第190話 すっごいライトアップされる

巨大な円筒状の壁に沿ってグルグルと下へと降りていく階段を

ナナシ、ジェーン、私、ジョニー、セイの順で一列に私たちは進んでいく。

左側は壁だが、当然右側の手すりは無い。

全員飛べるので転落を心配する必要はないがやっぱり何となく怖い。

二百段ほど降りると、左側の壁に人の背丈ほど格子の扉が見えてくる。

先頭のナナシがゆっくり降りながら

「やはり、月日の流れに耐えきれず消滅しているな。

 ここには、太古の昔の帝国で悪逆の限りを尽くした皇妃が幽閉されていた。

 アンデッドとしてね」

私は通り過ぎるときに、格子の中を確認してみるが

暗闇以外には何も感じなかった。

そのまま全員で無言で、下へと壁に沿った階段を降り続けると

今度は壁に太った人型の穴が開いていた。

「これは、金の力で数万人の命を弄び続けた者が埋められていた跡だ。

 二代前の女神はこういう者をやりたいようにさせて

 そしていきなり罰を与えるのが、至上の愉しみだった」

私の背後からジョニーが

「いいやつじゃないのか?ちゃんと神罰を与えてるぞ」

そのさらに背後からセイが不快そうに

「神ならそもそも最初から芽を摘めるだろー?

 そんなこともわからないのか?セイ様はゲシウムでそうしてるがー?」

「ふっ……バトルアニメ的には悪いことさせてそれを討伐させるのが王道だぞ。

 最初から悪人が居ないと平和な日常ものアニメしかできんだろ」

ジョニーの屁理屈の後に、セイの大きなため息が聞こえる。

ナナシは軽く笑い声を立てて、さらに階段を降りていく。


その後も、壁沿いの階段をグルグルと降りていくが

感覚の狭くなっていく牢獄や様々な体系の人型の穴が増えていくだけで

罪人は一人も見当たらなかった。

そして、そろそろ階段の終わりが下へ見えてくる所で

ナナシはピタッと立ち止まって

「ああ、生きていたか。そうかもしれないとは思っていたが」

ジェーンが大きくため息を吐いて

「でしょうね。引導渡しときましょうか。

 ここまで降りればもう飛んでも大丈夫でしょう」

階段を蹴って、円筒の開けた中心辺りにフワフワと飛んでいく。

すると、何も見えない空間にいきなり何もない空間から伸びている

錆びた鎖に四方八方から繋がれた

背の高い骨が現れた。ジェーンが階段から様子を伺っている私たちにも聞こえる声で

「スウェンノーグ!!もう戦いは終わったわ!!あんたの力は必要ない!」

そう叫んだ後に、フワフワとこちらへと戻ってきて

「ダメですね。ちょっとアイちゃん、来て」

私の手を取って、中心に浮かぶ骨へと宙を浮いていく。

そして寸前まで近寄ると、ジェーンは真顔で

「消してやって」

「いいの?あなたの仲間だったんでしょ?」

「そうよ。でも、こいつは戦いたいだけだから、手に負えない。一思いにお願い」

私は手を翳して、もう一度ジェーンを見ると、深く頷いたので

鎖に巻かれた人骨に"消えて"と強く願った。

一瞬、怒りに満ちた顔の金髪の美青年の顔が見えて

人骨は鎖ごと跡形もなく消え失せた。

ジェーンはホッとした顔をして、私の手を引いて階段へと戻っていく。


階段を降り切ると、ナナシはグルッと囲う壁を見回して

「ないな。ハーティカルが消したままか。

 悪いがジョニーさん、私についてきてくれないか」

ジョニーが頷くと、無って左側の壁へと歩いていき

「ここに、入り口を作ってほしい。高さ幅共に二メートルほどでお願いしたい」

ジョニーが黙って手を翳して、言われた通りの入り口を即座に作ると

その先には暗い通路が伸びていた。

「暗いままでいい。行こう」

ナナシはためらわずに足早に歩いていき暗闇の中へと消えた。

私たちもその後ろを続く。


ナナシの気配だけを頼りをついていくと

空気の流れが変わり、開けた空間に出たと分かる。暗闇の中から

「居ないな」

「王様、逝ったようですね」

ナナシは大きく息を吐くと

「アイさん、悪いが、辺りを照らしてくれないか」

私は暗闇の中、両腕を上に向けて"闇よ消えて"と唱えた。

辺りは高い壁の崩れたビルや、半壊や全壊した家屋だらけだった。

遠くの半ば崩落したビルにしがみつくようなまま事切れている

真っ黒に変色した巨人の人骨が目立つ。

ジェーンとナナシは感慨深げにそれを眺めながら

「……形は残っているが……」

「もう死んでますね。気配がありません」

いきなりジョニーのアホが、くるっと一周回ってビルの巨人を指さすと

「超スペクタクルサラウンド!らいとあーっぷ!」

気が狂ったかのように、裏声で謎の呪文を唱えた。

それなに……と尋ねる前にアホは得意げに

「ライトブラスターあかりの人気キャラ

 ブライトバスターさとしのライトアップハナムケていう必殺技だ」

「……訊きたくないけど、効果は何……」

アホは胸をそらして、さらに得意げな顔で

「すっごいライトアップされる」

「まさかそれだけ?」

「うん。死に行く敵の怪人たちをライトアップして弔う技だ。

 作品内では真剣な調子だが、どう見てもギャグにしか見えんから

 SNSでも毎週バカ受けだったんだぞ?#今週の死体蹴りとかつけられてた」

「……なんで、今、使おうと思ったの」

「いや、楽しいだろ?あんまりナナシたちがしんみりしてたからな。

 ちょっと笑いをそろそろな」

呆れているとビルにしがみついて事切れている黒い巨人の人骨に

天井から幾重にも黄金の光が降り注いで、

さらに透明な花が周囲に咲き誇りまくったあげくに、ビルの背後に

何十発もの色とりどりの花火が打ち上がり始めた。

ナナシとジェーンはこちらを振り向かない。

セイがため息を吐きながら、近づいてきて

「おい、ブサメン、お前は何を見ていたんだ?

 ナナシたちの様子的に、とてつもなく深い後悔とやりきれなさが

 この地下迷宮には染みついているのは分かるだろう?

 よくあんなにおちょくれるな……」

ジョニーは不敵な笑みを浮かべると

「いいか?アニメ視聴者たちは仕事や学業で疲れているんだ。

 そんな彼らを自害に追い込むような鬱展開など容認できるわけないだろ。

 いいか?異世界ファンタジーものだと思ってたら鬱展開劇盛りの

 SFディストピアものでしたとか、そういうのは小説でやれ」

セイは呆れた顔で

「……どこを向いてるんだ」

と呟いて黙ってしまった。


ビルの背後に花火が打ち上がり終わると、ジェーンが振り返らずに爆笑し始めた。

「あははは!バカだよねぇ……」

ナナシも微かに笑っているように背中を揺らす。

同時にビルにしがみついている巨人の黒い骨はガラガラと崩れ落ちていき

そして跡形もなくなった。

ナナシは静かに振り向いてきて、ジョニーを涼やかに見つめると

「良い葬儀だった。では行こうか」

ジョニーも頷き返して

「ふっ。これも主人公補正だ。自然に神対応連発する、これこそ俺だ」

「あーナナシさん、すいません。アホのいうことは気にしないでください。

 たまたま、上手くいっただけなので」

私が間に入って謝りつつ、さすがにやりすぎたアホをナナシから引き離していると

「ふぁー……久しぶりにいい光を吸ったなぁ」

ナナシたちの背後から芯の強そうな女性の声が響いてくる。

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