第17話 テスト
三年生はもう受験シーズンの真っ只中。
夏休みをめちゃくちゃ楽しみたいがそうも行かないのが我々受験生だ…。しかし!俺は勉強が嫌いだ!だからやりたくないのだ!
ちゃんとやれば結構テストの点数がいいが、それをやらないのがこの男九条蓮。
今現在、中間テスト一週間前。絶賛ベットの上で漫画を読みふけり中。ガチャりと急に扉が開いた。
「……蓮」
「んあ?」
首だけを動かして声の主、花蓮の方を見た。
「おいおい、もう八時だぞ?」
「そうよ、もう八時!」
ビシッと時計を指さした。
部屋の中に入ってきた花蓮はベットの前に立って蓮に大きな影をかけた。
「どうしたんだよ、漫画読みにくいだろ?」
そう言うと花蓮は無言で手から漫画を奪い去った。
「あんた、内申点酷いらしいじゃない」
「やれば出来るんだぜ、やれば。なんたって俺はやるときゃやる男ですから」
「もう三年だよ蓮。どうせ
「まあな、家から鬼ちけーし」
「内申点足りないでしょ」
「………」
そう、やればデキる男九条蓮。
やらないままここ二年内申点の酷さは学校でもトップに食い込む男。
蓮は花蓮からあからさまに目を逸らした。
昔から部が悪くなるとすぐ目をそらす癖がある。これは昔から変わらない癖だ。もちろん蓮は気づいてないが、葉月家に知れ渡る有名な癖である。
「ちょっと布団被らないで」
「…今日はもう眠いんだ。明日からやるよ」
頭まで布団を覆っているせいで声がくぐもっている。
「昔からそういう時はやらないでしょ」
「いや、今回は違うぞ。今回は…」
「ほら、は、や、く!」
ガバッと布団をもぎ取り冬眠していた動物を外に出した。
渋々と蓮はまずベットから体を起こした。
そしてそこからまた渋り始める。
「もう八時だぜ?今日はやめよ、な?」
説得するように蓮は花蓮に訴えかけた。
この感じ本当にやりたくないみたいだ。
「だめ、今日先生に言われてたんでしょ」
そう、今日蓮は帰り際に先生と一体一で話し合いをしていたらしい。もちろんそれは進路の事で、このままじゃ内申点が足りなくて入試の点数が良くても受からないかもしれないと。
だから今回のテストは頑張ってくれ、と先生に言われたらしいのだが……
「俺はそんな脅しには負けねぇ」
全くやる気を見せない。こんな時に邪魔をする成長した強靭なメンタル、ほんとに邪魔。
「はぁ……。よし、わかったわ」
何がだよ、そんな表情をして蓮は花蓮を見る。
「今回テストの点数で負けた方が何でも1つ奢りね」
「お、おまえ何を言い出してんだよ」
「いい?わかった?じゃあもう帰るから」
それじゃと言って花蓮は一瞬で家を出ていった。蓮はあまりの決断の速さに呆気を取られ、誰もいない場所を見つめていた。
「…………」
これはまずい。
普通の女の子ならそんな高い物は要求しねぇ。しかし、今回の女の子は強欲の花蓮さんだ。どんな高い物を要求されるか……。
「…ちょっとはやるかぁ……」
まんまと花蓮の策にはめられ、渋々とベットから立ち上がり机に向かった。
◇◇
それから二週間。
苦痛なこの時間を耐え忍び、なんとかテストを終えた。
「くぅ〜、やっと終わったー!!」
「何度やってもこの瞬間は気持ちいよな」
「……やべぇ全然解けなかった」
教室の緊張感は一気に緩み色々な声が飛び交った。
「蓮!今日ラーメン行こうぜ!……って」
篭丸の目に映るのは見事に机に突っ伏している男の姿だ。全ての身動きを止められていると言われても全く疑わないレベルで微動だにせずに寝ている。
「おい、蓮…」
肩を揺すっても全く起きる気配がない。
次第にいびきが聞こえてきてどんどんと音が大きくなっていった。
それはHRが始まっても止むことはなく、痺れを切らした担任が蓮の頭を出席簿の角で叩いた。
「いっってぇ……」
叩かれた頭を抑えて、寝ぼけた目で叩いた犯人を見た。
「あのなぁ九条…」
はぁ…とため息をはさんで呆れたように続けた。
「百歩譲って寝るのは構わん、まぁテストだったからな…。ただ静かに寝てくれ、あんなでかいいびきをかかれたら流石に無視出来ない」
担任の最もな意見を教室は頷きながら聞いている。言われている張本人はちゃんと聞いているのか、今にでも寝そうな目で見ている。
「……………………次から気おつけるっス」
かなり長い間を開けてそう言った。
長い間、んーや、流石に短い付き合いでもわかるこれは口だけだって事を。
担任も分かったようで小さく溜め息をついて教卓に戻って行った。
蓮はその後なんとか閉じそうな瞼を開けてHRが終わるまでの間耐えていた。
『キーンコーンカーンコーン……』
終わりのチャイムが鳴って学校が終わった。
蓮は眠たそうに立ち、力の入って居ない礼をすましノロノロと教室から出ていった。
「おいれーん、…って今日は無理そうだな」
「まああれだとな」
「しゃーねー今日は蓮抜きでいくかー」
◇◇
力の入らない足でカタツムリのように歩いて何とか校門を出た。酒の入ったじじいの様に
他学年の生徒は薬中でも見るかのように怯えた目で蓮をちらちらと見ていた。当の本人はそんな事には全く気づかず必死の思いで帰路をひたすら歩いていた。
テンポは定まらず早い時もあれば遅い時も、早い遅い、遅遅早い、早遅遅、と今にでもぶっ倒れそうに歩いている。
それを遠くから見ていた花蓮はさすがに見ていられなくなり、一緒に帰っていた子達に一言言って酔っ払いの隣に沿って歩いた。
その酔っぱらいは気づいた様子もなく、変わらず歩き続けている。
「……ちょっと蓮、蓮、蓮!!」
耳元で大声が聞こえるとさすがの酔っ払いもビクッと跳ねて声の主に焦点を当てた。そして目を見開いてこれでもかと言うほど驚いた表情をして花蓮を凝視した。
「奈………………!」
と少し似てきた花蓮と奈菜の判別すら出来なくなってしまった目をゴシゴシと擦り、言い終える前に留まった。
「…どうした」
「どうしたじゃないでしょ。フラフラしすぎ、ただの酔っ払い」
「…………仕方ねぇだろ、お前が勉強しろっていうから」
喋っているけど顔は寝ている。
まだ話しているからかさっきよりはフラつきは収まっているようにみえる……だけかもしれない。
「とにかく安全に家に帰って」
「……あったりめーだろ………………」
ついには言語も怪しくなってきて、本気でここで眠りそうになっていた。あるくのをストップしては花蓮が押して、ストップしては花蓮が押してとめんどくさい機械を動かしているようだった。
そうこうしている内にやっと蓮の家まで来た。
「蓮、ついたよ。蓮、ついたって」
頬を引っぱたいても、全く反応しない。
花蓮は盛大に溜め息をつき、蓮の肩をもってゆっくりと階段を登った。
「重い……」
ミシミシと階段が悲鳴を、花蓮の太腿もピクピクと悲鳴を上げている。
きっつ、と無意識に声に出しながら何とか登りきると持つのを肩から手に変え、廊下を掃除しながら蓮のベットまで運んだ。
「あんた重すぎ……」
寝ている蓮に聞こえるように少し大きな声で愚痴を吐くがもちろん聞こえるはずもない。
ぐっすり気持ちよさそうにベッドに沈み、小さな寝息を立てて死んだように寝ている。
一息つき、ベットから腰を上げて帰ろうとした時、ふと机の上に目が止まった。そこにはびっしりと引きつまったノートや教科書がそこら中に散らばっている。
こんなに寝てるんだから大体予想はついてたけど、こんなにやっているとは思いもしなかった。
「…やる時はやる男、ね」
今度は起きていても聞こえない声量で呟いた。
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