第26話 新学期と新入生
夏休みが終わり、前とは違う、しかしいつも通りの学校生活が再び始まった。それからはあっという間だった。
二期生のうちの学校はテストは4回しかない。長期休み前と後の定期テストで平均点の半分も取れなかった教科が7教科中6つ。俺はいきなり進級ピンチに陥った。これが中学だったら花蓮がイライラしながらも家に教えに来てただろう。
しかし今はいない。もう会うことも少ない俺たちはどちらの状況も知らない。喋り癖のある母さんにはしっかり口止めをして、結果知られず何とか2年に進級した。
あいつがどこに進学するかも知らない。
中学の卒業式があった日、卒業会がうちで開かれたらしいが俺はその場にいなかった。
母さんたちとも話すことが少なくなって、どこに進学するかなんて聞くこともなかった。
春が来た。
入学式の次の日が新学期の始まりだ。
今日は寝坊せずパッと目が覚め、余裕をぶっこいて準備をした。
案の定、ギリギリの時間に家を出た。
どうしていつもこうなんだ、と心の中で文句を言い、どう考えても自分のせいだと気づき何とも言えない気持ちで学校まで走った。
『キーンコーンカーンコーン』
ちょうど正門を潜った時、チャイムが鳴った。
荒れる息をなんとか抑えながらいつも通り教室に向かった。
春休み明けという事もあり、足はとてつもなく重かった。寝起きで体は起きないしちょー憂鬱だ。
『ガラガラガラ』と音を鳴らしてドアを開ける。
正門は潜ったものの一応遅刻だ。当然みんなの注目を集める。
「すんません、また遅刻しましたー」
ぺこりと頭を下げる。
いつもならもう頭をあげているはずだが…今日
上げれない。何故かって?なんの反応もないからだ。
少し頭をあげて周りを見た。
と同時に教壇の方から声がかかる。
「くじょーう、お前はなんとか進級したはずだぞー」
俺の担任の声とは違う声が聞こえた。
ばっと顔を上げると見るからに一回り小さい生徒、男教師で俺の留年回避の立役者である山下先生が目に映りこんだ。
「あ、れ?」
どうやら間違えたらしい。
あぁ、新学期早々おれは間違えたらしい。
「2年のクラスはもう一個上の階だ。せっかく進級したんだからちゃんと行けよなー」
「いやぁ〜、ミスったすわすんませーん」
新入生から若干の笑いをもらいつつ教室を後にしようとしたその時、中央列の真ん中に見覚えのある顔が見えた。
(ん?)
自然と足はもう一度教室に入っていく。
山下先生は「おいどうした九条」と困惑の言葉をぶつけて来たが蓮には全く聞こえない。
足の向く先は中央列の真ん中。他の生徒を退けて向かう。
肩を掴むと目的の生徒はびっくりした素振りも見せずにくるりと蓮の顔を見た。
「お前、ここにしたのかよ花蓮!」
「朝からうるさいなぁ。なんで今日も遅刻してんの、しかも1年の教室だし」
嫌そうな顔で花蓮は喋る。
周りの生徒は呆気に取られて物音1つ立てない。
山下先生も同じだ。
「しゃーねーだろ、ギリギリだったからクラス表もう片付けられてたんだよ多分」
「せめて始業式ぐらい寝坊やめてよ」
はぁとため息をつく。
この感じ、すごい久しぶりのように感じる。
いや久しぶりなのはそうなのだが、それよりも感じるのだ。
「てゆーかいつまでいるの」
「え?…あ」
そこでようやく我に帰った。
やべー早く教室出てかねーと…。
「そんじゃ失礼しまーす」
○○○
「すんません、遅刻しましたー」
「廊下立ってろー」
うちの高校は担任は一年から三年まで一緒に上がっていく。まぁどこのクラスかはランダムだが。
今回も俺の担任は酒焼けらしい。
○○○
始業式の日はすぐに学校が終わる。
おれは急いで家に帰り荷物を置き、葉月家の玄関前で待つ。
30分くらい経っただろうか。
小さな足音と共に花蓮が現れた。
「おせーぞー花蓮、入学式だってのに学校でたむろすんなよなー」
待ちくたびれた蓮は地面に張り付いた尻を持ち上げて悪態をつくように言った。
「たむろなんかしてないわよ」
呆れた口調で花蓮は言う。
「あんたも去年やったでしょ、他学年が帰ってから1年は学校回んなきゃ行けないのよ」
さぞかしめんどくさかったのだろう。
花蓮の表情は口でそう言わなくても語っている。
そりゃそうだ。俺と似ている花蓮だ。去年俺が思っていた事を思うだろう。
「そー、言えばそうだったな。おつかれさん」
「おつかれだと思うならそこどいてよ。早く家に入りたいんだから」
りょっかいりょっかい、と妙に聞き分けの良い蓮に少し驚きつつ花蓮は玄関扉を開けて中に入った。
「…なんであんたも入ってきてんのよ」
「まあまあまあ、せっかくだからゆっくり話そうぜ?」
蓮はそう言って花蓮よりも早く階段を登って部屋に入っていった。
あの人の。 七山 @itooushyra
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