょ濡れのシーツの上、ルナーに抱き着かれて寝ていた。
「も、戻った……」
当然のように二人とも何も着ていない。
な、なんか爽やかな気持ちと困惑と不快感が
頭の中で行ったり来たりしている。
満足な笑みを浮かべて眠っているルナーの身体をほどいて
ベッドから抜け出る。
全身、ヌルヌルだ……お風呂……お風呂に行こう。
バスローブを羽織って、浴室へと小走りにかけていこうとして
ああ、ワープできるんだと思い出して、スッと脱衣室へと移動した。
誰も居ないお風呂へと入っていき、静かに体を洗い流し、そして浴槽に入る。
「……抑えてたのかなぁ……そうなの?」
ポツリと呟く。しばらく黙っていたが、どこからも返答はなかった。
そうかぁ……あれも私か……分離された私の肉欲みたいなものかなぁ……。
私にもあるのね……ネゲルム以来だと思うから、ご無沙汰?過ぎたのかな。
あと乗っちゃったルナーも責められないよね……私から誘ってたんだし。
でも、ジョニーのアホは責めていいと思う。
こんなことになったのは、中途半端に私の精神を呼んだのあのアホのせいだ。
しかしこんな毎日を続けていて、我ながら、よく発狂しないと思う。
私ってメンタル強かったんだなぁ……。
などと考えていると、隣に微かに人型のような靄が横に座っていることに気づく。
「……」
目を凝らして次第に形を成していく人型の頭の形を眺めてみる。
どう見てもツインテールだよね……これ……。
私は全力で水をかけて靄を晴らした。
今ここで、スズナカが出てきて、私に何か吹き込んできたら
ちょっとどうなるかわからない。
落ち着いていると、また私の横にツインテールの人型の靄が形を創ってきて
私はまた全力で両手を動かして人型の靄を消す。
そしてホッとすると、また人型の靄が……というのを三十回くらい繰り返して
さすがに嫌になり
「なんですか!?ミイさん、私たちを騙して
宇宙外へ行ったんじゃないんですか!?」
また人型になってきた靄に向けて文句を言うと
「……た……たすけて……た……アイ……ちゃ……ん……」
と言って靄は消え失せた。
どうやら救援を送ってきたらしい。宇宙外へ行って何か困ってるのかなぁ。
ま、いっか……簡単にはやられないだろうし、スズナカでダメなら
私が行っても同じだろう。あとでいいや……頑張って、ミイさん。
とりあえず、お風呂から上がって寝なおそう……。
用意されていた着替えを羽織り
自室へと戻っていって、シーツが濡れていたことを思い出し唖然としつつ
端から寝袋を引っ張ってきて、その中に入って寝る。
良く寝られそうだ。
……
見慣れない寝室で目を覚ました。
狭い個室のベッドの中だ。シーツにくるまっている。
室内の窓からは黒い中に星が点々としてて
あれ……なにこれ……あれ、宇宙かな……。
いきなり室内にジョニーの裏返った声で
「アイー起きたかーえっとなー悲しいお知らせがある。
俺たちの星は滅びた」
室内放送のようだ。
「……」
アホがなんか言ってるよ。きっと悪夢だよね。寝よ。目を閉じると
またジョニーの甲高い声が
「なんか、修正者によるとスズナカが宇宙外で崩壊したらしくてなー。
その時空崩壊連鎖で、俺たちの星は粉々になって消え失せた。
修正者がどうにか蓋をして、崩壊をそこで押しとどめたが
俺とナナシとジェーンとアイの四人だけしか救えなかった」
ガバッと上半身を起こす。
「ここ黒船の中!?」
私が天井に向かって声を荒げると
「お、おう……そうだぞ……宇宙船仕様に改造しといてよかった……」
私は次の瞬間には、総船室へとワープしていた。
ジョニーとナナシとジェーンが、明るく広い総船室の中で集まり
腕を組んで深刻そうな顔をしている。
「あ、ああ……来たか。アイ、俺たちの星は滅びた。
目の前の宇宙空間に、五分前まではあったんだが……」
「ミイさんのせいなの?」
ナナシが深く頷いて
「ああ、そのようだ。私も修正者からそうだと聞いた」
ジェーンが舌打ちをして
「……はぁ、まさかこうなるとはね。で、どうすんの。
当然、我々の星を亡ぼしたアホを追撃するわよね?」
「ミイさん崩壊したって……いま、聞いたけど……」
ジェーンは大きく息を吐いて
「修正者によると、核はまだ宇宙外に残ってるらしいわ。
核を見つけてしばき倒して、私たちの星をあのバカに直させないと」
「……修正者もそうしろと?」
三人とも深く頷いた。
「あの、ルナーちゃんは?」
「あのメンヘラ性欲の化身は死んだ。仕方ない。汚れキャラは死ぬ」
ジョニーが半笑いでふざけて答えてきてイラっとする。
ジェーンが首を横に振って
「四人だけよ。黒船に造った動力は取り付けてるし
何かあったときのためにジョニーに予め、宇宙船仕様にさせといたから
私たち四人が生存するのに問題はないはずよ」
ジョニーが皮肉っぽく
「宇宙外に何が待ってるかはしらんけどな!」
ナナシが頷いて
「確かに、宇宙の外がどんなものなのかはわからないが
行くしかないだろう。我々は還るところを喪った」
私は大きくため息を吐く。そして吸って
もう一度吐いて、総船室の三百六十度モニターから見える宇宙を眺める。
なんなのこの人生……というか、何でいつもこうなるの。
ジョニーのアホに、昨晩のことの文句を言う暇もない。
スズナカもスズナカだ。宇宙外で崩壊するなら
私たちに関係ないところで壊れてほしい。
「……行きましょう。ミイさんを探しに」
覚悟を決めた私は三人にそう言った。
宇宙船内の大釜を中心にした機関部からは、無限に混沌粒子が
艦内に供給されるらしく、その混沌粒子を使って
この改造された黒船は動力を得ているという説明をジェーンからされた。
「……」
真っ白な通路に立って、奥に広がるガラス張りの機関部を眺める。
隣に立つジェーンは
「ま、もう少し、この乗り物に慣れる時間は欲しかったけどね」
「あの……本当に、ミイさん探したら、私たちの星は復活するんだろうか」
「修正者を信じるしかないでしょ。私や王様もメッセージは聞いたわ」
私はジェーンに頷くしかない。
「それで、この宇宙船でどうやってミイさんを追うの?」
「……突入口はリーンナース星にあるそうよ。
スズナカが自分からあなたたちを遠ざけるために
無理やり時空を歪めた痕跡から、追えるとか言ってたわ」
「……犬が匂いを辿るみたいな感じみたいに?」
ジェーンは一瞬、噴き出しそうになって
「そんなもんかもね。高次元生物から見ればね」
「お、居たな。そろそろ移動するぞ!」
ワープしてきたジョニーがいきなり背後から声をかけてくる。
「ねぇ、ジョニーはさ、なんでそんなに明るいの?」
ジョニーは不敵な笑みを浮かべながら
「ふっ……説明してやろう」
絶対にアニメ例えで酷い解説しか出てこないけど
今は何となく聞いておきたい。ジョニーはニヤリと笑って
「いいか?異世界転生ものとして始まったこのクソアニメは
脚本家が暴走し続けて、変なエロ連発とか肩透かしの展開を続け
そして、スズナカという魔物まで呼び込んだ挙句に
とうとう宇宙船で宇宙外に行くとか言い出した」
「……」
何となくは分かる。ジョニーはかなり嬉しそうに
「つまりだ。終わりが近いんだよ。
打ち切りなのか予定通りなのかよくわからないが
ファンタジーが次元の歪みがどうこうとか、宇宙の真理がどうだか
言い出したということは、もはやラスボス前だ。
あとはみんなでスズナカを討伐して、ハッピーエンドになるだけだな!」
「ジョニーのアニメ理論では、いい方向に進んでると?」
珍しく真面目に訊き返してしまうと、やつは嬉しそうに
「そういうことだ!分かってきたな!」
と言って、スッと消えて去っていった。
「だったらいいけどね……」
私は期待せずにそう呟いた。
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