第13話 恐れと怒り

 風間が、昨夜の事を夫にバラすかと思うと心配だった。彼を黙らせるために何とかしなければならないと思った。


 私は、いても立ってもおられず定時に退社した。


 帰ってスマホを見ると、風間からの着信が18件も入っていた。


 私は、彼に終わりを告げるため、意を決して電話した。



「優佳里か? 何度も電話したのに出ないから心配したんだ! 君の部長としての立場を考えて、二見食品には電話しなかったんだ。 やっと話せたぜ!」


 風間は、私の声を聞いて安心した様子だ。



「言う事はそれだけ? 商談も含め、金輪際、私に関わらないでほしいの。 昨夜の事も絶対に言わないで。 でないと、あなたに強要されたと言うわ」



「昨夜の事は、スマホで撮影してお互いにデータを共有したじゃないか。 そこで、2人の愛を誓いあった。 あれを見れば、強要なんて言えない。 見れば、旦那も離婚に応じてくれる。 少なくとも、俺が旦那だったら耐えられない」



「何を言ってるの?」

 

 私には、記憶がなかった。

 風間に言われた撮影と言う言葉でパニックになり、何も言えなくなってしまった。



「自分のスマホを見てから、もう一度電話してくれ。 昨夜の君が、本物なんだよ。 心の奥底にある感情は自分でも気づかないものさ」



「そんな …」


 私は、電話を切った。



 風間に言われ、薄らとだが記憶が蘇ってきた。だから、スマホの映像は直ぐに見つかった。


 そこには、ホテルの一室で風間と映る自分がいた。

 酔っ払ってる割に、しっかりとした口調だ。それは信じられない光景だった。


 風間は服を着てるが、なぜか、私は下着姿だった。開放的になると服を脱ぐ悪い癖が出たようだ。凄く恥ずかしい。



「君があまりに美人だから、スマホで撮らせてほしい。 ここに固定するぞ。 データは、君のスマホにも共有するからな。 俺も映ってるから変な映像は撮れない。 だから安心してくれ」



「もう撮ってるじゃん。 なに言ってんだか」


 映像の私は、笑っていた。



「なあ、優佳里。 俺たちは、運命で結ばれていたんだな」



「そうね。 高校の時の思いが、やっと叶うわ」



「旦那とはどうする?」



「それは言わないで」



「俺に似てるから、結婚したんだろ。 なら、考える必要はない。 俺がオリジナルなんだ」



「それは、そうなんだけど。 夫とは、一緒にいて愛情が芽生えたわ」



「でも、そのために実家と疎遠になった。 俺なら、素性がしっかりしてるから認めてもらえる。 なっ、旦那と別れて俺と一緒になると約束してくれ!」



「う〜ん」



「どうなんだよ」


 映像の中で、風間はふざけて私をくすぐってきた。嬉しそうに受けている自分に腹が立つ。



「分かったわ。 そうする」


 映像の私は、ためらわず返事した。これを夫に見られたら、言い訳できない。私はパニックになってしまった。



「そうか、嬉しいぜ!」


 映像の中で、風間は、私に口づけをした。



「そうだ、風呂に入ろうぜ!」



「うん」


 風間が言うと、映像の私は当然の如くブラを外した。

 恥ずかしさで、消えてなくなりたくなった。



「ワーオ! 優佳里のオッパイを初めて見た。 小ぶりだが、俺は好きだぜ」



「風間先輩のイジワル!」

 

 映像を見て、恥ずかしさで目を覆ってしまった。これ以上脱がない事を祈ったが、それは叶わなかった。



「優佳里は、パンツ一枚なんだから、ここで脱いで行こうぜ!」



「もう、風間先輩のスケベ」



 風間と私は立ち上がり、その場で全裸になり浴室に向かった。



「あっ」


 声がした後、風間が戻って来て映像を停止した。




 私は 風間に電話した。


「映像を見たわ。 あの時の私はどうかしてた。 ねえ、映像は、風呂に行くまでの一本だけよね」



「あれだけさ。 でも、君の全てを見たけど …」



「それ以上、言うな!」


 私は、風間が喋るのを遮り、思わず叫んでしまった。



「そう怒るなよ。 でも、安心しな。 俺には裸を撮影する趣味は無い。 それに、俺も映ってるから恥ずかしいのは一緒さ。 ところで、これから会えないか?」



「もう無理。 絶対に無理!」



「そう言うなよ。 支配人の野尻の奴から連絡が行っただろ。 その件もあるんだ。 兄貴が奴を動かしてる。 俺は兄貴と対立してるが、母は俺に味方してるから、最後には俺が勝つ」



「あなたの母が味方だと、なんで勝つの?」



「母の実家の父は、立田の大株主なんだ。 しかも、母を溺愛してる。 母が祖父を動かせば、父と兄貴は従わざるを得ないのさ」



「なんか、複雑なのね。 でも、私には関係ない。 もう会わない」



「あの映像は、お互いの愛を誓うためのものだ。 あれが嘘だと言うのか?」



「私を脅してるの?」



「まさか、君と話したいだけさ。 昨夜と同じ店にいる。 これから来てくれ」



「店って、ロメロなの?」



「ああ、そうだ。 君との事を、まだ旦那に喋ってないが、あまり厳しい事を言うと、俺は正気じゃなくなる」



「夫には、絶対に言わないで!」



 私は、急ぎロメロに向かった。

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