第20話 メロンパン

「おっす花蓮。今日は遅かったな」


「…起きてるなら下に降りといてよ」


次の日の朝、昨日とは打って変わって元気な蓮がいた。いっぱい寝たからか起こす必要もなく、既に制服に着替えて花蓮を待っていた。


「俺の勝ちだな花蓮」


ニヤニヤしながら昨日書き置きした手紙を掲げて見せた。


『蓮 5位 花蓮 6位』


はっはっはっはっ!とわざとらしく高笑いをしている。


「さぁ何を頼もうかな」


「勝負は合計点数でって言ったでしょ」


「なにぃ?そんな事言ってねーよ…」


と言ったが、言っていたような気がしてさっきまでの勢いが霞んだ。

そしてそれが確信に変わった時、勢いは消滅した。


「お、お前は何点だったんだよ」


「462点」


「俺はなんだったんだ?」


「学校にまだ貼りだされてるよ」


そう言うと蓮はドタバダと階段を鳴らしてドアを開き、遅刻しそうな時のように走っていった。


◇◇


学校に着くと蓮は花蓮のクラスで待っていた。

2年生はそれを避けて教室に入っていき、中でコソコソと何やら話している。


「何でいるのよ」


「……何が欲しいんだ」


潔く負けを認めた。

蓮の点数は455点。

思った以上に高い点数に少し驚いたけど、周りの人ほどでなかった。


本人は相当残念なようで、朝とは打って変わって暗い顔を貼り付けている。


「…そんな高いのはやめてくれよ。金全然ねーんだから」


「いらないわよ。先生にどうにかしてやる気にさせてって言われたからやっただけ」


すると顔色がパッと明るくなり花蓮の手を掴んでブンブン振った。


「まじかよ!おまえ、お前はやっぱり良い奴だよ!それじゃあな!」


これでもかと明るくなり、走って自分の教室まで戻って行った。

教室に入ると、「大丈夫か」と心配の目を向けられていた。


「花蓮、あの人どうしたの」


「お金が減らずにすんだんだって」



学校が終わって夜。

部屋で勉強をしてると美波が入ってきた。


「花蓮ちゃん蓮が来てるよ」


「いま?」


「いま」


美波の後ろに目をやると何やら紙袋を持って「よっ」とやっている。


「これを受け取れ」


「いらないっていったじゃん」


「あのままじゃ一生勝てない気がしてな」


「どちらにせよ勝てないし」


カッカッカッと変な笑い方で「んなわけねー」って言いながら部屋を出ていった。下の方から玄関のドアが閉まる音が聞こえ、花蓮は窓から蓮が帰っていく様を見送った。


帰ったのを見てから渡された中身を見た。

中には懐かしいメロンパンが2つ入っていた。


小学生の頃よく奈々姉と買いに行っていたおじちゃんのパン屋。今は月に何回かしか店を開けていない。蓮とは奈々姉についていって何回か一緒に行ったことはあるけど、よく好きなパンを知っていたもんだ。どうせ奈々姉に聞いたんだろうけど。


もう夕飯も食べて少しお腹はいっぱいだったが、我慢しきれずメロンパンかじりついた。




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