第184話 開いた状態
とりあえず自室へと帰ろうと、中庭見ながら回廊を歩いていると
またフッと意識が落ちた。
……
必要なものはツガイだ。例えば一心同体の男と女それらは反発しあって混ざり合う。
たとえそれが表層上のものに過ぎぬとも
それらは多数の多次元の目に触れ、流れ始める。
私のツガイは、私を求め、無を有にしようとして
君たちの言う形而上的存在である我々に身体を与えようとして
君を選んだ。ただ、延々と拡大しインフレーションを起こし
どこまでもその可能性を高めようとし続けた。
一連の流れを破綻させ、破り千切れるまで。
「お、おい、アイ、大丈夫か?」
ルナーから身体を支えられて、我に返る。
「な、なんか……ずっと誰かに話しかけられ続けてる」
またジョニーが聞いたら激怒しそうな文言が並んでいた。
「ツガイとか言ってた……男と女とか、反発しあい混ざり合うとか」
ルナーは難しい顔になり
「……修正者がコンタクトを取ろうとしているのかもしれないな」
「小難しいことをずっと言ってるけど、悪い感じはしないよ……」
むしろ、誠実さすら感じた。必死に説明を続けているような。
「スズナカはまだ出てくる気配はしないのか?」
「……わかんないけど、まだ能力に制限がかかってる気はする」
もし解放されていたら、もっと好き勝手出てきているだろう。
立ち上がれたので、ルナーと共に歩いていると
ローブ姿のナナシが足早にやってきて
「ああ、良かった。少し、困った事態になっている」
継ぎはぎの顔で真剣に私に言ってくる。
冷静沈着なナナシが滅多にない深刻そうな表情をしていたので
よほど拙いのだろうと、ナナシ、ルナーと共に会議室へと急ぐと
地図を広げて待っていたジェーンが
「あ、来たのね。アニーちゃんは還ったわ。
あのイカレ芸術家が、散々私とセットで辱めたからね」
「絵見たけど……何か、ごめん……ほんと、ごめんなさい」
深く頭を下げるとジェーンは鼻で哂って
「元悪魔だから、別に。若いころ思い出して、楽しかったくらいよ。
そんなことより、地図を見て」
テーブルに大きく広げられた世界地図へと近づくと
天帝国のある大陸の東に描かれた、別の大河に幾重にも分断された大陸の中心付近に
大きく赤い丸で囲まれた地域がある。
長方形を歪めたような陸地を四方が大河で分断されている場所だ。
「ナンバの西に位置する、
東西南北で千七百キロのグァール・ナバス連邦国家群なんだけど
あなたたちが帰還した三十七分前に、ほぼ同時に
この陸地部分だけが、丸ごと漆黒の穴に変化してるはずよ。
王様が混沌粒子の流れで察知したから間違いないわ」
「あ、穴?」
「ええ、陸地が消えて、底なしの穴になったの」
「それ、スズナカか修正者の仕業ですよね?」
ナナシとジェーンが同時に頷いた。ナナシが顎に手を当てて大きくため息を吐くと
「恐らく、管理者であるアイちゃんをリーンナース星に封印している間に
不安定になったこの星の混沌粒子を悪用して
スズナカが混沌の蓋を無理やりこじ開けたと思ってるんだけど」
「そ、そうか……それで、私の意識をずっといろんなところに飛ばして……」
スズナカはもう待ちきれなくなったのだろうか……。
むしろ、時間の縛りがないのなら、待つとか待たないとかじゃなくて
そもそも、ここまで綿密に計画していただけなのだろうか……。
そこでジョニーが駆けこんできた。
「お、おい!ポエムマンがまた俺の頭の中で
ぐぁーぱなすとかいう国が消されかけてたから、大地ごと別次元に退避させたから
この星のどこかに具現化してくれって!わけわかんないこと言ってるんだが!」
ジェーンが大きくため息を吐いて
「これで決まったわ。スズナカは、グァール・ナバス連邦国家群を消し去って
混沌の蓋を開けたのね」
ナナシも大きく息を吐いて
「だろうね。修正者は我々の味方だったわけだ」
「で、でも、混沌の消費の調整をして、それで私たちが
混沌の蓋を開けられるようになったらって……ミイさんが……」
ジョニーが首を横に振り
「スズナカだぞ?全て、何もかもこの瞬間のために延々と動いてたはずだ。
ああ、俺は知ってるよ。この現実はいつもクソアニメだ。
巧妙に創られた伏線とか美しい展開なんてない。
汚らしくのたうちまわって、クソみたいな結果が出続けるだけだ」
うんざりした顔で言ってきた。
「じょ、ジョニー……」
泣きそうだ。結局、スズナカにも騙され続けていたのか。
ナナシが皮肉めいた笑いを浮かべて、ゆっくり静かに
「偽の地球に集められているメンバーは有能な者ばかりだ。
邪魔をしてくる可能性のある者たちを隔離して
そして、リーンナース星でアイさんを救出している間は
ナンヤさんと、セイさんという超越者二人はそちらへと注意を向ける。
さらにもう一人の管理者であるジョニーさんも、その星へと出向いていて
一時的にこの星は、完全に管理者不在になる」
「な、なんてこと……」
私は開いた口が塞がらない。スズナカは色々やらせるふりをして
結局、私たちをこの星から不在にするという機会を待っていたのか。
ジョニーが不思議そうに
「だけど、俺とアイが同時に偽の地球に居た時期もあったぞ?
まだその時は、ナンヤもセイもこっちに関わって無かったろ?」
私はふと気づいた。
「た、たしか、スズナカが愚痴ってた。
ミラクさんが横から介入して私たちをゲシウムに送ったって。
た、たぶん、ミラクさんがスズナカをずっと監視してたから
好き勝手出来なかったのでは?」
だとするならば、好き勝手してるこの状況は……。
嫌な予感がし始めると、セイが慌てた顔で会議室へとワープしてきた。
「お、おい!セイ様、ちょっとゲシウムにワープで還ったんだが
ミラクがどこにもいないんだ!!
あいつ、ゲシウムのある宇宙から出られないはずなんだが!?」
「い、居ないんですか!?」
ナナシが冷静な顔で
「消されたか、または乗っ取られたか」
セイがさらに慌てながら
「い、いやいやいや、待て!あいつは恐らくミイより強いぞ?
消されるとかありえないだろ!
過去になんかヤバいことがあって、ゲシウムのある閉鎖空間に幽閉されてるんだ!
存在がでかすぎてあの世界からは外に出ていけないから
どこにもいけないはずなんだが!」
「よ、よくわからないけど、セイ様、どうしよう……」
私はセイと並んで会議室を右往左往するしかない。ジョニーが死にそうな顔で
「……とりあえず、ぐぅなーばすなんとかとかいう国を
どこかに具現化しよう……なんてことだ……。
クソアニメがさらに極まってしまった。
異世界ファンタジーじゃなくて、スズナカのクソ脱出劇だったのか……」
ブツブツと呟いて、その場に座り込んだ。
ずっと黙って聞いていたルナーが
「とりあえず、現地調査するのが先ではないか?
全員で行って、みてみよう」
ナナシとジェーンも冷静に頷いた。
全員を空を自由に飛べる状態に私とジョニーがして
空を高速で駆けて、惑星の裏側の大陸中央部へと行くと
たしかに、地平線の先まで延々と漆黒の穴が広がっていた。
国土を囲む大河が穴に流れ込んでいく様子はないので
どうやら普通の物理的な存在ではないらしい。
私と手を繋いでいるルナーが
「凄いな、穴の中に何の気配も物質的な存在も感じられない。
私には完全なる無にしか見えないな」
「これが、混沌の蓋が開いた状態か。興味深いな」
ナナシも宙に浮かんで腕を組みながら言う。
言葉もなく、呆然と私は皆と見下ろしていると急に頭の中に
すでに扉は開かれてしまった。私は理の破壊者を止めるべく
これから力を注がねばならない。
君たちは、破綻を吸収した後にスズナカを追ってくれ。
それらは、あの存在を止める援けとなるだろう。
声は短くそう言うと黙り込む。私たちの間に沈黙が流れて
冷や汗を垂らしているセイが
「……もっかい邪神討滅号を呼ぶしかないな……」
と呟いて、その場から消えた。
ナナシはジェーンの耳元に何かを囁き、彼女はジョニーに
「こっちに残って、修復と復元を私たちとしましょう。
恐らく、セイさんと一緒にアイちゃんとルナーちゃんが
セイさんたちの仲間のもとに向かうだろうから」
「わ、わかった……とにかく、やれることをやろう。
このままじゃ、このクソアニメはバッドエンドで終わってしまう気がする」
私の手をルナーがギュッと握りしめて
「私は、今度は離れないぞ」
「そ、そうだね。一緒に居て」
私もルナーの手を握り返した。
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