第3話 勝つことは信じること

 啓介の子供が誕生して半年が過ぎた頃、

啓介は自宅に帰らず梨絵のアパートに

泊まる日が増えていた。


「ねぇ、奥さんの所戻らなくていいの?さすがにダメだって」


梨絵は嬉しさを通り越して、焦りが出てきた。

先月は家賃の半分と光熱費まで払ってもらっている。啓介は「梨絵ちゃんと居られるなら、何にも問題ないですよ〜」くらいの勢いだった。


「俺さ、別居しようかと思ってるんだよね」


「…?」


ついにきたかと思ったが、別居なだけで

離婚という訳ではないのだろうかと疑問が

頭をよぎった。


「もうさ、俺、色々と限界だわ。たまに家に帰れば子供の世話を分かっていない、いつもやっていないからよと否定されて、その割にはどこ行ってたのだの、子供の成長には父親の存在も重要だの、俺をいいように駒使いしたいのが見え見えなんだよ。もう慰めて癒してくれるのは梨絵ちゃんだけだよ」


女性目線で考えると、だいぶ都合の良い言い訳をしているなと思いつつも、「梨絵ちゃんだけ」なんて言われてしまうと奥さんに勝っているような気がして、啓介を支えてあげたいと思ってしまう。


「ねぇ、一緒に暮らそう、梨絵ちゃん。今のこのアパートでもいいし、新しいアパートでもいいし。ね?」


梨絵は意外にも冷静だった。


「奥さんは?今の家族は?」


「今、嫁さんと話し合ってるんだ。俺はもうこの家族を続けていけない。離婚してくれって」


「え…」


「けどさ、嫁さん俺に愛情はないって言い切っておきながら、『子供にお父さんがいないのは嫌』の一点張りでさ。愛してくれない人と、形だけ子供のために家族続けるとか無理だよ」


どこまで都合良く話しているかは知らないが、

まぁ一理あるなと梨絵は思った。


「ねぇ、一緒に暮らそう。梨絵ちゃんとなら良い家族になれる気がする。いや、なれるよ。俺も離婚できるように努力するから。俺についてきてくれないか?」


 梨絵は思い出した。どうしてこの男が好きなのか。女性に対して繊細に対応してくれる面もあるかと思いきや、結構俺様で根拠が無くても自信があって、言動の細かな部分に男気があるからだ。啓介のそんな一面に乙女心をくすぐられ、離れたくても離れられなかった日々から抜け出せるのかもしれないと、梨絵は少し期待した。



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仕事はデキるクズ男の過去 しょうゆ水 @shoyusui

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