第18話 知恵熱

テスト返しも終わった次の日。

昼放課に全体順位が下駄箱前に張り出された。

急いで行くやつや、諦め半分でゆっくり行くやつ、期待もせず教室に残るやつもいる。


蓮はもちろん急いで行くやつ。

……のはずだった。


あまりに頭を使い過ぎた蓮は見事、知恵熱を出して学校を休んだのだ…。

流石のアホさに職員室でも話題になったらしい……。

◇◇


これは順位が張り出される当日の朝。

花蓮がいつも通り起こしに行ったことで発覚した。


「蓮、入るよー」


いつも声はかけるが返事は帰ってこない。

「入るよー」の「る」にはもうドアを開けている。


目の前に広がる光景もいつも通り。

カーテン


「蓮…」


呆れ気味に名前を呼び、布団を剥ぎ取った。

そこで異変に気づいた。

いつもなら文句をタラタラと出しながらナメクジのように起き上がってくる。

しかし今日に限っては布団から熱気を放ち、少し頬を赤くして反応しない。


「蓮?」


花蓮が肩をゆすろうと身体に触ると明らかに平熱の体温じゃなかった。


花蓮は階段を駆け足で降りておばさんのとこに向かった。


「おばさーん!おばさーん?」


応答はない。

たまに家に居ない時があるけどそれがまさか今日とマッチするとは…。


クローゼットの中から体温計を出して、冷蔵庫の中からお茶を取り出し二階へ持っていった。


布団は剥ぎ取られたままさっきと同じ体勢で寝ている。もう一度肩を揺すり何とか蓮を起こした。


「……ん。……おう花蓮、どうした」


「どうしたじゃない。これで体温測って」


「お、おう……」


熱で寝起きのせいか花蓮の言われるがままに蓮は動いた。シャツをゆっくり脱いで脇に体温計を挟む。


昔から体温を測る時は上の服を脱ぐのが蓮だ。

理由を聞くと襟が伸びるからだとか。

まあそれも奈々姉に聞いた事だ。


普通の女子ならここは恥ずかしがるところかもしれない。が、小さい頃から見てればそんな反応するはずもない。


『ピピピ ピピピ』


静かな部屋に体温計の音が無駄に大きく響く。

蓮はだるそうに脇から取り体温を確認した。


「何度?」


「……36.9だ。ちょっと高いけど平熱だな」


そう言って服も着ずに布団をかぶり直した。


「……まだ眠いから寝る」


「ちょっと待って」


布団の中に隠した体温計を取り正確な体温を見る。蓮が嘘をつくことは想定内。なんで隠すかは分からないけど昔から熱の時はこうやって嘘をつく。


多分変な強がりだって奈々姉が言ってたっけ。


「…………」


「38.4じゃん。変なとこで嘘つかないでよ…」


「…………」


布団の中に顔を隠し、一言も喋らない。

花蓮は横の机にお茶を置いて下に戻った。


「あ、おじさん」


「お?花蓮ちゃん!今日も悪いなー」


仕込みが終わったのか、頭にバンダナを巻いてリビングにいた。


「蓮はまだ起きてこないのか?」


花蓮の後ろを見て言った。


「蓮熱だした」


「うお、まじか!」


おじさんはリビングを蓮の部屋に向かった。

花蓮も何故かおじさんの後ろについて蓮の部屋に向かった。


「ほんと熱の時までごめんな花蓮ちゃん」


「全然いいよ、あいつ起きないし」


「そうなんだよなぁ…。俺たちが起こしても起きねーんだよ」


本当に謎だ。

これは誇張なしでおじさんの言う通り。

昔は奈々姉が起こしに行っていた。

子供の時から朝は弱くておじさん達が起こしてもベットから一向に出てこなかったらしい。


「おいれーん」


ノックもせずにドアを開けて中に入っていった。さっきと同じ格好で布団にくるまっている。ベットの隣まで行くと少しだけ顔を出した。


「何度あったんだ?」


「36.9」

「38.4だよ」


蓮の声に被せて嘘をかき消した。

ここまで来ても嘘をつくって…馬鹿だなって思う。


「結構たけーな。病院いくか?」


「いい。寝てりゃ治る」


「まー、そーだよな。そんじゃ今日は寝とけよ」


おー、と静かな部屋でも消えそうな声で返事をしてまた眠りについた。


「そう言えば花蓮ちゃん」


「ん?」


「時間、大丈夫か?」


おじさんは掛け時計を指さして言った。

時刻は蓮が走っていく時間を少し超えている。


「やばいかも」


バックを掴んで急いで家を出た。

部屋を出る時「さんきゅ」とか細い声が聞こえた気もする。

























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