第191話 レンシア

真っ白な薄い布の服を着た。

金髪おかっぱ姿の女性が両腕を大きく上にあげて体を伸ばしていた。

真っ白な肌と碧い両目で女性はジョニーを見つめると

走って近づいていき、そして抱き着いた。

「お、な、なんだ……ついにモテ期が来たか」

めちゃくちゃ照れた顔で何とか、言葉をひねり出したジョニーを

さらに女性は真っ白な腕で強く抱きしめて

「ありがと。あなた、優しいんだね」

ジョニーは耳まで真っ赤になって

「な、なんのことかわからんが……と、とにかく

 まずは名乗ってくれ……あと、体を離せ……」

女性は素早い動きで、全員が見える位置まで移動すると

「私、レンシアです。元天使で、この空間にずっと幽閉されてたのです」

そう言って、光り輝く笑みで頭を下げてきた。

ジェーンが口角が片方上がった変な笑い方をしながら、

「……そういう、救われ方をするとは思ってもみなかったわ。

 私よ。こっちの方は見覚えがあるでしょ?」

隣のナナシを見てくる。

レンシアと名乗った女性は、ようやく気付いて驚いた顔で

「お、おおお……簡単には死なないとは思っていたけれど

 ずいぶんと、長生きですね。あれ以来ですか」

ナナシは皮肉めいた笑い方で

「まあ、そうなるね。私はナナシと名乗っていて、この子はジェーン。

 そしてこちらのお二人が、現在の支配者だ。ジョニーさんとアイさん。

 さらに銀髪の美女はセイさん、他の星から客人だね」

レンシアは好奇心旺盛そうな顔でグルッと全員を見回すと

セイに近寄って

「とてもお美しいですね、よろしくレンシアです」

セイは差し出された手を握り返して

「……人工生物の類だな。昔の支配者が創り出した天使か。

 差し詰め裏切って、囚われてたとかそういうことだろ?

 ……ああ、さっきのビルにしがみついてた黒い骨が元のお前か。

 ジョニーのライトアップのエネルギー吸って復活したとかだな?」

真顔で全て察した顔で解説してしまう。私が呆然としている近くで

レンシアは花のように微笑んで頷いて

「その通りです。ジョニー様が助けてくださった。

 私は、光の大天使でしたので、闇の中で囚われていました」

サッとジョニーの横に移動して、腕を組んだ。

な、ななな何か、随分積極的な人だよ!ジョニーへの好意を隠そうともしてない。

私が目を丸くして、二人を眺めていると

ジョニーが少しうつ向いて、照れた顔で

「ちょ、ちょっと待て……俺には、メイズという心の嫁が……」

レンシアはニコッと微笑んで

「何でも構いません。私、あなたの優しさが好きです。

 私には常に光が必要なのです。あなたのお傍に居れば

 二度と枯れることはないと思います」

「ま、まあ、そういうことならいいんだが……」

ジョニーも満更じゃなさそうだなぁ……ま、いっか

メイズさんを喪って、もう長いからね。彼女くらい居たって。

私が勝手に腕を組んで頷いていると、レンシアがこちらを向いて

「アイ様、そういうことでよろしいでしょうか?」

私にわざわざ確認を取ってくる。

「レンシアさん、いいんじゃないでしょうか。

 ジョニーのお嫁さんは、もう亡くなってますし。

 ただ、こいつアホなので、ちゃんと手綱を握ってあげてください」

レンシアは花のように微笑んで頷いた。

ジェーンがセイと並んで

「なんか、すんなり行き過ぎてて気持ち悪いわね……」

「そうかぁ?セイ様、あのブサメンはもてないから

 自分に寄って来る綺麗な女なら誰でもいいだけだと思うぞ?」

「たしかに、そうかも……」

ジョニーはもはやマントの下のパンツを履いただけの身体の

肌の部分全体が真っ赤になるくらい照れている。

ナナシは涼やかに、私たちを一瞥するとゆっくりと廃墟群の中へと歩き出した。

ジェーンが飛ぶようについていき、私たちもそれに続く。


ナナシはしばらく歩くと、下からの風が吹き上げてきている

巨大な穴の前で立ち止まる。穴の周囲は青い物質で固められている。

「前回、来た時もここから降りた。

 どうしようか、ショートカットするかね?」

ジョニーが不敵な笑みで何か言おうとする前に

その腕に自分の腕をしっかり絡めているレンシアが

「はーい、降りましょうー」

と言って、その様子を見たナナシは軽く鼻で哂うと

「……回復が早くて助かるよ。一応、気を遣ったのだが」

レンシアは花のように微笑みながら

「上ってきた時の記憶は微かにしか残っていませんよ。

 行きましょう。私、元々は前向きな性格ですから」

ジェーンが皮肉っぽく笑いながら

「進むのは前でも後ろでもなくて、ろくでもない下だけどね」

と言いながら、穴へと飛び降りて行った。ナナシも躊躇せずにそれに続き

レンシアと共にジョニーも降りて行った。

セイが私の手を握って

「行くぞ」

と穴に落ちていく。


延々と続く暗闇の中をひたすら落ちていっていると

私と手を繋いでいるセイがポツリと

「全部、用意されてたんだよ。この時のためにな」

「やっぱり、修正者ですか?」

「だろうな。当然、レンシアを残すためだけの装置なはずないからな。

 あとひとつ、何か大きな仕掛けがあるだろうな」

「レンシアさん、ジョニーを気に入ったみたいですね」

セイは暗闇の中、しばらく黙ると

「あのブサメンは、バカだが基本的には陽気だからな。

 光が欲しいなら、あいつの傍にいるのは正しいかもしれない」

「セイ様は、どこでそんな風に人間を見れるようになったんですか?」

「……これでも、色々あったからな……セイ様、百歳余裕で越えてるぞ……」

一瞬、驚いて手を放してしまいそうになり

セイから両腕で抱き留められて、姿勢が安定する。

「セイ様っておばあちゃんだったんですね……」

「いや、違うんだよ。セイ様の種族は寿命が人間の七倍とかあるんだ。

 まだ、人間でいえば三十前半くらいだな」

「そ、そうだったんですか……いいなぁ……」

確かに人間離れした美しさだとは思っていた。

「長く生きれば、いいってもんじゃないぞ。

 人の方が短いからこそ、凝縮した人生かもしれんな」

「……そうですね」

そんな感じでセイと雑談をしながら

暗闇の中を落ちていくという状態が一時間ほど続くと

足元に光が見えてきて、瞬く間にそれは大きくなり

そしてうわっ、まぶしっと思った次の瞬間には、青空の中だった。

足元には穏やかな海が広がっている。

先に下を降下していくジョニーとレンシア、ナナシとジェーンは

急激に降下速度を落としたようなので

セイと手を繋いでる私も、自由落下に任せるのはやめた。

ゆっくりと海へと落ちていく。

セイがポツリと

「空間を歪めて創った系の世界だな。空気の流れが地下のものじゃない」

と辺りを見回しながら言ってきた。

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