第25話 命日2
「何してんだ?」
少し目元に赤みが残っている。
蓮はただ不思議そうに花蓮のことを見た。
「……いや、命日前にも来ようと思って」
「んー、そっか」
蓮は素っ気なく返し、水桶などを元に場所に返した。
「あ、これ使うか?もう俺が吹いちゃったけど」
「あー、うん、使おっかな」
あいよ、と蓮は言いもう一度元に戻したやつを取り花蓮に渡した。
少し無言が続いた。
奈々姉のことを、蓮には話しにくい。
表面には出さないが、毎回苦しんでいる。
「初めてだよな、ここでお前に会うの」
ケロッとした顔で聞いてきた。
内心そんな顔はしていないんだろうなと思う。
隠すのが上手い。
お父さんとお母さんも二人でそんなことを話していた。
『蓮坊は、小学生の時から上手かったな』
『奈々がいなくなってからは余計にね』
『ああ。誰よりも優しくて、強い。だから奈々も好きになったんだろうな』
『ええ、そうね。不器用すぎるけど、それを知っちゃえば全部誰かのための行動』
『不器用っつーか、やっぱり隠すのが上手いんだよな』
『そんな子だから、全部自分の責任って思ってるのよね』
『ああ、自分も辛いのに謝って、俺たちの前では涙、見せなかったもんな』
『ほんと、優しすぎる子よ』
私はその会話を廊下で聞いていた。
一度だけ、蓮の精神が崩壊したのを知っている。まだ蓮が病院で入院している時だ。
これもお父さん達が話しているのを聞いた。
夜、急に発狂して意識を失ったと。
病院中にその声は響き渡り、他の患者さんも心配して廊下に出ていたらしい。
「まあ初めて前日に来たしね」
「だな」
そこで会話は終わった。
いつもならこうはなってないと思う。
ただ、いつもとは異なるこの場所だから、必要のない会話はいらないのだ。
「そんじゃ、俺は行くわ」
泣いていたことがバレないように、できるだけ目を合わせないようにしていた。
逃げるように蓮は早々に去っていった。
あの人の。 七山 @itooushyra
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