第22話 高校生 前

難なく蓮は高校に受かり、輝かしい高校生活が始まった。花蓮も同様、輝かしい三年生活が始まった。蓮は昨日入学式を終えて今日が始業式。


蓮の輝かしい高校生活は寝坊で始まった。

中学と高校では始業の時間が少し違い、目覚まし花蓮がなくなってしまった。それのせい、と言うと情けないのでいつもの慣れとでも言おう。これは目覚まし時計が壊れていて鳴らなかったという理由と同じなのだ。


さすがの両親も初っ端から寝坊はしないだろうとタカをくくっていたせいか、蓮を起こしには来なかった。


いつものように服を着替え、いつもより近い学校にダッシュで駆け込んだ。しかし校門を潜った瞬間チャイムがなった。中学だったら諦めなかったがここは高校だ。しかもまだ自分のクラスも分からない。遅刻確定だ。


蓮は諦めて掲示板に張り出せれているクラス名簿から自分の名前を探し出した。


「九条…九条…九条…おっ、あったあった」


一年三組が今日から一年世話になるクラスだった。蓮はクラスの場所を確認して小走りで三階に駆け上がっていった。


三階につくともう他のクラスは何やら教卓で担任らしき人が話している。それを横目に三組のドアを開けた。するとクラスのほぼ全員が蓮の方を向いた。注目の的だ。


「遅刻しました」


「おぉおぉ…気合い入ってんなぁ〜」


酒焼けのガラッガラの声が一番前から聞こえる。「どっかで見た顔だな」と言いながら眉間に皺を寄せて蓮の方をじっと見ている。

声からは想像もできない、この声でまさかの女教師だ。…しかも結構若い。


「どっかで見たんだよなぁ…お前、名前は」


顎を触りながら担任は聞いた。

言動がうちに来る呑んだくれ達だ。


「九条蓮です」


「……。九条!あの九条蓮か!」


だるそうに座っていた腰を勢いよく上げてガラガラ声で驚いている。

まだ小学生の時の名前が残っているなんてな…。


「何?あの人有名人?」

「ここらでサッカーしてた奴なら誰でも知ってるよ」


教室が少しざわついた。

見渡せば知ってる顔がチラホラといる。

中学が近いせいか蓮たちのとこからは割と多めの人数がここに進学する。


「多分その九条っす」


「ほえ〜、まさかまた見る機会があるとはな。やっぱり気合い入ってんな、お前」


「はは、どうもっす」


少し恥ずかしくなり、頭の後ろをかいた。

同時に「廊下に立ってろ」と冷たい声色で言い渡された。


いつぶりだろうか。

中学の頃はそれが多すぎて、立たされる事すらなくなっていた。

そのせいか妙な懐かしさを覚えて一人ニヤニヤと笑っていた。


◇◇◇


ホームルームが終わり、教室に引き戻され、あっけなく学校は終わった。


別に中学より高校の方が楽しいと言う訳でもない。ただ、時が経つのが妙に早く感じた。

日が経つにつれ花蓮と合うことも少なくなった。たまにご飯を食べに来ているだけで喋ることもない。同じ学校じゃなければ、奈々がいなければ、あいつとはそんなに接点はなかったのかもしれない。


時は本当に早く進んだ。

一日が特段濃いという訳もなく、ただ何もやる事のない平凡以下の1日を過ごし続けた。


いつの間にか周りは部活が始まっていた。

つい最近、部活動紹介があったと思っていたがそうでも無いらしい。

中学の時から聞きなれたクラブ活動をしている生徒の声が帰る時に聞こえる。

何かが違うといえば、高校に入ってからは寄り道が多くなった。それはそうだ、金を持って行けるんだからわざわざ家に取りに帰る必要も無い。


今日も篭丸や宏たちと近場のマックに溜まってポテトを食べていた。

高校に入ってからは親が「スマホぐらい持っとけ」と持たされた。別に中毒になることも無く、こーやって集まっている時ゲームを少しやったりメッセージのやり取りをするくらいだ。


「おい蓮、お前に言わないかん事があった」


高校からつるみだしたしゅうがそう切り出した。周はとなりの中学で小学校の頃は何回か試合をしていたらしい。篭丸繋がりで知り合い、最近はよく一緒にいる。


「最近、上の学年で人気になってきてるらしい」


「何がだよ」


宏とウイイレで対戦している最中で、耳だけを傾けて聞いた。


「お前がだよ!蓮!上の学年の女子が!あの子かっこいいって噂になってるらしいんだよ!」


くそおおぉ!!!と喚き散らしている。

あまりの馬鹿っぷりに蓮たちは手をとめて周の方を向いた。


「一体誰情報なんだ?!」


周と同じチームだったつかさがポテトを食べながら聞いた。


「ねーちゃんだよ。俺のねーちゃん2年にいるって言ったろ?それで昨日いきなり聞いてきたんだよ」


「「なんて???」」


宏と篭丸の声が重なった。


「九条くんって彼女いるの?って。どうやらねーちゃん友達が気になってるらしい」


「まじか」


蓮は自慢げに、皮肉たっぷりの「まじか」を放った。


「くそっ!こいつは顔だけだ!くそっ!」


「まあ蓮は知らんだろうが中学ときも下から結構モテてたからな」


「まじか」


篭丸の言葉に蓮は驚きの「まじか」を放った。

確かによくよく考えれば制服のボタン全部なくなったしな…。


「はぁ…しんどすぎる」


「宏、お前は彼女いんだろ」


『そーだそーだ』とここで団結力を見せた。

この中では宏と篭丸が彼女持ちだ。

そのはずなのに他2人と変わらず悔しがっている。彼女に言いつけてやりたい…。


「まぁ、それでだ」


話を戻すぞ、と周が仕切り直す。


「蓮のLINEをくれってうるせーんだ」


「それはすごい」

「ガチで狙いに来てんじゃね」

「どうするよ蓮」


蓮は考える間もなく「却下だ!」と腕を組みながら、なぞに威張りながらそういった。


「来るなら直接来いってもんよ」


「さすがモテ男」と篭丸が

「言うことが違うぜ」と宏が

「言ってみたいもんだ…」と司が


「任せろ、しっかりねーちゃんに報告しとくぜ!」


どうやら周は相当蓮に彼女ができるのが嫌らしい。いや、もうこの中からカップルを生み出したくないのかもしれない。


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