第57話 高級レストランにて

 マッケンジーと入ったのは、ホテルの1階にある、豪華なレストランだった。


 宿泊客以外に多くの人の出入りがあり、凄く混んでいる。

 人気がある店である事がうかがえる。



「優桂里、こっちだ!」

 

 そう言うと、マッケンジーは、いきなり手を掴んだ。

 驚いて見返す私に、彼は知らんぷりを決め込んで先を急ぐ。

 私は、半ば諦めて、ついて行くしかなかった。


 彼は、スタッフが出入りすると思われる扉に近づくと、おもむろに開いた。



「さあ、ここから入るぞ!」


 マッケンジーは、当然のような顔をして入って行く。



「ちょっと待て! ここは、立ち入り禁止だぞ!」


 案の定、不審者と思われたようで、中から男性が近づいてきた。



「おまえ達は不法侵入だぞ。 警察に、通報するからな!」


 男性は、かなり威圧的な態度だ。



「あんたは、新入りなのか?」


 マッケンジーは、笑顔で問いかけたが、相手の怒りを逆撫でしているようで、心配になってしまう。



「新入りだと? おまえには、関係のない事だ! 弁明は警察で言え!」


 そう言うと、スマホをポケットから取り出した。



「従業員の教育は、どうなってる!」


 マッケンジーは、大きな声で叫ぶように言うと、スマホを取り出して、どこかに電話を掛けている。


 トラブルの騒ぎを聞き付けたのか、女性の従業員が駆け寄って来た。



「オーナー」


 女性は、マッケンジーの顔を見るなり、驚いたような声をあげた。

 そして、直ぐにどこかに走って行った。


 しばらくして、女性は、髪をビシッと整えた、スーツ姿の男性を伴って現れた。


 男性は、心配そうにマッケンジーを見た後、最初に対応した男性を呼びつけた。

 どうやら、事の子細を聞き出しているようである。



 そして、マッケンジーが電話を終えると、髪をビシッと整えた、スーツ姿の男性が声を掛けた。



「オーナー、大変失礼な事をしてしまいました。 弁解の余地もありません」



「やあ、マディソン。 私は、非常に不愉快な思いをしたよ。 私の事は、従業員に周知するように言っておいたよな。 潰れそうなホテルごと再生してやったのに、この仕打ちとは …」


 マッケンジーが話すと、マディソンの額から汗が滴り落ちた。



「はい。 そのように申し渡していたのですが、このバカは入ったばかりで …。 オーナーの事を、失念していたようです」



「オーナーとは気づかずに、申し訳ありませんでした」


 男性は、最初の威勢はどこへやら、震えながら謝った。



「私達を、警察に引き渡すのでは?」



「警察には、誤解だったと連絡しました。 この男は、即刻、解雇します」


 マディソンは、縋るような目でマッケンジーを見た。



「ホテルチェーンのCEOには連絡しておいたが …。 まあ、解雇する必要はないさ。 但し、 今回は大目に見るが、次はないぞ。 さあ、支配人。 いつもの席を用意してくれ!」


 マッケンジーが、マディソンの肩を叩くと、彼の案内により奥の部屋に入った。


 あれだけ混んでいたのに客が誰も居ない。

 ここは、一般客と隔絶された部屋のようだ。



「オーナー。 この度は、本当に申し訳ありませんでした。 それから、お連れ様にも不快な思いをさせて、すみませんでした」



「この娘は、日本から来たんだ。 最高のステーキを出してくれ!」



「はい。 ステーキを中心としたフルコースを、ご用意させていただきます」


 コース料理は、支配人自らが運んで来て、料理の説明をした。

 アメリカの料理は、ダイナミック過ぎて、日本人の口に合わないと思ったが、それは、良い意味で裏切られた。


 量も多すぎず、また味付けも繊細で、日本人好みの物だった。



「どうだ、優桂里! 旨いか?」



「はい。 とても美味しいです。 このお肉は、日本で言えば霜降りのようだけど、アメリカでも日本のような飼育方法を取ってるの?」




「この肉は、日本から輸入しているんだ。 君の知っている企業からだぞ。 どこか分かるか?」



「二見食品ね」



「正解だ! 君の父上から紹介されたのさ」


 マッケンジーは、珍しく真面目な顔をした。

 そして、続けた。



「ここのホテルは、倒産寸前だったものを、俺が買い取って再生させたんだ。 高級路線だった物を、さらに、最上級に格上げした。 この経営を成り立たせるには、どうすれば良いと思う?」



「客層を変えるしかないと思うけど …。 可能なのかしら?」



「人によっては、可能だ。 そこには、信用が物を言う」



「アメリカには、想像を絶するような、お金持ちが多く居るんでしょ。 そういう人達との繋がりがあったら …。 もしかして …」



「そうだ。 ブラックカンパニーで、桁外れの裕福な顧客の信用を勝ち取っている。 それが、集客に結びつく。 ホテルにも投資を募っているから、経営がうまくいけば、さらに資金も集まる。 簡単な例だが、これが経営というものだ。 価値を産み出す物には、とことん金を掛ける」



「日の元は、どうなの?」



「菱友グループに取っては、魅力的な存在だ。 しかし、丸菱グループに取っては、そうでもない」



「AI技術の有無よね」



「丸菱グループがキーテクノロジーに拘っているのは、AI技術があるからだ。 うまく行けば、キーテクノロジーを呑み込もうとするだろう。 恐らくは、菱友グループの呪縛から逃れる、唯一の手段と考えているだろう」



「そんな事ができるの? キーテクノロジーはアメリカの大企業よ!」


 私には、マッケンジーの話が、荒唐無稽に思えた。



「そうでも無いさ。 経営に行き詰まった時の、このホテルのようにな」


 マッケンジーは、ニヤッと笑った。



つづく


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【雲の彼方】最愛の夫を裏切ってしまった。忍び寄る誘惑と深い後悔の念、人は過ちを犯す。 初心TARO @cbrha

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