第24話
ヴェルン王国が把握している限りで、
そのすべてで、
その手法は簡単だ。
単独で王宮に突撃し、向かってくる者を片っ端から血祭りにあげるのである。
なによりの特徴は、その防御能力だ。
その身に刃は通らず、高位の魔法も通じない。
どんな屈強の戦士も凄腕の魔術師も、
保有する魔力量が桁外れなのだろう、と推測されている。
その魔力によって、常に己の周囲に防護膜を展開しているのだろうと。
故にこその、相手の魔力を暴発させる魔法である
ディラーチャとムリムラーチャはそう提案した。
リアリアリアとの検討の末、作戦は了承された。
アリスが囮となって、ムルフィが
それで相手を倒せればよし、負傷させることができたなら、そのまま一気に押し込む。
正直、あそこまで策を巡らせて四本ある腕の一本だけしか奪えなかった、というのはいささか分の悪い取引だったが……。
あとはもう、残りの手札で勝負するしかない。
幸いにして、このヴェルン王国には、他国にはない武器がある。
そして
すなわち、
「下等種どもが! 下等種どもが! 下等種どもめが!!」
空中で躍起になって魔力弾を連射してくる
その魔力弾を翼をはためかせて回避、弧を描いて接近する
そして
先に
「アリス・ジャスティス・クラーッシュ!」
槍を構えて矢のように突進し、すれ違いざまに刺突をお見舞いする。
突進の衝撃で弾かれたのは、おれの方だった。
「させない」
ムルフィが
先ほどアリスと決闘していたときの十倍、百発以上の光弾が同時に放たれ、
連鎖的に爆発が起こる。
おれはこの隙に体勢を整え、かろうじて敵の間合いから離脱した。
ううむ、硬いな……。
やっぱり、最初の
なにせこいつ、主人公たちが一度は負けるほどの相手である。
マリシャス・ペインより格上、それどころか六魔衆という魔王軍最高幹部の魔族なのだ。
なにかギミックがあって、そのギミックを攻略すれば倒せる系の敵ならよかったのだが……。
ゲームだと勇者のイヤボーン頼りなんだよなあ。
:はえー、ムルフィちゃんすっごい
:決闘の時の比じゃないな……
:おれたちの
:アリスちゃんは後輩に助けられて恥ずかしくないの?
「コメントうるさーい! これは役割分担ってやつ!」
:でも突撃があっさり受け止められた以上、実質負けでは?
「はーっ? アリスは負けてないが?」
ちなみに煽ってきているのは王族のひとりだ。
あんにゃろー、あとで覚えてやがれ!
いや、王族に暴言吐くなんてことおれにはできませんが。
と――急に下の方が騒がしくなる。
さっきまで冷静に避難指示に従っていた観客たちの間で騒ぎが起こっているようだった。
おいおい、ここにきてパニックが起こっているのか……?
と思ったら。
:観客を扇動してる奴らがいるな
:え、どういうこと?
:たぶん、魔王軍のスパイが暴れてるんだろ
:近衛騎士団が魔族と戦ってるっぽい
:どさくさに紛れて逃げようってわけ?
ああ、そういうことか。
そもそも
そりゃスパイが観客に紛れ込んでいる、と近衛騎士団も考えるよ。
そいつらが動き出した、となると……。
「こっちは大丈夫だよ、お姉ちゃん。リアリアリア様とテルファちゃんが、怪しい動きをした人を片っ端から操ってくれてる」
シェルがそう教えてくれるが……。
禁術を人に使うなって、それブリーフィングで王子からいわれてたよね!?
緊急事態だから仕方ないけどさあ!!
つーかリアリアリア様まで公然と禁術を使ってるの!?
「おーっほっほっほ、結果的に一部は魔族だったからOKですわ!」
一部、じゃねえか!
ああもう、聞こえないフリをしよう!
:リアリアリア様とテルファちゃんにはあとで偉い人からお話があります
あ、コメントで静かに切れてる人がいる。
っていうかマエリエル王女だ。
おれしーらないっと。
ともかく、いまはなんとしても勝たないと、説教されることもできないのはたしかである。
テルファは周囲に禁術をばらまきながらも、ムルフィとの魔力リンクに関してもきっちりやってくれているようだ。
ムルフィは
とはいえムルフィが大量の魔力を込めた魔法も、
ろくに効いている様子がなかった。
やっぱりこいつを倒すには、こいつの魔力膜を貫けるだけの一点突破のなにかがないと厳しいか。
手があるか、ないか、でいえば、ある。
そのための準備も、だいたい整っていた。
:王宮の方から飛んでくるから、よろしく
コメントのIDはディアスアレス王子だ。
仕込みが終わったらしい。
おれは貴族区と商区の間にある闘技場の上空から、王宮の方を仰ぎ見る。
なにかが、きらりと光った。
次の瞬間には猛スピードで飛来するそれを、おれは両腕で抱きかかえるようにキャッチする。
衝撃で吹き飛ばされて、おれの軽い身体はくるくると回転した。
うぷっ、気持ちが悪い……。
で、改めて腕のなかのそれを確認する。
:アリスちゃん、なにそれ
:え、秘密兵器かなにか?
:杭?
:武器、なのかな?
はい、武器です。
特別製の
それも
名づけて……。
「アリス・マジカル・パイルバンカー!」
:だっさ
:センスがない
:もっと感性を磨け
:どこに出しても恥ずかしい
:ヴェルン王国の恥
うっせーっ!
おまえら、いまはネーミングを気にしてる場合じゃないだろ!
「アリス」
ムルフィの声が耳もとで聞こえた。
よくシェルが使う風の魔法で、おれだけに聞こえる声である。
彼女もこれ、使えるのか。
「それ、あいつを貫けるやつ?」
「うん! 牽制、お願いできる?」
「ん! あいつの始末は、任せた!」
よし、任された!
「とにかく!」
おれは、
「お兄ちゃんお姉ちゃん、アリスに力を貸して!」
:おうさ
:もってけ!
:なにするかわからないけどおれの魔力を使ってくれ!
:やってくれ
:我が王の仇です、お願いします
:うちの国もあいつにやられたんだ、頼む
次々と
それはおれの身体を通して、
トリアの戦いでは、おれ自身が一度に魔力を使いすぎたことが問題だった。
ならば外部機器を接続し、魔力の消費はそっちに賄って貰えばいい、と考えたのがディアスアレス王子である。
あのひと、やっぱ優秀なんだよな。
原因を分析して、即座に対策を打ち出してくれる。
今回、数多いる
即席の改造を施して、まあ短時間なら使えるだろう、とのことである。
耐久性? なにそれおいしいの?
信頼性? それって何語?
そんな代物だが、背に腹はかえられない。
アリス・マジカル・パイルバンカーの先端が虹色の輝きを放った。
夜なら目立つだろうが、いまは真昼で、ムルフィが目くらましとしてバカスカ魔法を放っている。
まあ、あいつはムルフィの禁術によって腕を一本、失っているからな。
いまのところなんの役にも立っていないアリスよりも、彼女の方を優先するのは当然だろう。
だからこそ、
口で挑発するだけの小娘、と思われているくらいでちょうどよかった。
さて、それじゃ。
おれは高度をとって、
「反撃、始めようか!」
太陽を背にして落下する。
「脆弱な幼体ごときが!」
「そのよわよわな幼体から逃げたりしないよね?」
相手も、
逃げようと思えば、逃げられるだろう。
だからこそ、
そのプライドをくすぐる。
はたして、
三つの掌に魔力が集まり、三つの黒い渦をつくる。
「ならばこい、幼体! 受け止めてやろう!」
「あははっ、それじゃ――っ」
おれは落下の勢いを乗せて、アリス・マジカル・パイルバンカーを突き出し、身体ごと
「インパクト!」
衝突の瞬間、おれは魔力をこめた杭を打ち出す。
膨大な魔力が一瞬で解放される。
白い光が視界を覆い尽くし――。
:いった!
:よっしゃあ!
:胸に穴が開いたか
:これは……勝ったな?
おいフラグやめろ。
いや、さすがにもう動けないようだけど。
「馬鹿……なっ」
「馬鹿っていう方が馬鹿なんだよっ。ばーかばーか」
:喧嘩するところ、そこじゃないだろ
:どこに出しても恥ずかしい口喧嘩
:これ国中の人がみてるんだぜ
「あり……えんっ、このような……」
飛行していた魔法が切れたのか、その身が落下していく。
おれは、それを追おうとして……。
右手に握った
突然の右手からの激痛に顔をしかめた。
同時に、がくり、と身体から力が抜ける。
:アリスちゃん、待って、腕が……
:うわっ、右手がちぎれてる
:おい、はやく
:
え?
あ……しまった、
うわあ、ちぎれた手、グロいな……。
慌てて飛んでくるシェルの姿を確認して、おれは意識を落とした。
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