第4話
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ガコンッ!と落ちた音を聞いて飲み物を手に取り、ベンチに座っている雨に渡す。
「ありがとう」
「…あぁ」
エアホッケーは惨敗だった、ワンサイドゲームとはああいう事を言うのだろう。悔しさで少し返事がぶっきらぼうになる。そんな僕の事など知らずに、雨は次の遊び道具を目で選んでいた。
「次はあれ」
指さした先には所謂、プリクラがあった。
「今日の思い出に、一緒に撮ろうよ」
言いたいことはあったが、抵抗は無駄だと理解した僕は一言、返事だけする。
手際よく設定を済ませる様を眺めているととカウントダウンが始まった。
「えいっ」
「ひっ!」
シャッターが切られる瞬間に脇腹をつつかれ変な声を出してしまう。
「な、なにするんだ!」
「あはは!変な声!」
僕の抗議の声を一切聞き流して雨はケラケラと笑う。現像された写真を見て、また笑いだし、ひとしきり笑うと写真の半分をこちらに差し出してきた。
「よく撮れてるよ、本当に」
絶対変な顔で写っている写真など受け取りたくない。しかし抵抗虚しく、僕の上着のポケットに無理やり突っ込んだ。
「あー、楽しかった、満足満足!」
「それは良かったよ、じゃあもう僕はお役御免でいいかい?」
「それはダメ、次はお腹の虫を満足させてあげなきゃいけないし」
そう言われると、忘れていた空腹感を自覚する。思えば朝から何も食べていない。
「君もお腹空いてそうだし、もう適当に入っちゃおうよ」
手を引かれ、近くにあったファミレスに入る。
「いらっしゃいませ、少々お待ちください!」
少し待つと、奥からウェイターが急いで出てきた。
「大変お待たせ致しました!」
「テーブル席がいいんですけど、空いてますか?」
「ええ、すぐにご案内致します!」
二人でウェイターの後について行き、案内された席に着く。雨はすぐにメニューを手に取ると楽しそうな鼻歌交じりに選び始めた。手持ち無沙汰になった僕は何となく、その場を離れたくなりトイレに行く事を伝え席を立った。
用を足して、手を洗っているとスマホが鳴った。なんて事ないただの通知が来たのを確認すると、同時に時間が目に付いた。時刻は夜十時を過ぎていた。
「こんなに、時間を忘れて遊んだのは初めてだな…」
なし崩し的とは言え、今日死ぬはずだった男が遊び呆けているとは、と鏡に映った自分に吐き捨てた。
席に戻るとおよそ一人で食べるには多すぎる量の食事が並べられていた。
「遅かったね、全部私一人で食べちゃうところだったよ」
それを聞いて正直驚いた、こんなに自由な奴が他人の分まで一緒に注文しているなんて。
「君、すごい失礼な事考えるね」
「テレパスには筒抜けか」
雨は口に料理を頬張りながら、少しだけムスッとして僕を睨みつけていた。
「冗談だよ、ありがとう」
いつものようにまたふん、と鼻を鳴らすとまた小動物のように口いっぱいに食べ始めた。
「いただきます」
それを横目に僕も食器を手に取り食べ始めた。楽しい食事は、いつ以来だろうか。
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