第23話 高校生 後

久しぶりに会いたい、そう思いながら歩いていると見覚えのある後ろ姿が目に入った。花蓮だ。少し舞い上がる心をなだめ、ジョグで花蓮の背中を軽く叩いた。


「…痛いし」


前を見ながらそう言った後に振り向いた。

短かった髪はいつの間にか肩まで伸びていた。久しぶりに会った事と髪型の変化が相俟あいたって姉を感じさせる。


蓮は「ぶはは」と笑い「髪伸びたな」と肩まで伸びた髪をワシャワシャ触った。

花蓮はそれに嫌がることもせず、好きたように触らせる。


「まぁここまで伸ばすのは初めてかも」


「そりゃあ髪邪魔とか言ってたもんな」


蓮はそう言って笑った。

少しテンションが高いせいか変なところでも笑えてくる。


「それがこんな髪伸ばして、どんな心境変化だよ」


花蓮は少し間を置いた。

横髪を指でくるくる絡めたり、解いたり。

少し頬を染めながらムズムズしてる。


「実はね…好きな人が出来たの」


次は蓮が間を置いた。

花蓮の顔を凝視して、見るのをやめる。

でもやっぱり凝視する。


「マジかよ……!」


何度も連呼した。

驚きの顔をこれでもかと貼り付けて。

空いた口が塞がらないとはまさにこの事だった。


花蓮は蓮の目を見つめて、少し体を震わせながら何かを言おうとしてる。


「れ、れん……」


どんどん頬が緩んでいる。

震えもどんどん増していき、何を言おうとしてるのか分からない。


「どうしたんだよ…?」


ついに花蓮は吹き出した。

蓮は戸惑いつつも、何をされたのか徐々に理解した。


「騙されたー!嘘に決まってんじゃん!」


満面の笑みを浮かべ、騙された蓮を嘲笑っている。


「……ったくびっくりしたぜくそ」


花蓮は笑い続けた。

歩くのを辞め、その場で腹を抱えて笑う。

目に涙を浮かべながら蓮を指さし、口を大きく開けて笑った。


何分間か笑い続け「もうお腹痛い」と目の縁についた涙を手で拭った。


「はーーっ笑った。そんな驚く?」


「驚くに決まってんだろ…お前が恋愛なんて」


「ほんとそう、ただ切りに行くのめんどくさくて伸ばしてるだけなのに。………あの驚き顔……ぷっ……!」


また笑い始めた。

次はゆっくり歩きながらも、豪快に笑っている。


「ん?てゆーかそんな驚くのも失礼だよね。謝って」


急に笑うのをやめ、何かに気づいたかのような顔で蓮を見た。


「それはしゃーねーだろ」


「なによそれ」


さっき軽く叩いだけなのに、勢いよくいい音を鳴らして二発背中をぶっ叩いてきた。

これが世にいう倍返しだ。


「くーっ、いてー。久しぶりにやられたわ」

「去年までは週3で朝やってあげてたからね」

「朝のあれは今のよりもつえーよ」

「高校入ってからちゃんと起きてる?」

「まぁ、ぼちぼちと」

「ぼちぼちって……」


たわいもない話をしながら帰った。

久しぶりに会うと話題が尽きない。

別に、こいつと話題が尽きたところで気まずいもクソもないけど、ここまで喋るのは珍しい。


いや、もしかしたら珍しくもないかもしれない。ただ中学の日常がなくなったことでそう錯覚してるだけかもしれない。


いつの間にか夕日は山に隠れ始めた。

歩くスピードは遅くても、その時間は一瞬に感じた。


店の前を通ると母さんが外で掃除をしていた。


「あら、久しぶりに二人でいるわね」


「ちょうどそこで会ってな」


高校に入ってから花蓮が飯を食いに来る時、蓮はだいたいいないだけで母さんは久しぶりと言う訳では無い。


俺だけが久しぶりなのだ。


「今日は食べてく?」店の戸を開けて母さんが

「ううん、今日は大丈夫」多分もう作ってるからと花蓮が。


それじゃ、とそこで二人は別れた。

久しく蓮は店の方から家に入って帰宅した。


「こっちから帰ってくるなんて珍しいわね」

「あぁ、なんか喋ってたらいつの間にかな」


そういえばそうだな、と思いながら厨房にある食べ物を漁った。


「花蓮ちゃん、どんどん可愛くなってない?元々かわいいけど」


「髪長くなっただけだろ」


食い気味にそう言って蓮は家へ向かっていった。


「否定はしないのね」

「まあ、正直者だからなあいつわ」
















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